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スカイ・レコード  作者: 平田公義
第九章
66/118

~部族~ 薄明の都攻防戦〈前篇〉

 まだ朝日も昇らない早朝。張りつめた空気、冷たい外気。空を仰げば、星ひとつない深い青色が広がり、雲がクリームのように溶けていく。


「母艦が離れていく……」


 (サクラ)は木々で覆われたバリアス・ショットガンの銃身に立っていた。バイザーを上げているため、冷たい空気が頬を撫でて赤く染まっていた。


 岩塊の頂点でマルチ・ハープーンと接続したバリアス・ショットガンの固定作業が終わったところでの出来事だ。また、彼女の立っている場所から右方向にある岩塊でも、同じく固定されたバリアス・ショットガンがあった。


 ラミィ族の白黒〔ロゴート〕一機が大まかな作業を行い、仰角を設定。バリアス・ショットガンの細かい初動に(サクラ)と作業機械数機が当たっており、銃身を枝葉で覆ったり、機能の調整などをしなければならない。


「どうしたの?」


 (サクラ)はヘルメットのスピーカーから勇子(ユウコ)の声を聞いて、メガネの位置を直した。


「はい。母艦が三隻――、いえ、今四隻目が、離陸しました」


 凸凹する地形から上がってくる鏡面装甲の反射を見て呟く。


 都の方角で間違いない。一〇キロと離れていても、朝日を浴びて瞬く敵母艦のきらめきはよく目立った。それが続けて二つほど連なって白み始めた空へと上っていく。


 勇子(ユウコ)たち、カルスト地形の溝にたまった朝霧に身を隠す〔ロゴート〕中隊、〔アル・スカイ〕からではそのような反応や動きを察知できなかった。岩塊の頂上ほど日差しはなく、まだ夜のような暗さがあった。


「榴弾の準備、いいの?」


 勇子(ユウコ)は一度、母艦のことは頭の隅に追いやって設置している砲台の様子を問いただす。


「え、はい。準備完了いたしました。皆様への指示をお願いいたします」

「わかったわ。あなたも、早く降りてきて」


 (サクラ)は返答すると、岩と木で固定を終えた〔ロゴート〕が日陰に入って降りていくのを見送る。それから、グローブの簡易発信装置で作業機械たちに集合をかけつつ、傾斜がかかった銃身を下っていく。


 いぶりだしの準備は整った。


 が、勇子(ユウコ)は神妙な顔つきでスケジュールを確認する。


「母艦が離れているとなると、敵も活動的か……。この辺りを放棄するのかもしれないわね」

「ぶつくさと何を言っておる。結果、侵略軍を追い払えればよかろう?」

「敵情を考える必要もあるのです。でも、出航作業中なら効果があるかも」

「ならば、初期の作戦通りに事を進めればよい」


 ミュウはバリアス・ショットガン二丁の諸元を入力し、軽く手を振ってリラックス。


 勇子(ユウコ)も立体スクリーンに出ているスケジュールを消す。


「隊長さん、リャオさん、こちらの準備が整いました。部隊を連れて、手筈通りにお願いします」


 (サクラ)から指揮権を預かった勇子(ユウコ)は〔アル・スカイ〕のそばにつくラトゥ族の〔ロゴート〕とラミィ族の白黒〔ロゴート〕を見やって外部スピーカーで呼びかける。音量は最小限に、集音装置は最大限にしていた。


 作業機械による無線通信を取りやめたのは、彼らのやりやすい方針を取ったに過ぎない。


「合図は一分後だったな?」


 ラトゥ族の族長について、緊張している隊長の声が響いた。隊長機の〔ロゴート〕は右腕部に腕章をつけている。急ごしらえとはいえ、隊長機の見分けをつけるためにキルレやレナンたち、里で帰りを待つ人たちが作ってくれたものだ。


 彼が率いる〔ロゴート〕も二機はラミィ族の白黒〔ロゴート〕を塗装して、ラトゥ族の黒一色のものになっている。性能差もなく、ラトゥ族の操縦者たちは特に不満はない。


「はい。あとは、シャトーさんたちが今どのあたりにいるかが気になりますけど……」

「こちらが動けば、向こうも対応してくれる。それができるって信じたんだろ?」


 ラミィ族のまとめ役であるリャオは操縦席内で軽く首を回し、機体の移動を始める。リャオ機にも腕章がつけれており、上から降りてきた一機を加えた計五機はそれを目印にして後についていく。白と黒のツートンカラーが暗がりの朝霧の中に消えていき、西側に展開していく。


「当然。では、お願いします」

「任せておけ」


 ラトゥの隊長も同じく五機編隊で東へと進軍していく。


 残るは〔アル・スカイ〕に付き従う白黒〔ロゴート〕が二機。彼らは〔アル・スカイ〕に随伴することに緊張しているようで、暗がりの中で放熱策である体毛を震わせていた。


 そこへマルチ・ハープーンを伝って、(サクラ)が降りてくる。マルチ・ハープーンのワイヤーはCDの直径ほどで、作業機械がかろうじてリフト機能を使える太さであった。(サクラ)は列車のように連なって降りる作業機械のワイヤーをハンモックのようにして降りていた。


「ひゃぁ……」


 急こう配ゆえにほとんど露出したエレベーターのようなもので、舌を見れば目もくらむような高さ、背後の岩肌を意識すると背中がちくちくする。


 そうこうして、(サクラ)は〔アル・スカイ〕の肩部に降り立つと、周囲を見まわして気を引き締める。かすかに移動する足音が左右から聞こえて、移動を始めたことを確認する。


「もう始まってる……。みなさん、ご苦労様でした。解散です!」


 (サクラ)は作業機械たちにそういうと素早く〔アル・スカイ〕の頭部へと移動する。作業機械たちも了解して、そそくさと機体を伝ってリア・ラックにあるコンテナへと戻っていった。


(サクラ)、残り三〇秒で作戦開始よ」


 勇子(ユウコ)のせかす声を聴きながら、(サクラ)は操縦席に着く。メガネをはずして、バイザーをおろして視界を確保。操縦桿やペダルの調子も確かめる。遊びはよし、コンソールの反応も良好である。


「はい。わかりました」

「行動を共にしてくれる者たちが緊張しておる。何か、気の利いた言葉をかけてやれ」


 ミュウが僚機の様子を見て助言する。


 (サクラ)はそう言われて、機体を起こしつつ僚機に目を配る。


 確かにこれから〔アル・スカイ〕は正面から都、今は敵の本陣へと突撃することになる。敵の目につきやすく、切込み隊として前に出なければならない。連携を十分にとったことのない〔アル・スカイ〕とでは不安になるのも当然だ。


「みなさん――」


 (サクラ)が外部スピーカーで呼びかけると、〔ロゴート〕二機が弾かれたように頭部を上げる。


「作戦が始まります。しかし、わたしたちだけで作戦を遂行するのではありません。みんなで支え合っています。離れていても、みな、同じ目標に向かっているのです。心配いりません。何かあれば、わたしたち、いいえ、リャオ様やシャトー様、隊長様たちがお守りしてくださいます」


 必ず、と付け加えて(サクラ)は〔アル・スカイ〕を立ち上がらせる。都の方角を正面にとらえる。その前後に白黒〔ロゴート〕二機がついた。


 操縦者からの返答はなかった。しかし、機体の挙動を見る限りには作戦に問題はないと感じられた。


「もう少し気の利いたことは言えんのか? 他力本願ではないか」

「いいじゃないの。事実なんだし」


 ミュウと勇子(ユウコ)の手厳しい通信に(サクラ)は苦笑いを浮かべる。


 この作戦は四方から攻め入るものだ。誰が早くにつこうとも、その戦力だけで応対できる力量が要求される。だから、敵の戦力を分散させるために目くらましを張らなければならない。


〔アル・スカイ〕はマルチ・ハープーンのワイヤーを伸ばしながら、都の方角へと歩みを進める。


 白黒〔ロゴート〕は警戒しつつ、森林を分けていき、長さの限界一五〇〇メートルに達するとへし折った枝木を〔アル・スカイ〕にかぶせて隠れ蓑にした。


「予定時刻を過ぎてるわ。姫様」


 勇子(ユウコ)は努めて平静に言った。


「わかっておる」


 ミュウは時間に対して焦りはなく、立体スクリーンに表示された情報を読み取ってトリガースイッチを押した。


 その信号を受けて、固定されたバリアス・ショットガンからマズル・フラッシュが瞬き、山なりの放物線を描いて榴弾が射出される。


 残光は流星のように尾を引き、全部隊が空に伸び上る光を目の当たりにした。それが味方部隊にとっての合図である。


「仰角、二度のズレがでたわ」

「どうせ、あと二、三は囮だ。問題ない」


 ミュウは落下軌道に入った榴弾を見上げて、敵の動きを待つ。榴弾が敵陣に着弾するならば、それでいい。しかし、相手がそれほど間抜けでないことはこれまでの戦いからもわかることだ。


 そして、落下軌道に入った榴弾に対して迎撃の光が上った。


 薄明の空に瞬くビームが数条奔る。次いで榴弾が巨大な光芒を膨らませると爆音がとどろいた。地上二、三〇〇〇メートル離れていてもわかる強力な爆発である。


「動いた!」


 西側へと走るリャオの部隊はその光芒を見上げて、岩塊の群れを縫っていく。姿勢は低く、直前まで動きを悟られるわけにはいかない。


「予定より遅れていたが、いいだろう。第二射、すぐに来るぞ。距離を稼ぐ」


 東側を走るラトゥ族隊長の部隊も弱まっていく光芒の光を目にして、慎重に進軍をかけていく。


「どう? 動いたか?」

「予想より早い反応よ。パニックになってくれていると都合がいいのだけど……」


 勇子(ユウコ)はバリアス・ショットガンの照準装置から得られる映像やセンサの情報に目を走らせながら言う。


 侵略軍の動きはいまだ見えない。焦らされている感触が、(サクラ)たちの中で渦巻く。


 失敗したのか。敵に作戦の意図を読まれたか。反応のない時間は無益な思考に費やされて、少女たちの気持ちを高ぶらせる。ここで飛び出してしまえば、楽になれる誘惑に耐え忍ぶ。


 でなければ、前後を守る〔ロゴート〕二機を危険にさらすことになる。


 三分程度が経過し、作戦立案の勇子(ユウコ)もいよいよ変更するかと迷ったとき、センサが反応した。


「反応あり! きた!」

「数は?」


 ミュウが呼吸を整えて、立体モニタに出したバリアス・ショットガンの照準画面を見る。二つの射線は都の中心部で結ばれるようになっており、わずかに角度が下がった一射目のバリアス・ショットガンから敵影が確認できた。


「〔アルファ・タイプ〕が三機。慎重ね」


 勇子(ユウコ)もこれには感服する。奇襲を受けてなお、侵略軍には冷静さが働いて先兵を送ったのなら油断ならない。


 (サクラ)は短く息をつく。


「ミュウ様は応戦してください。〔ロゴート〕隊は榴弾ニ発目を撃ったら、すぐに移動しますから、気を抜かないでください」


 (サクラ)が外部スピーカーで呼びかける中で、内線でミュウが割り込む。


「敵の目を引き付けるのが限界だからな」

「わかってます。タイミング、お願いします」


 ミュウは了解、と返答する。


 そして、榴弾を失ったバリアス・ショットガンで対空砲火を張る。伸び上るビーム光は直進してくる〔アルファ・タイプ〕に向かい、編隊を分散させる。


 ミュウもその瞬間には射撃をやめて、敵の動きに合わせる。このまま連射していても、固定砲台だということがばれてしまう。ならば、移動したと見せかける必要があった。


〔アル・スカイ〕は射撃を終えたバリアス・ショットガンとつながっているマルチ・ハープーンのワイヤーを巻き上げて回収作業に入る。


 その瞬間、〔アルファ・タイプ〕の攻撃が転げ落ちるバリアス・ショットガンに集中する。幾多の光が重なって、乗っかっていた岩塊が瞬く間に崩れていく。


「こっちはどうだ?」


 ミュウは回収するバリアス・ショットガンが無事なのを確認すると、間髪入れずにもう一丁のバリアス・ショットガンを発砲する。


 散開していた〔アルファ・タイプ〕を過ぎて、今度はなだらかな放物線を描いて榴弾が飛んでいく。岩塊の上を低空で進み、都へと着弾する。


 爆音をとどろかせ、巨大な雲が舞い上がる。


「着弾、した?」


 勇子(ユウコ)は爆音とかすかな地面の揺れを感じて、半信半疑に言った。


「移動します!」


 (サクラ)はもう一方のバリアス・ショットガンを回収しつつ、〔ロゴート〕隊を引き連れて進軍を開始。先発の〔アルファ・タイプ〕はバリアス・ショットガンがあった位置を旋回し、爆撃をかけている。


「そこに敵がいると思っていてよ」


 勇子(ユウコ)はリア・カメラがとらえた映像を見て、祈るように言った。


〔アル・スカイ〕は隠れ蓑を取り払い、マルチ・ハープーンを巻き上げ終えると、両手のマニピュレーターに得物を握らせる。


〔アル・スカイ〕は早朝の陰に隠れて疾駆し、上空では朝日を浴びてシルエットを明るみにしてる〔アルファ・タイプ〕の編隊が目についた。長距離弾道兵器を使用されるのではないかという懸念。


 二度あることは三度ある。一度の着弾で、侵略軍は動揺しだしていた。


 その間にも、敵陣に対して〔ロゴート〕隊の強襲が始まっていた。


「二度目があたった。いくよ!」


 リャオは都へと進路を取って、侵入する。岩塊の壁を抜ければ、そこは急ごしらえの建築現場のようであった。むき出しの機材や部品、仮住まい、さらに、母艦の鏡面装甲らしいものがそこここに散乱している。


 着弾した榴弾は敵の施設をその爆風をもって吹き飛ばしていたようで、かなりの被害が出ている。


 リャオ機についていた白黒〔ロゴート〕は各機飛び立とうとする〔アルファ・タイプ〕を牽制し、周囲のものを盾として敵機の攻撃をしのぐ。


「攻撃が薄い――、うっ。ラトゥ族のほうに集中されたか?」


 リャオは機体を散らばっている鏡面装甲の陰に隠しながら、その奥で爆音が轟くのを耳にした。


 敵の鏡面装甲は機体を隠すには十分な大きさを保っており、ざっと周囲に目を走らせても瓦礫に混ざって五、六個視界に飛び込んでくる。


 リャオ機はタイミングを計ると、鏡面装甲から飛び出して四つん這いになりながら背部のビーム・カノンを発砲する。しっかりとした足場から放たれたビームが光の矢となって、空中で悠々と飛んでいた〔アルファ・タイプ〕を撃墜する。


「敵は油断している! 畳みかけろ!」


 リャオの指示が爆音に混ざって飛ぶ。心臓が跳ね上がり、のどが熱くなる。


 追随する部下も互いに背中を預けるようにして、上空を旋回する〔アルファ・タイプ〕に攻撃を仕掛けて建築材や鏡面装甲の陰に隠れて攻撃をやり過ごす。


「予想以上の敵の数だ。気を抜くな」


 一方で東側から進軍したラトゥ族の隊長たちは、〔アルファ・タイプ〕の猛攻をしのぎつつ、都に残る一隻の母艦を見つける。それは今まさに飛び立たたんとしており、早くにたたく必要があった。


 進軍を妨げる〔アルファ・タイプ〕の動きは機敏で、過剰なまでに隊長の〔ロゴート〕隊を攻撃している。奇襲を受けて混乱したと考えれば自然であろう。しかし、彼らの低空から迫る射撃は錯乱による攻撃ではない。


「くそッ」


 隊長機は腕を振って僚機を散開させる。


〔アルファ・タイプ〕三機編隊がその速度が生み出す衝撃波を連れて、〔ロゴート〕隊に襲い掛かった。通過した建築資材はぼろ屑のように舞い上がり、視界を遮った。


 都は岩塊から流れてくる風が巻かれる場所でもあり、朝霧の煙幕はない。しかし巻き起こされた土煙が一気に視界を奪っていく。


 間一髪で直撃を免れた〔ロゴート〕隊は地面を転がって、次の攻撃を回避する。


 敵の防衛は強固で、思うように動き回れない。


 隊長は操縦席で脂汗を流しながら、顔を振った。機体を立て直す。ここで自分が倒れるわけにはいかない。その意思は部隊の隊長として、また族長としての意識が彼を奮い立たせて平静さを保つ。


「各機、散り散りになるな! 作戦はうまくいっている!」


 隊長は勢い任せで戦況を言ったが、それは間違いではない。


 侵略軍は消極的な戦闘を見せている。こちらを追い払おうものなら、もっと死にもの狂いに航空戦力を活かしてくるはずだ。母艦四隻の離脱、押っ取り刀な対応は勢いでおす隊長部隊、リャオ部隊を抑え込むことができないでいる。


「――っ!」


 隊長は煙の流れを見て、左側が盛り上がるのをとらえる。


〔ロゴート〕が即座に反応して、ビームカノンを撃つ。煙を引き裂いて、低空から切りかかろうとした〔アルファ・タイプ〕の細い胴体を撃ちぬいた。下半身が崩れて、上半身が無様に地面を転がった。


 脱出ユニットが飛び出すのを目にして、舌打ちするも撃破した〔アルファ・タイプ〕が誘爆しないと踏んですぐさま移動を開始。


「ラトゥ族の援護に入る。爆心地には近づくな、いい的になるだけだ。動け!」


 西側のブロックを突破して、リャオたちが中心へ足を踏み入れる。


 白黒〔ロゴート〕は壊れかけのハンガーを蹴り、残骸が散らばる地面をジグザグに走り抜けていく。東側からは宝石のように輝く朝日が顔を出し始めており、都にも明暗がくっきりと線引きされ始めている。


 ビームの交差が岩塊の陰の中できらめき、煙が吹き荒れる。


 リャオ部隊は接近戦を仕掛ける心構えであったが、その中に飛び込むには相当の勇気が必要だった。やみくもに突進すれば、敵か味方かの区別もままならず、さらには同士討ちということだってありうる。


 リャオ機の後に続く僚機の動きが明らかに鈍くなる。


「ひるまないでよぉ――。何っ?」


 リャオは視界の端でキラリと光るものをとらえて、そのほうに顔を向ける。


 後方から迫る敵の残存機の攻撃に対応して見せつつ、リャオ機は光ったものの正体を見極める。


 北の方角。不穏な音を響かせ、水しぶきを上げて、巨大な機体がゆったりと変形する。


(サクラ)たちのいっていた〔ベータ・タイプ〕か。シャトーたちはどうした!?」


 リャオは川べりに起き上がろうとする巨体を視界の端に入れながら、上空を小うるさく旋回する〔アルファ・タイプ〕を牽制する。


〔ベータ・タイプ〕は長い首を伸ばし、頭部を振って状況を確かめる。螻蛄(おけら)のような主腕部を川べりについて、長い胴体を持ち上げていく。川に浸かっている下半身も太い脚部二変形させて立ち上がろうとする。


 その瞬間、川下のほうから砲身が現れて、〔ベータ・タイプ〕に集中砲火を浴びせる。


 一斉射撃を受けた〔ベータ・タイプ〕の鏡面装甲にほとんどの攻撃が弾かれて、岩塊を破砕し、水を蒸発させていった。しかし、変形途中であった下半身が装甲の隙間に攻撃を受けて爆発を起こす。


 上がっていた上半身が崩れて、川べりに倒れこんだ。


 そして、爆発の余波で大きくうねる川の流れから、シャトー部隊の〔ロゴート〕八機が飛び出す。都の対岸に着地すると、すぐさま岩塊の陰に身を隠し距離を詰めていく。


「出遅れた……」


 シャトー部隊の目的は味方部隊から〔ベータ・タイプ〕を離すこと、また、その破壊である。が、川の流れや敵の索敵網を見誤って目的を半分以下までしか遂行できない。


 しかし、指揮者として抜擢されただけに彼はパニックに陥るようなことはなかった。


「狙いは爆発でできた傷口。敵の火力には十分に注意しろ」


 シャトーが部隊を率いて、注意を促す。心の中では仲間に対する罪悪感もあった。それでも、今は与えられた目標の排除を優先して精神を支えていた。


 その瞬間、〔ベータ・タイプ〕の頭部、そのとがった鼻先に集約された光線が横一線に対岸へ走った。文字通りの爆発的な熱量は障害物を一気に蒸発させて、溶岩のようにその残骸が飛び散る。


 いくつもの尖塔のような岩塊が半ばから一気に崩れていく。


「なんて火力だ。想像以上だ! 各機、散開! やつをこちらにくぎ付けにしろ!」


 シャトーたちは崩れていく岩塊の中を走って、頭だけを器用に向けてくる〔ベータ・タイプ〕をとらえる。頭の強力な光線を都で使われたら、それこそ焦土になって味方が全滅してしまう。


「まったく、心配させないでよ」


 リャオはシャトーの遅ればせな攻撃にほっと胸をなでおろす。


 しかしほっとするのもつかの間、上空から迫る〔アルファ・タイプ〕の銃口に気づいていない味方を発見する。


「避けろ!」


 リャオ機ははじかれたように飛んで僚機を瓦礫の中へと引き込んで、曲線を描いて飛行してきた敵機の攻撃を回避する。


「すみません」

「上にも気を配れ! 走れ!」

「はい!」


 リャオは僚機の動きと合わせて、自機をそのあとについていかせて過ぎ去った〔アルファ・タイプ〕の背中めがけてビームカノンを連射する。


 煙が晴れて、ラトゥ族の隊長部隊と連携が取れ始めると、〔アルファ・タイプ〕編隊は二人一組を基本に各個に攻め立ててくる。


 しかし、高度を取って行動しようものなら、南の空から時折強烈なビームが飛来して、彼らの頭を押さえつける。


 その発射もとは〔アル・スカイ〕である。


「このままでは、消耗するだけだぞ」

「脅かすだけでいいの。そのために二つ銃があるんでしょ?」


 ミュウの切羽詰まった声に、勇子(ユウコ)は屁理屈を並べて意見を却下する。


 空中で止まる〔アル・スカイ〕を地上にいる白黒〔ロゴート〕二機が群がる敵に牽制射撃を行い分散。そのうちに〔アル・スカイ〕は敵のまばらな射撃を掻い潜って、地上へと滑り込む。


「隠れていてはダメよ。もっと攻勢に出ないと」


 勇子(ユウコ)の神経質な声が出た。


「はい。ラミィの〔ロゴート〕は?」

「動き回って、かき乱してくれてる」


 (サクラ)は報告を聞くなり、〔アル・スカイ〕を走らせ上空へと跳ばした。


〔アルファ・タイプ〕は岩塊よりも高い位置を保って、地上をかける〔ロゴート〕の砲撃では効果が薄い。


「下にいる人たちが岩の上に上がってくれれば――」


 (サクラ)は地上から上がるビームの光を目にしつつ、機体を左右にステップを踏ませて〔アルファ・タイプ〕の射撃を回避していく。


 薄明の空に走るビーム光に目を細めて、操縦桿を握りしめる。


〔アル・スカイ〕は高度を上げつて、都の混戦へと近づく〔アルファ・タイプ〕の三機編隊を見つけると一気に急降下をかける。


 バリアス・ショットガンを発砲。


〔アルファ・タイプ〕は左右に大きく開いて旋回すると、上空から迫る〔アル・スカイ〕へと狙いを変える。


「すり抜けざまで勝負を仕掛けるぞ!」

「いいえ。外してもかまいません。他の機体をこちらに注目させてください」


 ミュウの勝気な言葉に対して(サクラ)はそう言った。


 血脈のような暗い溝が広がる大地。僚機の動きは朝霧で見えなかったが、彼らに期待をかける。


「わかった。が、当てにいかせてもらおうぞ」

「どうぞ!」


 ミュウは(サクラ)のはっきりした声に気持ちが軽くなる。期待されている。その思いが彼女の集中力とモチベーションを上げる。


〔アル・スカイ〕はさらに低空にいる〔アルファ・タイプ〕に茶々を入れるようにバリアス・ショットガンを乱射する。


「――ンッ」


 ミュウは闇雲に撃っているつもりはなく、その照準は動き回る敵を仕留めるために働いている。


 事実、放たれたビームは撃墜こそ逃すも、装甲をかすめたり、一時的によろつかせて岩塊に腹をこする機体もあった。そのかいあって、彼らは上空にいる〔アル・スカイ〕を最優先対象とみて上昇をかけてくる。


「敵機、多数! 倒せるの!?」

「やってみせます」


 たじろぐ勇子(ユウコ)(サクラ)は断言する。


〔アル・スカイ〕は脚部のストレス・コンプレッション機構で足場を生成すると、それを蹴って落下速度を速める。ぐっと頬の肉が後ろに引っ張られ、体がシートに埋もれる。


「うっ、くっ」


 (サクラ)は苦しくなる呼吸の中で、舞い上がってくる〔アルファ・タイプ〕の群れをその赤い瞳でとらえる。


〔アルファ・タイプ〕はまるで天に上る竜のようにあたかも一体の生物のように上がってくる。そして、側面から彼らの主力武装が火を噴く。煌びやかに、とぐろを巻いて飛翔することによって彼らは互いの攻撃範囲から味方を外して、波状攻撃を仕掛けてくる。


〔アル・スカイ〕に応戦の余裕はなかった。バリアス・ショットガンを脚部に戻すとマントを引き寄せて、その縦列の横を過ぎていく。

 

 高速で落ちる機体に対して〔アルファ・タイプ〕が反応できたのは一瞬であった。それでも〔アル・スカイ〕にかすめる攻撃もあり、侵略軍側は十分だと判断する。減速しなければ、そのまま地面に激突するのだから。


 上昇をしていた〔アルファ・タイプ〕部隊は対象が過ぎると同時に、噴水のように散らばって追撃軌道に入る。勢いをつけて、〔アル・スカイ〕に肉薄していく。


〔アル・スカイ〕が少しでも体勢を立て直して、減速した瞬間が彼らのねらい目だ。機体性能を信じていなければ、あるいは自身の技量が確かでなければすぐにもボロを出すはず。


〔アルファ・タイプ〕のほとんどが追撃軌道に入った時、〔アル・スカイ〕が高度八〇〇メートルで機体を反転させて、減速に入った。スラスターを全開にして、可能な限り衝撃を和らげる。


 その瞬間、〔アルファ・タイプ〕の一斉射撃が始まろうとした。が、彼らはもっと早くに気が付きべきであったと後悔する。


〔アル・スカイ〕の下。暗がりの大地にそそり立つ岩塊の上で待ち構えていた〔ロゴート〕二機が砲口を向けていたことに。


「――――間に合った」


 (サクラ)がそうつぶやいた瞬間、足元からまばゆい光が嵐のように横間を過ぎて単調な落下軌道を取る〔アルファ・タイプ〕を撃ち落していく。


 たった二機の地上をかける機体の襲撃に、〔アルファ・タイプ〕の編隊は大きく取り乱した。落下で加速をかけたこともあって持ち直しの挙動が鈍重になっていた。なだらか曲線を描いて避けようにも、〔ロゴート〕二機の射撃は正確にその減速した瞬間を打ち抜いていく。


〔アル・スカイ〕の行動の弱点が、自分たちにも降りかかり、損傷を受ける機体が続発する。


「よく反応してくれたわ」

「チームなんだから、連携ができて当然」


 勇子(ユウコ)の感激の声とミュウの感心した風の言葉。


〔アル・スカイ〕が反転し、彼女たちも攻撃に加わる。彼女たちがひきつけていた〔アルファ・タイプ〕部隊はそのまま散り散りになって、距離を取った。


〔ロゴート〕二機の支援を受けて、〔アル・スカイ〕が岩塊に着地すると手を振って射撃を中止させた。


「助かりました。すぐにも本隊のほうへ行きますから、これにつかまってください」


 (サクラ)は外部スピーカーで指示を出して、〔アル・スカイ〕のマルチ・ハープーン二門を射出。〔ロゴート〕二機の足元に銛を撃ち込む。


〔ロゴート〕二機は疑いもせず、ワイヤーを手にして強度を確かめる。


「これで、飛ぼうっていうのか」

「運ぶくらいの出力はあるわよ」

「では、移動を開始します――」


 (サクラ)がそう言った瞬間、都のほうで強力な光と連なる爆音がモニタに映り込んだ。


「何だ!?」

「高熱エネルギー、感知。そんな――、まさか!?」


 ミュウと勇子(ユウコ)が絶句して、最悪の状況を頭に思い描こうとする。


 (サクラ)は胸の内がざわめいて、嫌な想像を振り払うようにして機体の出力を上げていく。


「跳びますよ! 行きますからね!」


 早口に言って、〔アル・スカイ〕はバリアス・ショットガンを修めてワイヤーを握るとスラスターとその跳躍力で空へと跳んだ。一度、空中で〔ロゴート〕二機の重さに機体が引っ張られたが、空中での跳躍と〔ロゴート〕の跳躍を合わせて駆け出すことができた。


 僚機にも動揺が走っていた。そうでなければ、〔アル・スカイ〕のモーションに気を利かせることができたはずだから。


 (サクラ)は後方にも目を配らせつつ、正面に視線を移して顔を目に力がこもる。


 都、敵陣には損傷した〔ロゴート〕が数機、それを庇うようにして動き回る機体がまず視界に飛び込んできた。だが、次に目が行ったのはその数である。予定ではシャトーたちと合流して十八機いるはずだ。


 だが、その数は七機。


「対岸で戦闘の光を確認。シャトーさんの部隊だと思う」


 |勇子《ユウコ〕が岸辺でのたうつようにしている〔ベータ・タイプ〕と対岸から見えるまずる・フラッシュを確認して報告する。


 ミュウは口元をゆがめて、苦いつばを飲み込む。


「押されていたの……。ううん、違う」


 (サクラ)は機体をせかしながら、戦況を分析した。


 こちらが劣性であるなら、わざわざ敵陣の真ん中で戦闘を繰り広げているはずがない。リャオと隊長の指揮に誤りがったとしても、三機の撃墜を許すだろうか。


「あの一瞬で、やられた……。早く、援護に行かないとっ」


 (サクラ)は一度考察を止めて、〔アル・スカイ〕に加速をかける。


 手遅れになる前に早く。その思いが(サクラ)たちの心に渦巻いていく。

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