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スカイ・レコード  作者: 平田公義
第二章
13/118

~勧誘~ 衝突する力〈後編〉

 間違いない。見間違えるものか。


 シャントッドはモニタに映る忌まわしき巨人を見据えて、操縦桿を握り締める。


「貴様まで生き残っていようとは……」


 その思いは〔カムシャリカ〕に乗る兵士たち全員が抱く畏怖と憤怒の念。


 彼らは遠い戦いの記憶の中で、直接、あるいは間接的に角つき、四つ目の大型機体に多くを奪われた。戦友、家族、故郷、地位も名誉も。


 戦場を駆け抜けては破壊、虐殺を繰り返した最凶の兵器、〔アル・シリーズ〕。


「これですべてを終わらせてやるっ!」


 シャントッドは激情に任せて機体を突撃させる。


 マニピュレーターより発生させたビーム・ソードが〔アル・スカイ〕へ迫る。


「————っ!」


 (サクラ)たちは斬り込んでくる〔カムシャリカ〕に異様な殺気を感じ取る。マグマのような熱量が肌を焼く錯覚が駆け巡る。


 彼女たちの恐怖を汲み取る様にして、〔アル・スカイ〕は自動反応(オートリアクション)でマントを手繰り寄せて、その切っ先を受け止める。スパークが迸り、視界が白く染まっていく。


 そこへ傍観していた〔カムシャリカ〕数機が同じようにビーム・ソードを展開して刺突。ドッとさらに光が膨らんで、あたりの残骸を吹き飛ばす。


 ビームの粒子がはじけ飛び、マントのまわりで膜のように停滞する。


「な、何なの、こやつらは?」

「わかりません。わかりませんよっ」

「…………」


 三人は奇襲をかけてくる〔カムシャリカ〕に困惑しながらも同じ思いを抱く。


 ここでむざむざ殺されるわけにはいかない。


〔アル・スカイ〕は数機の〔カムシャリカ〕のビームをマント一つで防ぎ続け、四つ目のセンサーアイを発光させる。瞬間、機体はマントを力強く翻す。


 停滞していた光が一気にふり払われて、〔アル・スカイ〕を中心に烈風を巻き起こす。


 四方八方から斬りかかっていた〔カムシャリカ〕はその動作を受けて吹き飛ばされる。


「この機体、どれだけのエネルギーを持っているの?」


 勇子(ユウコ)は一度にいくつものビームを防ぐマントやそれを一瞬にして薙ぎ払う出力に感嘆と驚愕する。


「どういたしましょう? このままでは……」

「コロニーの軍隊とことを構えるのはダメだ。ともかく、どこかに隠れよう」

「こんな大きなもの、どこに隠せる!?」


 ミュウの絶叫とともに、頭上からビーム・チェーンガンの雨が降り注ぐ。


〔アル・スカイ〕はマントを被って、地面を蹴り上げる。目にもとまらぬ速さで跳躍すると、ビームの雨を抜け出し特殊ガラスの地面へ着地する。


 三人は追ってくる〔カムシャリカ〕の対応にどうするべきか、と思案する。仮にも『ノア』を守る〔AW〕部隊だ。下手に矛を交える様な事があれば、双方ただでは済まないだろう。


 その中で勇子(ユウコ)はコンソールと操縦桿を操り、通信回線をオープンにして交信を計った。


「やめてください。こちらに交戦の意志はありません」


 凛とした勇子(ユウコ)の声を拾い上げたシャントッドの〔カムシャリカ〕が態勢を立て直して得物を収め、両腕部を上げる〔アル・スカイ〕を拡大表示で捉える。


「やはり女。それも若い。奴も俺たち同様に眠りつづけていたというのか……」


 シャントッドにはそうとしか思えず、〔アル・スカイ〕を見据える。マントをはためかせて、何か企てているのでは、と片時も目を離さなさい。


 他の機体も足場を気にして狙撃体制を解き、白兵戦に持ち込む準備に入る。呼吸を整え、確実に仕留める。例え今の〔アル・シリーズ〕がこのコロニーのために動いていようとも、血塗られた歴史の産物は消え去ったほうがいいのだ。


 それだけのことをしてきたのだ。罪は罰せられ、その穢れた鋼は破壊されなければならない。


 空気が張り詰め、誰もがぎりぎりまで気持ちを張っていく。


 (サクラ)は視線を泳がせて正面の岸と背後に集う別働隊、さらに上空を旋回する部隊に気を配りながら操縦桿を握り締める。


 電波障害が薄まったことで三次元バブルスクリーンに敵の位置が投影され、圧倒的な戦力差を勇子(ユウコ)は確認して奥歯を噛み締める。


 ミュウが覚悟を決めてつぶやく。震える指先に力を込めて、潤んだ瞳で前方を見据える。


「向こうは戦う気だぞ?」

「…………」


 (サクラ)は暗鬱な表情で唇を噛む。何か打開策はないかとぐるぐると思考を巡らせる。


 そこに通信が飛び込んできた。


『外に出ろ。こちらでサポートする』


 飛び込んできたのは〔アル・スカイ〕まで導いたあの声だった。


 三人は驚きながらも、即座にその意見を受け入れた。


〔アル・スカイ〕が大軍に背を向けて、敵母艦が空けた穴へ向かって跳躍する。


「————シッ」


 シャントッドは動き出した〔アル・スカイ〕に食らいつくように飛び出す。それに続く機体が三機、編隊を組んで飛行する。


 しかし、他の機体は動こうとしない。その理由は彼のもとにも飛び込んできた。


『全軍に告げる。作戦は終了。ご苦労だった。あとは、こちらで捕獲する』

「通信だと? 元老院どもの手回しか!」


『ノア』を統括する元老院旗下の諜報機関からだ。彼らは今の今まで戦闘を傍観し、重鎮たちを逃がすことに尽力していた。


 それが今になってしゃしゃり出てくる。同時に大穴へと進んでいく機体が元老院でも把握しきれていない代物だとはっきりした。


「四機が追ってくる。諜報機関の通信があったはずなのに」


 勇子(ユウコ)は傍受した通信内容を踏まえて、追撃に出てくる機体に舌打ちする。


 加えて女性の声が連なった。


『外壁に出たら、太陽側へ向かってくれ。座標を送る』

「こんな時に悠長なっ」


 ミュウは指示を出すだけで何もしない声の主に怒りをあらわにする。


〔アル・スカイ〕が空気の流れに沿って大穴へと飛び込む。耳の奥が圧迫されるような音が襲い掛かる。


『ノア』の回転にそのまま放り出されないよう即座に外壁へ向けてハープーンを撃ち込むと振り子のように弧を描いて外壁へと着地する。


「んっく。太陽側——、ここでございますね」


 (サクラ)は浮かび上がったスクリーンを一瞥して、即座に位置を把握する。


〔アル・スカイ〕はワイヤーを切り離すと、外壁に這うようにして飛行する。密着しなければ、すぐにコロニーの慣性で飛ばされてしまう。


「星が凄い……」


 ミュウが頭の上で流れていく星の動きを見て感嘆する。まるで流れ星のように高速で流れていく星々の輝きは『ファルファーラ』では絶対に見られない。同時に体が投げ出されてしまいそうな不安感が暗黒の中から湧き上がってくる。


 勇子(ユウコ)が数々のスクリーンを呼び出して、〔カムシャリカ〕の動きや機体の性能を分析する。


「姫様、火器管制をお願いします。(サクラ)の負担を減らします」

「か、火器、管制とは何だ?」

「照準と火器のトリガー、出力をお任せいたします」

「つまり何だ?」

「狙い定めて撃っちゃってください!」


 勇子(ユウコ)の苛立った声に、ミュウはムスッと口先を尖らせる。


 岩肌のような外壁を高速で行く白銀の機体の後を飛び出してきた〔カムシャリカ〕四機が追撃を開始する。不慣れな機体で彼らも機体の扱いには慎重になっていた。今まであった空気抵抗がなくなり、代わりに外へと引っ張り出す慣性に気を配っている。


 しかし、〔アル・スカイ〕よりも小柄な〔カムシャリカ〕は軽やかに外壁の溝を縫って距離を詰める。


「どこへ行こうというのだ?」


 シャントッドは正面に〔アル・スカイ〕のスラスターの光を見据えて、リア・ラックに収めていたビーム・ライフルを保持させる。


「シャントッド!」

「撃ちはしない。接近するっ」


 シャントッドは僚機の通信にそう怒鳴って、機体の速度を上げる。


 ビーム・ライフルを構えたシャントッド機が編隊から一つ頭抜けて、〔アル・スカイ〕に接近する。


「奴は撃つ気だぞ」

「落ち着いてください。ただの牽制です」


 勇子(ユウコ)が興奮するミュウをいさめると、オープン回線で通信が入る。


「白い機体の操縦者に投降を勧告する。従わない場合、こちらも実力行使をする」

「何を都合のいいことを言って、わらわたちを混乱させる気か?」


 ミュウは傲慢そうな男の声に嫌気がさす。


 異邦人と言えども(オス)というものは威張っていないと気が済まないのだろうか。故郷にいる兄を思い出してはさらに顔つきが険しくなる。


 勇子(ユウコ)は相手に回線は開かず、出方を窺う。


「姫様、敵はこの機体に執着しているようです。無傷で、というわけではないようですが」

「ここはどうなっておる。まったく、わらわには果たさねばならぬことが山ほどあるというのだぞ」

「みなさん、指定された座標までもう間もなくでございます」


 (サクラ)は眩しい太陽に目を細めながら、二次元スクリーンの見取り図とその光点を確認する。何度かミラー修繕で利用したことのある隔壁やスペースボートの発着場が見える。


 ふわりと浮かぶメガネと帽子を押さえて、(サクラ)は操縦桿を手のひらで転がす。


〔アル・スカイ〕は振り返って、迎撃態勢を取る。ここで足止めをしなければ指定された場所を特定されてしまう。だが、どうやって止めるというのか。


 そこまで回る思考はなく、ただ引き込んではいけないという考えが先走ってしまう。


 追ってくる〔カムシャリカ〕の四つの影を捕捉する。太陽の光ではっきりとその輪郭が見える。


『お連れさんには手を引いてもらおうか』


 女性の声が(サクラ)たちの耳に届く。


 その瞬間、外壁に配備されているスペースデブリ破砕用のレーザー砲が閃光を放つ。閃光が瞬き、収束したレーザーは柵のようにして宇宙に光線を引いた。


「うおっ! 何だ?」

「レーザー砲だとっ!? 奴ら、ハッキングまでしているのか?」


 シャントッドは呻いて、自機を外壁へ密着させる。追随する三機も外壁の凹凸に身をひそめて、目の前で上がる光線を見送る。

 

「う、あ……」


 (サクラ)はレーザー砲の閃光に目がくらんで、操作がおろそかになっていた。


〔アル・スカイ〕もまたスラスターの勢いを弱めてしまい、宇宙へと投げ出されそうになる。


「危ないっ! 投げ出される!」


 勇子(ユウコ)のナビゲーションが届く。


 巨体が回転するコロニーの力に負けて大きくよろめき、外壁から大きく離れだす。このままでは〔カムシャリカ〕の射撃を喰らう。


「んっ。こうすればよいのかっ!?」


 咄嗟にミュウは操縦桿を握り締めて、モニタに現れたカーソルを外壁に合わせると人差し指に力を込める。


 バッと右肩部のハープーンが射出されて、外壁に突き刺さる。間一髪のところだった。タイミングを誤れば、指定された場所とは見当違いの場所を貫いたことだろう。


 しかし、ミュウの狙撃は完璧に自分たちのいた先ほどまでいた場所を射抜いている。


「今だっ」


 シャントッドはコロニーから離れた〔アル・スカイ〕に向かってビーム・ライフルを放つ。


 しかし、思うように照準が定まらなかった。射撃管制も自分の目も太陽の影響でうまく照準が定まらないのだ。


〔アル・スカイ〕はワイヤーを巻き上げながら、背後に通り過ぎたビーム光を見送る。


「姫様、お見事です」

「まだ気は抜けぬぞ。(サクラ)、しゃんとせいっ!」

「は、はい。申し訳ございません」


 (サクラ)は〔アル・スカイ〕に脚部のフックを展開させると、外壁に着陸させて固定する。


「クソッ。逃げられるぞ」

「しかし、レーザー砲もある。潮時だよ」


 シャントッドはレーザーの閃光に視界を遮られて、外壁の凹凸の影に身をひそめる〔アル・スカイ〕を見失ってしまう。僚機の操縦者たちも釈然としない思いを抱きながらも、これ以上の追撃は危険だと判断した。


 レーザー砲の射撃が止むと、シャントッドたちが〔アル・スカイ〕がいるだろう箇所に向かった。


「このコロニーに潜伏するとは、いい度胸だ」


 そこには〔アル・スカイ〕の機影はどこにもない。だが、確実に『ノア』の内部に逃げ込んだだろうと考えた。


 もとよりここ以外に逃げ込める場所などないのだから。


「だが、今は引き上げるか。あの敵についても話を聞かなければ、な」


 シャントッドは一度冷静になって、機体を太陽側の港へと移動させる。


 何百年という眠りから覚めて、まだ事情が呑み込めていない。そのことがシャントッドたちを困惑させる。

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