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スカイ・レコード  作者: 平田公義
第九章
63/118

~部族~ 行進と偵察

 隊列を組んで、カルスト地形が織りなす新緑の脈筋を、ラミィの白黒〔ロゴート〕隊がのっそりと歩き、ラトゥの〔ロゴート〕が岩肌を飛び回り警戒を続ける。


 ラトゥのほとんどの人が馬に似た生物の背にまたがり、〔ロゴート〕が踏み倒して作り出した道を歩いていく。家財道具などは先鋒と後続する数機が預かって、運搬を引き受けてくれた。ラトゥたちは彼らに感謝しつつ、里へ続く道を見据えた。


 そのラトゥ族の流れを監視するようにして、編隊の中心には〔アル・スカイ〕が悠々と歩行する。右腕部を胸部押し当てて、二人の少女の足場を作っていた。


「揺れるものだな……」


 足場に座り込んでいるミュウがそう呟いて、ソーダの入ったボトルを口にする。パイロットスーツの上半身部分を脱いで、ビキニ姿であった。開放的になって、麗らかな日差しをいっぱいに浴びて、春風が肌を撫でる。口の中で弾ける炭酸の刺激に、首を窄める。


「調整するわ。あと、飲みすぎないでよ。あんまり持ってきてないんだから」

「うむ。しかし、アイスがないと少しものたりんな……」


 ハッチのヘリに立っている勇子(ユウコ)はため息をつく。彼女もパイロットスーツの上半身部分を脱いで上の部分は腰に巻きつけていた。キャミソール姿で、薄いスモークのかかったサングラスをかけていた。頬にはまだ湿布が張り付いている。


「贅沢よ」

「けちけちしおって……」


 勇子(ユウコ)はミュウの愚痴を聞きながら、操縦席の方へ足を踏み入れる。そこでは、重傷を負っているキルレがシートに横たえられている。ひざ掛けには緊急用の輸血装置が作動しており、毛布で隠しているが、チューブは彼女の大腿部の動脈に血を送り続けている。


「ごめん。足手まといになって……」


 キルレは上体を少し起こして、勇子(ユウコ)の方を見た。


「大丈夫。これくらい、なんてことないわ」


 勇子(ユウコ)は気持ちを切り替えて、操縦席の方に身体を入れつつ、キルレに微笑んだ。


「順調に回復してるし、この調子なら、すぐにも輸血のチューブを外せるわ」


 驚くべき回復力で彼女は目を覚まし、現在に至る。輸血は順調のようで悪性の症状は見られない。勇子(ユウコ)(サクラ)のような地球由来の人間に比べれば、この星の人間は環境に準拠した肉体変化をしている。それ故の自己治癒力があると思いたい。


 すると、キルレはばつが悪そうに視線を逸らす。


「ごめんなさい。あたしのわがままのせいで」

「ん? ああ、これ?」


 勇子(ユウコ)はちらちらと向けられるキルレの視線から、頬についている湿布に手を添える。そろそろ痛みも引いてきたところだ。それに湿布の生ぬるい感触がどうに気持ち悪い。


「気にしないで。それにあなたに協力したの、あたし自身の身勝手さもあったから」


 勇子(ユウコ)は勢いよく湿布を剥がして見せる。ゴミとなった湿布は丸めてパイロットスーツのケースにねじ込んだ。


 キルレはおずおずと視線を戻して、口を開く。


「じゃあ、おあいこ」

「そういうことね」


 その一言を聞いて、キルレは心の底から安堵のため息を吐き出した。このままうやむやにするのは自分が許せなかったし、戦場が自分が考えている以上に厳しい場所であることを深く胸に刻んだつもりだ。


 そして、父と多くの人によって繋ぎ止められた命を噛み締める。


 勇子(ユウコ)もほっとした表情をして、トラックボール型の操縦桿に手を伸ばす。反転してみえる立体スクリーンの情報に気を付けながら、彼女は器用に機体の調整を行っていく。


「里に帰れるのでしょう?」


 キルレが誰ともなく問う。


「そうだな。何事もなく、到着できれば良いのだが……」


 ミュウはキルレの細い声に心配な気持ちになるも、じっと前を見据えている。


 高い位置から見る景色。大きく上下して、目の前には〔アル・スカイ〕を超える岩塊が幾重にも連なっている。地平線など見えない。上を見上げれば、さがり始めた太陽の光と高い青空が手に届きそうなほど近くに感じる。


〔アル・スカイ〕の頭部も胸部の膨らんだ装甲で確認できない。すると、右肩部に人影がちらりと見えた。


「あの者のを自由にさせてよいのか?」

「リャオさんのこと?」


 勇子(ユウコ)はそう問いかけながら、眉間に皺を寄せて機体のバランスを整える。いくら自動操縦とは言え、こまめに修正を加えなければ乗り心地は最悪になる。針路も少し前を歩く白黒の〔ロゴート〕に付けた作業機械からの信号を追跡しているに過ぎない。それだって電波障害の中での受信で、予想以上に苦労を掛けさせられる。


「そう。あざとい女だと思うぞ」


 ミュウは勇子(ユウコ)の背中を見ながら言う。


 これまでの経緯を鑑みて、彼女たち、ラミィ族がこの機に乗じてテリトリー拡大を狙っているとミュウは考えていた。ラトゥ族の領分に入ってきて、里を簡単に明け渡したのを思うと今後もっと大きなものを要求しようとしている可能性はあった。


 すると、キルレが身をよじってハッチの向こうに見えるミュウに視線を向ける。


「ラミィ族はあまり群を作らない部族だから、そういう賢さはあるかも」

「個人で生計を立ててるの?」

「ええ、わたしたちは狩りとか、暮らしとか、皆で集まってしてるけど、ラミィは一人でしてる。鉢合わせになるときは、彼らは一人」


 キルレは左腕にしびれを覚えて、少し力んだがシートにもたれて楽にする。


 勇子(ユウコ)は額に滲む汗を拭って、サングラス越しにキルレを見た。


「それがこうして隊列を組んで、動いているのはおかしなことかしら?」

「たぶん、おかしいと思う」


 キルレは半信半疑にそう答えた。彼女自身確証があるわけでもない。狩りのテリトリーのことで幾度か鉢合わせになった程度で、それが尾を引いているわけでもない。


 ラトゥ族から見たラミィ族はかなり個人主義的な部族である。それゆえ、部族そのものを嫌悪するようなことはなかった。


 勇子(ユウコ)はなるほど、と呟いて身を引く。


 その時〔アル・スカイ〕がちょうど岩塊を避ける軌道に入り、すぐ横を岩肌が横切って行った。木々を踏み倒す音と共にごつごつとした岩の塊が勇子(ユウコ)の視界に飛び込んでくる。


 勇子(ユウコ)は思わずハッチに両手を駆けて上体を出しながら、その光景を見上げる。影になった頂きの暗さが実に神秘的で、その上をラトゥ族の〔ロゴート〕が飛んで行った。


「ラトゥが知らないだけという可能性もある。でなければ、偵察に出た(サクラ)の身が心配だ」


 座ってソーダを呑んでいるミュウが心配そうな声を上げた。


 勇子(ユウコ)は思わずその方に視線を向けて、風に靡く彼女の甘栗色の髪を見詰めた。


「姫様も、心配するのね」

「当たり前だ」


 勇子(ユウコ)の言葉にミュウは口をとがらせて勢いよく振り返る。


 勇子(ユウコ)は肩を軽く上下させて対応する。一応『導師』を演じているゆえに不当な扱いをされるようなことはないだろう。それでも、ミュウは(サクラ)の事を心配している。『導師』としてではなく一人の人間として。


「おーい!」


 と、頭上からのんきなリャオの呼び声がこだまして、勇子(ユウコ)とミュウは顔を上げる。


 リャオは自分の乗っていた機体をラトゥ族の一人に明け渡して、現在〔アル・スカイ〕に同乗している。どこか観光気分で緊張感の欠片もなかった。


 マントに爪を立てて、降りてくる彼女。その様はジャイアントパンダの木登りを彷彿とさせて、二人はしばらくその光景を眺める。


〔アル・スカイ〕の腕部に降り立った彼女は晴れやかな表情で、勇子(ユウコ)とミュウの間に立つ。


「いやいや、こんな大きなマリーネンはあたしも初めて見た」

「そうなのですか?」

「ええ。そうよ」


 勇子(ユウコ)の問いかけに適当に答えるリャオ。


「他の部族のマリーネンだなんてみたことないもの」


 リャオは単純明快に付け足して、それからキルレが横たわるハッチへと身体を寄せる。


 勇子(ユウコ)は腕の支えを解いて、ハッチに背中を預けながら、リャオを操縦席の方に誘導した。


「この子? 怪我人て言うの」


 操縦席を覗き込んだリャオは勇子(ユウコ)が首を縦に振るのを見て、にこっと笑うと再度キルレの方に向いた。


 キルレは緊張して、強張った表情を向ける。身体を揺すって、なまっている右腕を上げようとする。


 それに対してリャオは敏感に反応し、自分の手先をキルレの前に差し出した。ラトゥ族が臭いで挨拶と識別をする習性は彼女もよく知っていた。


「無理をしない方がいいのだろ?」

「ええ。身体が言うことを聞かなくて」


 キルレはそう言いながら、スンスンと鼻を鳴らしてリャオの腕に鼻を埋める。青臭い匂いと少し柔らかい毛先が頬をくすぐった。


「ありがとう。あたし、キルレ」


 キルレが思い出したように顔を彼女の手から離して、自己紹介をする。


 リャオも優しい顔をして、差し出していた手を懐に入れて、笹の葉を出す。


「リャオ・ニャオだ。笹、食べる?」

「ううん。いらない」

「そう? 落ち着くのにね」


 リャオはそう言って、差し出した笹の葉を自分の口に放り込む。


 それには、キルレも苦い表情をする。ラトゥ族は笹をおいしそうに食べることはない。葉っぱをそのまま口にすることもない。


「リャオさん、いいですか?」

「ん。何?」


 勇子(ユウコ)がリャオの背中にそう呼びかける。


 リャオはキルレにウィンクして、その場を離れると勇子(ユウコ)の隣に着いた。さらにその横ではつまらなそうに〔アル・スカイ〕の腕部にお尻をつけているミュウの姿が見えた。


「リャオさんたちのマリーネンとキルレたちのマリーネンは同型機に見えますけど、何かご存じないですか?」


 勇子(ユウコ)はサングラスの位置を整えて問いかける。


 ラトゥ族とラミィ族が近しい部族であるから、機体もまた同じなのだろうと考えていた。しかし、それは何の根拠にもなり得ない。そもそも、ラトゥ族側だけを見ても、高度な機械兵器を作り出せる技術力があるとは思えなかった。


 では、周囲をゆく〔ロゴート〕はどういう経緯でもたらされたのか。そこが勇子(ユウコ)の中でもやもやした疑問となっていた。


 リャオは腰に手を据えて、空を見上げると唸り始める。それから、たどたどしく口を開く。


「何も――、知らないんだよね。今日、初めて見たから」

「しかし、マリーネンを持っていることは知っていたのですよね」

「もちろん。あたしたちだって持ってるんだから、他も持ってるでしょって」


 リャオの口ぶりは、疑うことなく自分たちが持っているから、という理由で他の部族にもマリーネンがあると思い込んでいる。仮にそれが演技だとしたら、ここまで能天気なことは言わないだろう。


 リャオは腰を下ろすと、ミュウの方に向いた。


「おてんば姫様の国にもあるでしょ?」

「その呼び方、無礼であるぞ」


 ミュウはツンケンした口調で言った。リャオのペースに飲まれまいとする意固地の現れであり、おてんばという図星を突かれたことへの羞恥心から来る反応だ。


「まぁ、そういわないで。この機体がそうなの?」

「いいえ。これはわたしたちの暮らしているスペースコロニーで造られたものです。わたしも詳しい経緯は知らないのですが……」


 勇子(ユウコ)がミュウに変わってこたえると、リャオは彼女を見上げる。びっくりしたように目を丸くしていた。


「ほほう。マリーネンは造れるのか?」

「それはそう――、え? いや、それはどういうことですか?」


 リャオの言葉に勇子(ユウコ)は狼狽する。


〔マリーネン〕を造れるのか、と問いかけてきた。おかしい。その質問は勇子(ユウコ)からすれば至極奇怪なことである。


〔マリーネン〕は彼女たち一族の手によって製造された者ではないのか。


 勇子(ユウコ)はリャオから視線を離して、ミュウに救援を求める。彼女の祖国でも〔リリック〕という〔マリーネン〕が稼働している。整備の手だって行き届いていた。だから、彼女の口から製造していると答えてほしかった。


 すると、ミュウは何かを思い出したように顎を上げる。


「そういえば、よくこのようなものを造れたな?」

「そもそも、スペースコロニーとは何だ?」


 リャオとミュウの質問に、勇子(ユウコ)は思わず額に手を当てて、〔アル・スカイ〕の装甲に凭れ掛かった。


 もっと『ファルファーラ』についての認識を改めるべきであった。彼らの実生活や風土を見ると、自分たちと相違ないと感じていた。その感性はおそらく間違っていないだろう。だが、そこまでを支える歴史はまるっきり違うのだ。


 文明の発展に似つかわしくない巨大兵器が跳梁跋扈している時点でもう少し疑問に思うべきであった。未確認勢力の台頭やそれ以前からあるとされる機動兵器〔マリーネン〕の歴史を。


 そして、『導師の伝説』についても。


               *     *     *


 ラトゥ族、ラミィ族が都と称している場所は、大河を背にした巨大な交易都市である。


 見た目は巨大な空き地のようなところで、そこにラトゥ族、ラミィ族、他にも多数の部族が寄り集まってマーケットを開き交易をおこなう。偏った地域配置をする彼らであるが、山菜や川魚、狩猟で取れる肉も限界がある。それらを持ち寄って互いに欲しいものと交換する、原始的な市場だ。


 そこに行政局や寄り合いのための役所がぽつんと建っている程度で、誰かが統治しているような場所ではない。また、その周囲には大河から引いた数本の支流がそれぞれの部族の生活水を送る仕組みをしている。


 都は生活水の拠点であり、他部族との唯一の交流の場。この地にすむ多数の部族にとっては、大切な場所である。


 (サクラ)はそう偵察に付き合ってくれているラミィ族のハンから聞かされて、イメージを膨らませていた。


 が、都から南に五キロ地点。


 (サクラ)は高い岩塊の頂上で持参したデジタル双眼鏡を覗き込んで、現状の都の状態に息を呑んだ。ハンチング帽には付け焼刃の葉っぱをかぶせ、メガネの位置に気を付けて双眼鏡を扱う。パイロットスーツのファスナーを胸元まで降ろして、少しだけ胸の圧迫感が和らいで新鮮な空気を肺いっぱいに送り込む。


「どうです? この距離からでも見えますか?」


 ハンの声がこだました。


 頂きにあるわずかな茂みに白黒の〔ロゴート〕がうつ伏せになって隠れている。機体の目は幅広い視界と遠くを見渡すことができて、操縦席に座る彼には拡大画像で現状の都が見て取れた。


「はい。見えております」


 (サクラ)は自分の屈みこんでいる場所に気を付けて、振り返る。正面には低木の葉が生い茂り、彼女の身体を隠してくれている。が、そのすぐ先は断崖絶壁のために、自分の位置には慎重にならなければならない。


「要塞化、といえばよいでしょうか?」

「戦力を補強しているとみて、よろしいかと」


 (サクラ)は慎重に敵情を見ながら意見する。


 再度、双眼鏡を覗き込む。


 都には彼が話していたような情景はなく、代わりに無機質でアトランダムな並びに思わず目を細める。未確認勢力、侵略軍の母艦が五隻、居城となっていた。そして、〔アルファ・タイプ〕数機が簡易的なハンガーで修理を受けていた。バチバチと跳ねる光の閃光がそれを物語っている。


 さらに、その背後に流れる大河に目をやれば、銀色の鯨を思わせる巨大なシルエットが一つ太陽の光を反射させて浮かんでいる。〔ベータ・タイプ〕だろう。


「以前よりも、数は減っていますね」


 ハンが以前偵察をした時のことを思い出して、そう言った。


「いつのころでしょうか?」

「一週間くらい前でしたか……」


 一週間前と言えば、(サクラ)たちはまだレルカント領に滞在していたころだ。


 敵が〔アル・スカイ〕の動きを察知して移動下した、と楽観的な考えが浮かぶ。しかし、すぐに(サクラ)は首を横に振って否定した。


 それでは話がうますぎる。


「ラトゥ族の里を奪還されて気圧された、と思いたいですけど……」


 (サクラ)としては、そう考えるのが自然だと思った。


〔アル・スカイ〕単機の戦力では、隊を組んで行動する侵略軍を引っ掻き回すのが精一杯。崩せるだけの力を(サクラ)たちはもっていない。操縦者としての技量が大きく影響している。


 だが、実際に里を解放したのはラミィ族の〔ロゴート〕隊である。不意を突かれたかどうかはおいて、原住民の底力を思い知ったはずだ。


 そして、原住民であるラトゥ族、ラミィ族と手を組んで、組織戦を挑まれた思えば、侵略軍も動揺する可能性はある。


 さらに、この地域には多くの部族がまだ息を潜めて暮らしている可能性が高い。それらがより集まって総攻撃を仕掛けてこられたら、侵略軍側にはたまったものではないだろう。


「他の部族の方と接触したことはございませんか?」


 (サクラ)はまず他の部族との接触を念頭にして、ハンに問うた。


「我々は、ラトゥ族と会ったのが初めての事なのです。他の部族がどうなっているかまでは把握しかねます」

「わたしたちだけで、どうにかするしかありません……」


 あっさりとした返答に(サクラ)は双眼鏡を離して、目頭を揉みながら悩む。


 都を解放できれば、侵略軍に脅える人々を迎え入れることができるはずだ。周りの岩塊は自然の城壁。広い土地と豊富な森林、大河があれば居住区を築くことは可能なはずだ。


 それにこの場所が都と呼ばれ、重要とされているのならば、他の部族も見に来ているかもしれない。


「引き上げましょう。作戦を考えます」

「ですが、勝てるのでしょうか?」


 ハンが不安げに問う。


 能天気なラミィ族でも、直面している現状を見誤るようなことはしない。都に構える侵略軍の数が減ったとはいえ、戦力比はまだ相手側が大きい。


 (サクラ)も眉を顰めて、胸元で手を合わせて押し付ける。


 敵の索敵範囲ギリギリまで近づいてくれた操縦者をもってして、不安はぬぐい切れていない。戦闘に長けていたラトゥ族でさえ、機体数を四機にまで落とし込まれたのだ。彼らに自信がなくなってしまうのも頷ける。


 (サクラ)は震える手を高鳴る胸元から離して、〔ロゴート〕の方に顔を向ける。


「このままじっとしていても、敵が万全の状態で里に戻ってきます。こちらから、打って出ましょう。ハン様も、こうして敵の懐近くにまで潜り込んでくださいました」


 (サクラ)は真剣な顔つきで言う。


「ラミィ族は決して弱い部族ではございません。その力を全力でぶつければ、崩れない敵は御座いませんよ」

「はい。その言葉をみなにも言ってやってください」

「ええ。では、戻りましょう」


 (サクラ)はそう言って、中腰姿勢で〔ロゴート〕の方へ身を引いていった。

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