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スカイ・レコード  作者: 平田公義
第三章
25/118

~結成~ 小惑星帯混戦〈後編〉

「反応、ありました?」

「ええ。確かに、シャトルの反応があったわ!」


 (サクラ)は迫りくる小惑星帯(アステロイドベルト)の数々を視界に捉えながら、〔アル・スカイ〕を鋭く飛行させる。


 勇子(ユウコ)はバブルスクリーンに記録されたマーカー、シャトルの位置を確認しながら、追撃してくる敵機の数を確認する。


 センサが捉えられたのは十数機。どれもが未確認勢力の機体だ。


「シャトルの護衛隊はどこに?」

「シャトルの方へ戻ります。ルート指示をお願いできますでしょうか?」


 (サクラ)からの催促に、勇子(ユウコ)は待ったをかける。


 追撃してくる相手も気になるが、『ノア』の護衛部隊が見えないのが気になる。待ち伏せか。だが、迷っていても敵の追撃をいつまでも引き付けていられない。


 一か八か。


 勇子(ユウコ)は覚悟を決めて、周辺宙域の情報を瞬時に解析して(サクラ)に転送した。


「ルートは五つ。あとは、任せるわ」

「はいっ! 姫様への通信をお願いいたします」

「無論だ」


〔アル・スカイ〕は機体を捻って、眼前に迫る小惑星に着地する。脚部を極限にまで屈伸して、元来た宙域へと跳んだ。


 岩塊のように擬態した未確認機たちが驚いたように、四方八方へ散開する。その際には背部から突き出たユニットから閃光弾を散布して、目くらましの花火が瞬いた。


 目を焼くような閃光が真っ暗な宇宙に輝き、小惑星を浮き彫りにする。


「くっ————」


 (サクラ)は唸って、〔アル・スカイ〕の操縦桿を引いた。


 減速し、ノイズの多いセンサで身近な障害物を割り出し、回避。コンピューター任せの回避運動は直角的であったが、閃光に埋まった小惑星を捉えて衝突を避ける。


 しかし、避けたと思った岩塊が刹那〔アル・スカイ〕の脚部に絡みついた。


「取りつかれた!?」

「敵ですか!?」


 徐々に回復してゆくモニタ。CGコンピューター・グラフィックで再構成される映像だが、センサの後遺症で黒い斑点がところどころあり、回復に手間取る。


 (サクラ)は足元に広がる宇宙と〔アル・スカイ〕の脚部に未確認機の腕がまとわりついているのを確認する。


 ミシミシと装甲を潰さんとする敵の握力に次々と警告ウィンドーと損傷報告が列挙される。


「足にだって、あるのです」


 (サクラ)は瞬間、コンソールを弾いてフットペダルを踏み込む。


〔アル・スカイ〕はよろよろと小惑星群の中を飛行しながら、脚部のエネルギー循環を高める。腕部のストレス・コンプレッション・ハンドと同様の機能が脚部にも備わっている。


 まとわりついていた敵の腕は表層で展開される高エネルギー障壁によって砕け散る。荷電重粒子がおろし金のごとく装甲を削り取ったのだ。


〔アル・スカイ〕は足元の敵機を踏みつけると、加速をかける。ドッと脹脛のスラスターが瞬き、巨体が宇宙空間で舞い踊る。


 隠れていた未確認機が背後から追撃。上下左右の角度のある十字砲火が飛来し、外れたビームが〔アル・スカイ〕周辺の小惑星を砕いていく。


「見境ないな……。もうすぐ、反応があった地点だというのに——」

「どういたしましょう?」

「戦おうにも、こっちの武装では————」


 勇子(ユウコ)が逡巡している間にも、砕けた岩塊が〔アル・スカイ〕に襲い掛かる。霰のように降りかかる破片は強力でマントをもってしても威力を抑えきれない。


 激震に二人は体を強張らせて、機体も『ファルファーラ』へ弾かれてしまう。敵の数が多い。このままではシャトルと接触することもままならない。


 (サクラ)は奥歯を噛み締めながら、〔アル・スカイ〕を立て直して周囲に目を走らせる。むせかえるような熱気がヘルメットの中にこもる。


「このままでは……」


〔アル・スカイ〕は即座にその場を移動して、小惑星の影を利用しつつ未確認機の攻撃を避ける。


 と、上下から迫る数条のビームに未確認機の編隊が散らばった。〔アル・スカイ〕もその熱量を探知して、岩塊に擬態している未確認機がその方へ注意が向いたのを確認する。


「護衛隊は、わたしたちを囮にしたようね」

「護衛隊……、〔カムシャリカ〕というアーム・ウェアですか?」


 (サクラ)は攻撃の嵐が止んでほっとしつつ、〔アル・スカイ〕の調子を見た。大丈夫、まだ十分に戦える。


 勇子(ユウコ)もバブルスクリーンに映し出される混線状態の縮図を見て、ツンケンした表情になる。


「調子いいのよ。けど、こっちもシャトルに接近できる」

「はい。行きます」


〔アル・スカイ〕は急いでシャトルのあるだろう方向へ飛んでいく。


 一方で挟撃に成功し、混戦状態にもつれ込んだ〔カムシャリカ〕隊と未確認機は小惑星を盾にしつつ、銃撃の応酬を繰り広げていた。ビーム光が交錯し、次々と目標ではない小惑星を破砕していく。


 その中で、小惑星に背中を預けて破片をしのぐシャントッド・コーディルの〔カムシャリカ〕があった。


「まだ慣れないか。まったく、白いアーム・ウェアだって利用したというのにっ」


 それは自身の不甲斐なさだ。


 小惑星帯(アステロイドベルト)での戦闘に未だ勘を取り戻せない己が、憎い存在である〔アル・シリーズ〕を囮にしてまでしている。そして、襲撃者を足止めするのが手一杯という現状が許せない。


 味方機の〔カムシャリカ〕は次々と勘を取り戻して、ビームの中をかいくぐって格闘戦へ引き込んでいく。可変式の未確認機も人型になって、手首から斬撃用の武器を取り出す。


 ビームの刀身が交わり合い、干渉ノイズと閃光があたりを走った。


 その光に目を細めて、シャントッドは自機をジグザグに後退させる。敵味方が閃光を目くらましにして、小惑星群を駆け抜ける。


 上か、下か、右か、いや、左!


 シャントッドは機敏に動く機影を捉えて、ビーム・ライフルを発砲。収束した光が岩塊を貫いて、未確認機の装甲に命中。


 しかし、手ごたえがない。障害物の貫通で威力が減衰したのか、小惑星から這いあるようにして人型になった未確認機が飛び出してきた。


「————っ」


 逆さまの敵。


 シャントッドの〔カムシャリカ〕は空いているマニピュレーターからビーム・ソードを展開。敵機も取り出した発振装置を手にすると斬りかかってきた。


 光の斬撃がモニタを埋め尽くす。初手は大振り。続いてくる小手先の連携技には、〔カムシャリカ〕が頭部バルカンを放出して動きを鈍らせる。


 未確認機は大きな腕部でバルカンの弾を防御しつつ、横間へ回避。小惑星を盾にして、攪乱する。


「捉えきれないのか。この機体では?」


 推進器の光がない以上、〔カムシャリカ〕のセンサでは未確認機の軌道を正確に追跡できない。わずかな光の偏光を追っても、一呼吸遅れる。


 警報が鳴り響いた。


「だから、後ろを取られる!」


 シャントッドはすぐさま自機のビーム・ライフルの銃口を脇に回して、後方から迫る敵機に向ける。斬撃に拘った未確認機はその動きに怯んだ。


 ビームの光が瞬くと、今度こそ未確認機の張り出した胸部を打ち抜いた。


 そして、これまでにない巨大な爆発が襲い掛かった。動力炉に直撃したのか、凶暴な力の奔流がシャントッドの機体を襲って、小惑星を粉々に粉砕する。


「くっおお!」


〔カムシャリカ〕はビーム・シールドを張って、爆発に耐える。


 強大な爆発は周りに散らばる小惑星をも吹き飛ばして、ビリヤードのように弾き合う。


「あ、あああ!」


〔カムシャリカ〕の一機が突如飛来してきた岩塊に激突して、さらに進行方向にあった岩塊に挟まれる。力任せな圧殺。動力が暴発しなかったのが幸いして、味方機はどうにかその惨状を目にすることができた。


「何を考えている! こんな場所で動力炉を爆発させるんじゃない!」


〔カムシャリカ〕を率いる隊長は自分に言い聞かせるように叫んだ。糸の絡まった操り人形のように漂う潰れた味方機の死に方は考えたくもない。


 そこを〔アル・スカイ〕が過ぎ去って、シャトルへの接近を試みる。


「————ひっ」

「無暗に攻撃するとこうなる」


 (サクラ)勇子(ユウコ)は未確認機の大爆発と〔カムシャリカ〕の潰れた残骸を見て背筋が凍りつく。


 未確認機の爆発で戦闘状態から離れることはできたが、シャトルの予想ポイントに近づいている。戦闘を引っ張り込む形にするのは危険すぎる。


 勇子(ユウコ)は〔カムシャリカ〕と未確認機の混戦を読み取って、早口に言う。


「今のうちにシャトルに接近。姫様を回収————」

「ダメです。見つかりました!?」


 (サクラ)は機体をバック転させて、メイン・スラスターを全開。針路を変える。その足元をビームの光が走り抜けた。


 二人の足の裏にピリピリする感触があった。


「ごめんなさい。見落としていたわ。未確認機、真下から来る」

「————はい!」


 (サクラ)は〔アル・スカイ〕を鋭く小惑星の中を飛ばしたが、敵も執拗に食らいついてくる。


「これでは、姫様をお迎えできません」


〔アル・スカイ〕はどんどんシャトルから離れて、戦闘宙域に引き戻されていく。このままでは(サクラ)たちの体力がすぐに底を尽きてしまう。


 攻撃しようにも火器管制のシートは空席。携行、内蔵する兵装は本来の力を出せない。


 (サクラ)勇子(ユウコ)は歯噛みしながら、今は敵の追跡を振り切ることに専念した。




「お待ちください! 皇女殿下!!」

「ええい! わらわは急ぐ! この扉を開けよ」

「この先は宇宙なんです。いけません」


 シャトルの中でミュウ・ミュウレーヌ・レルカントがキャビンクルーの制止を振り切って、エア・ロックに張り付く。


 (サクラ)たちが迎えに来ている。そう思うとじっとしていられず、無鉄砲にも宇宙へ繰り出そうとしていた。


 エア・ロックの解除コードはわからないし、『ノア』の言語など読めない。だが、微かに光るグリーンのランプ近くにあるカバーつきのボタンに目が留まる。


「これを押せば、開くのか?」

「緊急用のパージボタンですよ、それ! やめてください!」

「押したら、私たちまで宇宙に放り出されてしまいます」


 ミュウは慌てて横につくキャビンクルー二人に目配せして、その腰を叩いた。


「だったら、開けよ! わらわはもうこんなところはこりごりだ。頭のネジが跳んだということだ!」


 ミュウは覚えている錯乱したときの表現を口にして、クルーに怒鳴りつけた。


 キャビンクルーたちはそれが意識的であるのを知っていたが、自分たちの宇宙服に無線が入っているのを思えばそれは言い訳にもなった。


「私たちも命は惜しいですからねっ」

「そうだ。でなければ、このボタンを押すぞ!」

「無茶苦茶なんだから――」


 キャビンクルーの一人はてきぱきとエア・ロックの内壁を解除する。もう一人はミュウの宇宙服を軽く点検して、ヘルメットをぶつける。


「救難信号、それに信号弾がありますから、何かあったら使ってくださいよ」

「どこに?」

「グローブのここと、腰の筒です。ご武運を」

「すまないな」


 ミュウは指示された通り、グローブのコントロール装置にある救難信号のスイッチを押しながら、エア・ロックの中に流れた。


 キャビンクルー二人は怒った顔をしている。


 対して、ミュウは最後に手を上げて、さよならと告げた。


 内壁が下りて、エア・ロックの内で赤いランプが点滅。減圧が開始される。同時に宇宙服がそれを感知して、与圧をかける。肺を押しつぶされるような感触を味わって、息を吐き出しながら、手すりにつかまった。


 ほどなくして減圧が終わると、宇宙へつながる外壁の扉が開く。


 真っ暗な宇宙。巨大な小惑星が目の前に立ちはだかる。


「…………ん」


 生唾を飲み込んで、ミュウはおもむろに床を蹴り上げる。


「うあ、ああん!?」


 ミュウの体はくるくると回転しながら、目の前の小惑星へと迫って激突する。幸い、速度がついていなかったために宇宙服も無事だったが、体を打ち付けた痛みは想像以上だ。


 ミュウは震えが収まらない体でカエルのように岩塊にしがみつく。


「わらわは、一体、何をしているのだ? これは————、これはおかしいぞ?」


 自分の行動力に驚きながら、へっぴり腰になって凸凹の岩塊を這うように流れる。


 とにかく戦闘の光を確認しなければならない。とにかく〔アル・スカイ〕とコンタクトを取らなければならない。


 その一心で様々な恐怖に立ち向かう。息苦しい感じ。視線は明暗がはっきりするまで岩塊に固定。不意に宇宙の暗闇を見たら、今度こそ何もできなくなってしまうかもしれない。


 手元に光が当たる。


 ミュウは顔を上げて、目に見える光景に圧倒された。


 太陽と、膨らんでいく光芒の数々に心臓が押しつぶされそうだった。宇宙の中で力強く、狂ったようにはじける光は本能のきらめきにも似ている。


(サクラ)たちは————、うっ」


 ミュウの頭上をわずかなビーム光が過ぎ去っていった。チリチリと微粒子が舞って、干渉波が頭を抑え込む。


「流れ弾がここまで?」


 涙ぐみながら、激しく震える自分の体を思う。


 意識は興奮していても、体がついてこれない。極度の緊張で汗が止まらない。早なる心臓が血の巡りを早くする。


「早く、早くしなければ——」


 ミュウは理性を繋ぎとめながら、腰についている信号弾を手にする。


 (サクラ)たちのもとへ行かなければならない。一瞬、疑問が浮かんだがすぐに解はでた。


「迎えに来てくれたんだ。待ってるなど、わらわではないっ!」


 ミュウはゆっくりと立ち上がって、しっかりとブーツのスパイクで地面を噛む。そして、手にしている信号弾のひもを引いた。


 ポッと信号弾が戦闘宙域へと飛んで、赤い光を煌めかせた。目立つその色はある意味で賭けだ。〔アル・スカイ〕ばかりではなく、未確認機や〔カムシャリカ〕を呼び寄せることになるやもしれない。


 だから、どうしたというのだ。


 ミュウは足がすくみながらも、覚悟を決めた瞳を戦闘宙域に向けていた。


「信じずして、友と呼べるものか」


 小さな、小さな友情という言葉を胸に彼女はここに向かってくる機体を目にした。




 信号弾の光はすぐにも勇子(ユウコ)の索敵網に引っ掛かった。


「救難信号だなんて、一体誰がやってるの? 無茶苦茶よ」

「けど、放っておけません」


 (サクラ)の言葉に勇子(ユウコ)は一瞬きょとんとしてしまう。そして、破顔してトラックボール型の操縦桿を操作して、周囲の状況を即座に分析する。


「こういうところ、リーダーなのよ、あなたは」

「はい?」

「敵機後方、三機。〔カムシャリカ〕も二機追随してる」


 勇子(ユウコ)のつぶやきが気になったが、(サクラ)はすぐにその赤い瞳を信号弾が上がった方向に定める。


「少しの間、わたしが射撃で敵を分散させる。その間の道順はあなたに任せる……」

「はい。やってみます」


〔アル・スカイ〕は今、勇子(ユウコ)が割り出した軌道から予測進路を(サクラ)に伝えている。(サクラ)が直感的に軌道を変えても目的地点を見失わなかったのは、勇子(ユウコ)の適宜修正があったからである。


 しかし、それが数秒の間とはいえなくなるのは、〔アル・スカイ〕の進行方向に細心の注意を払わなければならない。太陽の位置、『ファルファーラ』の位置がわかっていても、高速で巡る宇宙の景色を即座に判別して動くのは難しい。


 しかし(サクラ)は消えていく信号弾の色を目に焼き付けて、三次元の空間を頭に叩き込む。予測針路、バブルスクリーンに出された周辺宙域の模型を見比べて短く息を吐いた。


「お願いしますっ」

「了解っ!」


 二人は行動に移った。


〔アル・スカイ〕は両脚部のハードポイントに携行するバリアス・ショットガンの銃口を追撃してくる未確認機、〔カムシャリカ〕に向ける。


「散弾なら——っ」


 勇子(ユウコ)はつぶやいて、トリガーを引いた。


〔アル・スカイ〕のバリアス・ショットガンから、ビーム粒子が弾ける。花火のように散らばったそれらの光が突進してくる追跡機体を拡散する。


 命中しなくていい。とにかく、追跡してくる敵を牽制しなければシャトルには近づけない。


 もう一射して、〔アル・スカイ〕はビームの閃光を受けて、鋭角に切り込む軌道で突き進んだ。


 (サクラ)の目の前を過ぎる数々の小惑星。四方八方からくる圧迫感の中で、定めている方向だけを集中する。視界の上下左右も関係なく、踊る様に機体は合間を駆ける。


 勇子(ユウコ)のサポートはないも、彼女が示したシュミレーションは的確で(サクラ)の直感的な操縦をカバーしてくれた。


 未確認機のビームが横間を掠めて、前方の小惑星を砕いた。


「う、ああ」


 宇宙に出て、ゆっくりと前進していたミュウは別の小惑星にしがみつき、飛散してくる破片をやり過ごす。真空の宇宙空間で、ビリビリと肌を痺れさせる波動を感じた。


「近い————、うっ」


 ミュウが少し顔を上げた瞬間、目にもとまらぬ速さで巨大な機影が頭上を駆け抜けた。〔アル・スカイ〕だ。それに続く影が一つ、二つ。


「通り過ぎたじゃないか!?」


 ミュウは震える声で背後に叫んだ。


「誰か、いた!?」

「姫様の声ですよ。記録残ってますよね?」


 (サクラ)勇子(ユウコ)はかすかに捉えた人の声に反応して、機体を一八〇度回頭。


 岩塊のような未確認機と対峙する。刹那のうちにすれ違う。未確認機はドリフトするように宇宙を滑って、左右に分散する。挟撃に打って出る態勢だ。


〔アル・スカイ〕は速度を緩めつつ、索敵に尽力する。勇子(ユウコ)が全神経を注いで、宇宙にいるだろう人を探す。岩塊は無数、見つけたいのは小さな人。砂漠から一粒の宝石を見つける様なものだ。


 だが、勇子(ユウコ)と〔アル・スカイ〕の性能をもってすれば、近距離でのレーダー照射で十分だ。三次元レーダーが次々とノイズである小惑星を検出する中で、跳ね返りの違う波長を即座に割り出す。


 コンマ数秒の演算処理と瞬時の判断能力。


(サクラ)、正面ちょっと下、三〇。発見!」

「はい!」


〔アル・スカイ〕は迫る岩塊をエネルギーナックルガードを施した拳で払いのけながら、激震する。マニピュレーターがその衝撃にダメージが蓄積されても構いはしない。


 なぜならば、(サクラ)勇子(ユウコ)の視界に立ちあがる小さな人影が写っていたからだ。


「来たっ!」

「姫様!? でしょうか!?」


 勇子(ユウコ)の光通信が届いて、ミュウは思わず涙ぐんでしまう。


 再会できた!


 その喜びに打ち震えていると、〔アル・スカイ〕の後方から閃光が瞬いた。


「伏せてください!」


 (サクラ)の叫びと同時に〔アル・スカイ〕がミュウの上に覆いかぶさり、後方からの攻撃に耐える。マントに接触したビームが弾かれると、閃光があたりを照らした。


 ミュウはその衝撃に腰を抜かして、岩塊から足が離れてしまう。


「あ、うがぁ!」

「姫様! ハッチを開けます。エアガンで、そちらへ!」

「できるくわぁ!?」


 グルグルと回転する体にミュウはパニック状態だった。


〔アル・スカイ〕は空席の左胸部ハッチが開放しつつ、悩ましそうに巨大なマニピュレーターをミュウのもとへ寄せる。掴むことができればよいのだが、そうしてしまえば彼女の小さな体など簡単につぶしてしまう。


〔アル・スカイ〕の動きが止まっているのに勘付いてか、未確認機が急接近してくる。


「敵機、接近! 急いでください」

「…………っ」


 (サクラ)はマニピュレーターにつかまったミュウを確認すると、機体を起こして彼女をハッチの元まで運ばせた。


 しかし、敵の接触する速度はミュウが搭乗するよりも早く————、撃たれる。


 そう思った瞬間、〔アル・スカイ〕に接近していた未確認機はすぐに機体を翻して、飛来してきたビームを回避する。眩しい光が数条走って、〔アル・スカイ〕を照らした。


「護衛部隊がやってくれたの?」


 勇子(ユウコ)が接近してくる〔カムシャリカ〕二機を捕捉して、彼らが狙撃したものだと確信する。


 その二機は〔アル・スカイ〕への攻撃はせず、分散して未確認機の掃討に当たった。


「ありがとうございます」


 (サクラ)がオープンチャンネルで言った。


 すると、男の苛立った声が帰ってきた。


「こんなところに敵を引き込むな! シャトルが近いんだ!」


 シャントッド・コーディルだ。もっとも(サクラ)たちとの接触は音声のみで、彼女たちも彼の声を思い出せなかった。


 だから、(サクラ)はミュウが乗り込んだのを確認すると遠ざかっていく反応に言う。


「申し訳ありません。でも、助かりました!」


 シャントッドは高速で飛ぶ未確認機に狙いを定めながら、少女の声にどきりとした。


〔アル・シリーズ〕の操縦者が女の子であるのは、過去の記憶からも知っていた。だが、これほどまでに純真な感情を向けた人はいなかったはずだ。


「褒められて、うれしいものかっ」


 言いつつ、照準に入った敵機に向けてビーム・ライフルを放った。見事命中して、爆散させる。動力炉への引火は免れたらしく、光芒は先のものよりも小さい。


「クソッ」


 シャントッドは自身が上機嫌になっているのに悪態をついて、両機の援護に回った。


〔アル・スカイ〕はミュウを乗せると、周囲を索敵して再出発する。


「二人ともよくぞ————」

「感傷に浸るのは後程に。敵が来ますよ」

「姫様、しっかりとシートにつかまっていてください」


 二人の緊迫した声に、ミュウは息を飲んだ。


 瞬間、〔アル・スカイ〕はメイン・スラスターを噴射して高速で移動を開始する。


 そのノズル光に引かれてか、〔カムシャリカ〕の包囲網を脱した未確認機が追撃を開始。ビーム・ライフルが炸裂し、〔アル・スカイ〕の周囲で岩塊が砕けていく。


 敵にとってそれらは障害にならず、固い装甲と前面投影面積の小ささを活かした可変機構で猛進、驀進して、距離を詰めていく。


「反撃しなければ————」

「振り切れません」


 肺が圧迫されるような負荷の中で(サクラ)勇子(ユウコ)は直撃を割けるので手一杯だった。とにかく、数がある。手数が違う。


〔アル・スカイ〕が攻勢にでなければ、厳しい状況である。


 と、ミュウはぶかぶかな宇宙服のグローブで操縦桿を握る。それに反応して、次々と火器管制のシステムが起動、主導権を彼女に移譲する。


「二人とも、とにかく敵を分散するぞ。正面に敵を向けよっ!」

「————っ! そういうことでしたら!」

「お任せください。サポートいたします」


 (サクラ)が〔アル・スカイ〕を大きく弧を描く軌道を取らせて、敵の群れの横っ腹を捉える。


 そこに勇子(ユウコ)のサポートが加わり、敵機の影を正確に捕捉する。CGコンピューター・グラフィックによって縁取りされた敵機は高速で動こうとも、〔アル・スカイ〕の目からは逃れられない。


 ミュウは短く息を吐き捨てると、指に力を込める。忘れてはいない。始めて〔アル・スカイ〕に乗った時の感覚が甦る。


〔アル・スカイ〕は脚部に携行していたバリアス・ショットガン二丁を手にすると、敵機に向ける。スラグ弾型のビーム形成。一撃必中、貫通力抜群のモードだ。


 ミュウは揺れ動く映像の中でさらに揺らめく照準線を目で追う。彼女の全神経が研ぎ澄まされて、呼吸が自然と止まる。そして、緊張が解ける寸前、一射を放った。


 強力な一筋のビームが未確認機の一機に命中。


 未確認機の軍勢が隊列を崩して、四方八方へ散らばっていく。


「命中? 凄いっ!」


 勇子(ユウコ)はミュウの射撃の腕に感嘆の声を漏らす。慣れていないはずの〔アル・スカイ〕の操縦であっさりと一機撃墜する。


「ロンナス様は、姫様の才気を信じていらしたのですね?」

「何を言っておる。今のうちに脱出。攻撃は任せてもらおう」


 ミュウは言って、二丁のバリアス・ショットガンを駆使して四方八方から接近してくる未確認機を追い払う。例え、小惑星を盾にしようとも、ビームの閃光はそれを貫通して敵機に襲い掛かる。


 (サクラ)勇子(ユウコ)も強力な戦力を得て、小惑星帯(アステロイドベルト)からの脱出針路をとる。


 未確認機たちは散らばりながら、ジグザグに飛行して接近を試みる。とにかく〔アル・スカイ〕の正確な射撃を見てしまっては、白兵戦にもつれ込むほかないと考えていた。


「右に、左。足元————っ。動いている方が、よく見えるぞ!」


 ミュウの動体視力は高速で流れる敵機を正確に追って、バリアス・ショットガンによる射撃を繰り出す。最低限御手数で、最大限に相手の邪魔をする。


「あと少しで小惑星(アステロイドベルト)を抜けます!」


 勇子(ユウコ)は『ノア』への針路を設定しつつ、敵の数が減っているのを確認する。撃墜されたのではなく、相手が追撃を諦めているのがわかる。


 と、次の瞬間、横間からビームの光が伸びあがった。


「————っ」


 (サクラ)たちは息を飲んで、間一髪マントでその光を受け止めた。


「伏兵か!」


〔アル・スカイ〕が後方へ弾き飛ばされる中で、ミュウはそう叫んだ。


 人型へと変形して、改めてマニピュレーターが握るビーム・サーベルでその未確認機は肉薄して斬りつけてくる。とにかく接近。距離を空けずに斬撃を繰り出す。


 巨大な〔アル・スカイ〕のバリアス・ショットガンでは狙いが定まらない。


 踊る様に避ける〔アル・スカイ〕だが、華麗に見えてその実はギリギリの回避である。(サクラ)勇子(ユウコ)の体力が限界に近かったのもある。それ以上に未確認機の気迫がセンサを通じて、一振り一振りが心臓を潰すような嫌悪感を宿していた。


「ほかに武器は?」


 ミュウはバリアス・ショットガン一丁を足に収めつつ、問いかける。


 勇子(ユウコ)が即座に反応。


「ショルダー・ホルスターのビーム・サーベルが使える!」


 (サクラ)とフォノがそれを使おうと行動に移す。


〔アル・スカイ〕は空いたマニピュレーターを脇の下に回す。そして、展開したショルダー・ホルスターから伸びたビーム・サーベルの発振機を掴んだ。


 次の斬撃が来る。


「やぁあああっ!!」


 (サクラ)の気勢を含むように、ビームの刃が発振器から吹き出した。それはミュウの火力制御によって、最大級にまで伸びあがった。


 ビャァアンッ!


 サーベル同士の接触だったが、〔アル・スカイ〕の巨大な刀身を前にしては未確認機のビーム・サーベルはちゃちなおもちゃのようだった。


 力にあふれた刀身は未確認機を受け止めたビーム・サーベルごと切り裂いて、袈裟斬にした。


 その時だった。未確認機の背部のでっぱりから何かのユニットが排出された。


 しかし、(サクラ)たちはそれがなんなのか、確認する間もなく機体を上昇させる。遅れて、切り裂かれた機体が爆発して、〔アル・スカイ〕はその勢いに乗って小惑星帯(アステロイドベルト)から脱出する。


「今のうちに逃げる!」


 勇子(ユウコ)が叫ぶ。


「でも、護衛部隊は————」

「すでに戦闘の火は消えかかっている。こちらも早く立ち去らないと、やられてしまうぞ」


 ミュウはウィンドー表示された岩石のリングの中で膨れ上がる光が小さくなっているのを見ていった。


〔カムシャリカ〕部隊が耐えきったのだろう。未確認機も〔アル・スカイ〕の出現で思わぬ体力を使ったのかもしれない。


 いずれにしても、長居していると今度は(サクラ)たちが標的にされかねない。


 不安げな(サクラ)にミュウは優しく付け加える。


「わらわを連れ帰るのだろう?」

「…………はい。撤退します」

「針路の設定は大丈夫。ダミーを放出するから、撤退してちょうだい」


 勇子(ユウコ)は冷静に言って、サイド・アーマーからカプセル状の発信器を放出する。


 それらは〔AW〕の反応を示すダミーで、少しの間なら目くらましになってくれる。


〔アル・スカイ〕は最大速力で青い『ファルファーラ』を背にして、飛び去っていく。




 シャントッド・こーディルは戦闘の火が弱まっているのを確認して、信号弾を上げる。隠れているシャトルに出発の準備をさせるものだ。


 パッと二つの閃光が上がった。


「ひと段落だが、降下作戦は無理だぞ」


 シャトルの実質的な被害はないだろうが、このまま進行して第二、第三の防衛線があったらおしまいだ。


 シャントッドは機体を滑らかに、進ませて味方機との合流を計る。とにかく光の瞬く方へ飛ばす。しかし、合流したころには戦闘は終わっているだろうと彼は感じていた。


 凍り付いていた経験が解けて、そう思わせるのだ。


「しかし、〔アル・シリーズ〕は人助けをしていたというのか。信じられんな」


 彼は成り行きとはいえ、憎むべき機体を助ける形となった。


 加えてその機体が救難信号のあったほうへ飛んで、救助活動らしい動作をしていることにも疑念が拭い去れない。


「俺ももう、古い人間なのか……」


 そう言いつつ、シャントッドは後片付けの戦いへ向かって言った。


 小惑星帯(アステロイドベルト)にかかる太陽の光が、緩やかで温かいものになったのはそれから数分後のこと。鋭い閃光はなくなり、シャトルは『ノア』へと引き返すことになった。 

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