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スカイ・レコード  作者: 平田公義
第二章
12/118

~勧誘~ 衝突する力〈前編〉

 (サクラ)たちは出現した白銀の機体の操縦席に急いで乗り込むとそれぞれシートについた。


 胸部左右の操縦席に、勇子(ユウコ)とミュウが乗り込み、頭部の操縦席には(サクラ)が乗り込んだ。その間にも敵性機の攻撃は続いていたが、機体が有するマントがビームをすべて弾き返していた。


 見たことのない技術、デザインだ。


「これがアーム・ウェア? 通信回線はどうすれば……」


 (サクラ)はシートについたと同時に起動しだしたモニタを見回してつぶやく。モニタはまるでシートをかこむようにして展開されており、背もたれより後ろはサブ・デバイスが収納されている。シートはゆったりと全身を預ける様な滑らかなデザインで肘掛にコンソールとトラックボール式の操縦桿、シートの延長に伸びたフットペダルがあった。


 内線は機能しておらず、各々で対処するしかない。


 勇子(ユウコ)はコンソールを素早く操作するとシャボン玉のように展開する三次元バブルスクリーンを表示する。そこには機体のステータスや周囲の状況が一個ずつあった。


「この技術は今の機体に実装されていないはずなのに……」


〔AW〕はかつてあった大きな戦争以来デチューンが進められて、性能は衰退したはずだ。バブルスクリーンやトラックボール式操縦桿は操作性の悪さや必要性のなさから、参考書に乗る程度のカタログ技術にまでなっている。


 それが実装されているということは、酔狂か古いのか。今の状態では判断に困る。


「何なのだ、これは――——、ふあ!?」


 ミュウが慣れない操縦席を観察していると、突然シートに押し付ける強い衝撃が襲い掛かる。シートが彼女たちの体を包み、クッションとして機能する。


 白銀の機体がマントを翻して敵のビーム砲撃を弾きながら、上昇を始めたのだ。


「誰が動かしているの?」


 勇子(ユウコ)はトラックボールの溝に手のひらを重ねて、しっかりと握る。少し大きいが彼女の指の握力を受けて、次々とバブルスクリーンと二次元スクリーンが開示される。


 圧倒的な情報量に負荷のかかる操縦席ではすべてを見通すことはできない。


 しかし、一つだけはっきりしたのは自分たちの乗っている機体の名前だ。


 同じように操縦桿を握った(サクラ)も機体の呼称を見つけて、つぶやいた。


「この子、〔アル・スカイ〕って言うのですか?」

『ご名答』


 その時、ひび割れた女性の声が三人のもとに届いた。


 ミュウは頬の肉が後ろに引っ張られるのを感じながら聞き覚えのある声に憤怒する。


「おぬし、さっきのっ」

『そうだよ。今はこの機体を遠隔操作しているのだが、正直厳しくてね。悪いけど、君たちで対処してもらえないだろうか?』

「対処って――――」

「わたしたちがこの子を動かすのですか?」


  勇子(ユウコ)(サクラ)が狼狽した瞬間、白銀の機体〔アル・スカイ〕は脹脛と背中のスラスターを使って敵性機の射撃を回避する。


 その洗練された動きは乗っている少女たちの体に負荷をかける。


 見たこともない機体をいきなり操縦できるほど、彼女たちも〔AW〕に詳しいわけではない。加えて背後からは追撃してくる敵性機の姿がある。


 鋭い爪のような腕を振って、獰猛な目玉が〔アル・スカイ〕に見据えている。構えた銃からはいくつもの閃光が瞬き、数条の光が同時に横間を過ぎていく。


 この中を切り抜けるにしても、逃げ出すにしても簡単にできるものではない。


 しかし、遠隔操作をしているという声の主は言った。


『安心しろ。この子は経験豊富だ。荒事でそう簡単に負けるものではない。それに、従来の操縦系統を採用している。頭部のメイン・パイロットなら大丈夫だろう?』

「め、メイン・パイロット……」


 (サクラ)はその言葉に仰天して操縦桿から手を放す。


 すると、〔アル・スカイ〕は速度を落としてぎこちない動作で回避運動を取る。敵の射撃がマントによって防御されるも、その運動エネルギーが直接機体に襲い掛かり空中でもみくちゃになる。


「うっ。こ、この」


 ミュウは必死に操縦桿を掴み、ぐるぐると回る視界の中で敵性機の位置をしっかりと目にする。


〔アル・スカイ〕は各部スラスターで制動をかけつつ、脚部のハードポイントに収められた二丁の銃を手にする。


 武骨で角ばった銃で、散弾銃のようなデザインをしている。先台(フォアエンド)や折り畳まれた銃床(ストック)、照準器を備えておりバランスの悪い印象を持っている。


〔アル・スカイ〕はマントを翻して振り返る。同時に武骨な銃、バリアス・ショットガン二丁を即座に発砲する。


 散弾のように飛び散る荷電重粒子が敵性機に命中。いくつもの穴をあけて、二機を撃墜。一機を半壊させる。


『ほら、意外とフォローしてくれる。頑張りなさいな』

「ちょっと、無責任————!」


 勇子(ユウコ)が呼び止めるのも聞かず、ついに通信が切断される。


〔アル・スカイ〕は惰性で空中を流れる。射撃を警戒してか敵性機は距離を取って、包囲を始める。


 (サクラ)も危機的状況であると理解していたが、いまいち踏ん切りがつかない。胸元に組んだ手を引き寄せてこんなのは悪い夢だと頭の中で反芻する。


「動かなくなったぞ。ええい、他の者はどうなっている?」


 ミュウは操縦桿を無造作に動かしつつ、コンソールを乱暴に叩きまくる。一緒に乗り込んだ(サクラ)勇子(ユウコ)との連絡が取れず、心配と不安が一気に押し寄せてくる。


 先ほどは彼女の握力に反応して、射撃を敢行した〔アル・スカイ〕であるが、あくまでそれは受け身の攻撃。相手が攻撃を仕掛けなければ、応戦はしないのだ。


 積極的に攻撃をするには、最低でもメインの操縦者が機体を制御しなければならない。


「このままではやられる。使えるものは——」


 勇子(ユウコ)はコンソールを素早く操作して、次々と機体の情報を表示する。従来の操縦方法でも確かに通用する。しかし彼女の操縦席は制約が課せられ、電子兵装しか使えない。


 それはほかの操縦席も同じで主操縦者が動かそうと思わなければ、〔アル・スカイ〕はうどの大木だ。周りで旋回する敵性機たちの構える銃のいい的だ。


 (サクラ)の赤い瞳にその姿が映り込んで、頭の奥で何かが囁いた。


 ————生きていたい。


 閃く思考と神経が彼女を突き動かす。


 同時に敵機の十字砲火が襲い掛かった。周囲が一瞬にして光に包まれ、視界が効かない。


 防衛に出ている〔カムシャリカ〕部隊も他の部隊と交戦しつつその光を確認した。花火のように瞬く閃光は大気を焼いた。


「あの程度のわけない。あの、機体が……」


 シャントッドはすぐにでも、その光芒が起きた場所へ機体を移動させたかった。


 しかし、頭上を抑える敵性機に阻まれて思うように動けない。彼の操る〔カムシャリカ〕は大きく足元の内壁に押されていく。


 そして彼の予想通り、光の中から〔アル・スカイ〕が飛び出す。烈火のごとく燃える四つのセンサーアイが煌めいて、敵性機を一機蹴り飛ばした。


〔アル・スカイ〕の急襲にその機体はコロニーの外壁に向かって高速で落下する。地面に激突、爆発が起きる。


 その様子を勇子(ユウコ)とミュウは心臓が止まりそうな思いで見届ける。十字砲火を受けた瞬間、彼女たちの意識も真っ白になってこうして生きていようとは思わなかった。


 ただ一人、(サクラ)だけは興奮して短い呼吸を繰り返して、赤い瞳をぎょろつかせる。視認できる敵性機は五機。数では圧倒されていても、〔アル・スカイ〕のポテンシャルはまだまだそこが知れない。


「ハァ……、ハァ……、あ、あああああ!! ああああああああっ!!!!」


 恐怖をぶちまけるように絶叫する(サクラ)。理性と本能が入り混じり、彼女の体を無理やりに動かす。


 頭の中をチリチリと引っ搔かれるような不快感。外から触発されて、自分の中の毒を浮き彫りにされる感触。


〔アル・スカイ〕は彼女の激情に任せた操縦に従って、自分に蓄積された経験をもとに敵へと突進する。


「うっぷ。内部回線は————」


 勇子(ユウコ)は警報が鳴り響く操縦席で必死に内部回線を開こうとする。そうでもしなければ、身体がバラバラに砕けてしまいそうだった。


「なんだ、この、引っ搔かかれる感触は——」


 ミュウはあまりの負荷に目を細める。そして、肉を引っ搔かれるような鋭い幻覚が精神を逆なでる。


 (サクラ)の操縦は理性的ではない。とにかく、敵へと喰らいつこうとする苦し紛れの攻撃。錯乱状態と言っていい。


〔アル・スカイ〕もまた迸る彼女の激情を吸い取って、ビームの猛攻を無理やりに突っ切る。全身を覆うマントが迫りくる何条ものビームを弾き返す。


 敵性機の一気に肉薄すると、そのまま保持している銃で殴り掛かる。乱暴に振り回した銃身はひしゃげて、敵諸共自爆する。


「滅茶苦茶だ! こんなの」


 ミュウは爆風にあおられる機体の中で叫んだ。その拍子にコンソールに肘をぶつけて、勇子(ユウコ)との回線が開いた。


「姫様、ご無事ですか?」

「どういう状況になっている!? 答えよ!」


 二次元スクリーンに投影された勇子(ユウコ)を見て、ミュウは半べそになりながら怒鳴る。やっと顔を見ることができた安心感と追い縋る敵の軍勢にアヤフヤな感情が強くなっていく。


〔アル・スカイ〕はマントで爆風を防ぎつつ、追い縋る敵影を正面に捉える。半場落下しているような体勢。敵性機もこれを勝機とみて銃を構える。


 どちらが素早くトリガーを引くか。互いの呼吸を探り合う。


 先手を取ったのは〔アル・スカイ〕。間合いも出方を窺うまでもなく、首元に備え付けてある二つの武装を解除する。コンマ数秒の展開と同時にドッと細長いものを射出する。ワイヤーをつけた銛だ。


 正面にいた敵性機の一機が一本の銛に貫かれる。


 落下する〔アル・スカイ〕の勢いにのまれるようにして貫かれた機体は地面へと引き込まれる。


「————っ」


 (サクラ)はぐっと操縦桿を握り、ペダルを踏み込む。


〔アル・スカイ〕は全スラスターを一気に噴射して制動をかけつつ、ワイヤーを掴んで回し始める。機体を回転させて、その勢いで銛が食い込んだままの敵性機を振り回す。


 圧倒的なスラスターの圧力で振り回される敵性機は、一機、二機、さらにもう一機と鈍器となって激突。勝機としていた軍勢を巻き込んでいく。整った隊列があだとなった。


 勇子(ユウコ)とミュウは歯を食いしばって、身体を引っ張り上げる遠心力に耐える。


 その力が最大限に発揮されたところで肩部の射出装置からワイヤーが切られて、四機の敵性機がそのまま団子状に固まって地面へと叩きつけられる。


 ド、ドォオンッ!


 叩きつけられた機体から爆発が膨れ上がり、黒煙が輪っかになって上昇する。


「残り一機です!」


 (サクラ)は最後の一機に機体を向かわせて、気持ちがハイになっているのを感じた。握っている操縦桿からは脈打つような刺激があって、全身を興奮させる。


 これまでどんな痛みにも耐えて生きてきた。痛いことがどんなこともかも、どういうのが痛いのかも、辛いのかも知っている。


 きっと銃で殴られた機体はさぞ痛かっただろう。骨が砕けて、肉が千切れる様な痛みを味わったことだろう。胸を貫かれた機体も、それに殴られた機体も痛くて痛くてたまらなかったに違いない。


 だが、その先で死んでしまったことに彼女は恨みすら感じていた。自分は生かされ続けて、一生苦しまなければならない。


 生きていたいと願ったがゆえに、生の苦しみに耐えなければならない。


 (サクラ)・マホロバが受けてきた仕打ちの数々。それが今の彼女の戦闘センス、そして気持ちの悪いまでの戦意へと昇華されていた。


「纏わりついている機体はあと一機となりました。姫様、そちらで(サクラ)にコンタクトはできませんか?」

「無理を言う出ない。わらわはここの文字は簡単なのしか読めぬのだぞ。それに、この機体は手に余る」


 勇子(ユウコ)は困惑するミュウの顔を見ては全身を濡らす汗の気持ち悪さに顔をしかめる。


 ミュウにとって〔アル・スカイ〕はまさに化け物も同然だ。


 逃走を図る最後の一機を追うモニタの映像に戦慄すら覚える。執拗なまでに、完膚なきまでに敵を倒そうとする意志がひしひしと胸の内に伝わってくる。


 それは勇子(ユウコ)も同じだ。小さな胸を締め付ける苦しみ、悲しみ、痛みを抱きながら、いまだ連絡が取れない(サクラ)へのコンタクトを試行錯誤する。彼女だけ連絡がつかない。回線が切断されているわけでも、機体に不調があるわけでもない。


 (サクラ)が拒否している。


 (サクラ)の胸の内が憎しみと怒りで蝕まれていく。今までの弱腰で卑屈で諦観的だった心が何かに焚き付けられて、抑え込んでいた記憶を無理やりこじ開ける強迫観念によって体を動かす。


〔アル・スカイ〕は逃げていく敵性機の牽制射撃を交わしつつ、その先にある敵の巣窟を見定める。ひし形の母艦は近づいてくる機影を警戒してか、徐々に広げていた側面を閉じ始める。


「逃がしません……、逃がすものですか!」


 パチッと(サクラ)の頭の中で何かが弾ける。


 何者かが語りかける。


 これを使いなさい。マニピュレーターの、ストレス・コンプレッション……、ハンド。


 蚊の鳴くような囁きは音声でも、文面でもなく、頭の中枢へ刷り込まれるように浸透していく。


「ストレス・コンプレッション・ハンド……。応力と圧縮————」


 (サクラ)は銃を失った右腕部のマニピュレーターを一瞥して、操縦桿を操る。


 敵性機が母艦へ飛び込むと側面もあと少しで完全に閉じるところだった。〔アル・スカイ〕が全速力で突撃すると右腕部を隙間にねじ込んだ。


 閉じる力に挟まれた腕部が悲鳴を上げる。みしみしと装甲に亀裂が走り、身動きが取れなくなる。


 勇子(ユウコ)とミュウは息を飲んで、鏡面に映る〔アル・スカイ〕を見る。マントをなびかせて、鬼のような顔がそこにあった。絶望も悲嘆もなく、機械的な四つの瞳が輝いた。


 瞬間、母艦に食い込んだマニピュレーターから鼓動のように伸縮する球体が発生する。


 小さなブラックホールを思わせる力の塊は発生器となる手のひらの上で伸縮を繰り返す。中にある空気を根こそぎ奪って、真空状態を作り出そうとする。


 ゴンッ、ギギ、ガンッ————。


 見る見るうちに母艦の外装が陥没していく。内側へ内側へと潰れていく感じだ。


「な、なんなのだ、これは?」

「ストレス・コンプレッション……? 中身を圧縮している……」


 勇子(ユウコ)とミュウはこの異様な破壊のされ方に身の毛がよだつ。隙間から大気が吸い取られてもなお母艦の崩壊は止まらない。


 加速する陥没音。空き缶を潰すかのような軽快な音は現実離れしていた。


 そして。


「これで、終わりです」


 (サクラ)は目に力を入れ、操縦桿を強く握った。


〔アル・スカイ〕は力任せに右腕部を引き抜くと、中に残された球体が一気に圧縮される。周りの空気も機材も一瞬にして飲み込むほどの力が暴発する。


 刹那、ひときわ大きな音とともに母艦がぺしゃんこになる。二〇〇メートルはあっただろうひし形の母艦は踏みつぶされた空き缶も同然の薄さになっていた。


 一瞬の静寂が三人の中に溶け込んで、ふっと浮き上がったような妙な感覚が襲い掛かる。目の前に怒っている現象に整理がつかず、ただただ〔アル・スカイ〕の力に驚くばかり。


 そして、真っ暗な宇宙が大口を開いて母艦を飲み込んでいく。


「—————っ!?」


 その瞬間、(サクラ)はもっとも忌むべき記憶を呼び起こされて顔面蒼白になる。


 両親が殺された時のことが頭を駆け巡った。


 同じく宇宙へ放り出されそうになる〔アル・スカイ〕はスラスターを全開にして退避する。破壊された母艦は有無を言わさず宇宙へと放り出され、さらにコロニー内部の植え込みや残骸が吸い寄せられて放り出される。


「あ、ああ…………」


 (サクラ)は吸い寄せられる様々なモノを見て、自分のしたことを順番に思い出していく。


〔アル・スカイ〕は近くの居住区へ着地すると、マントをはためかせて大穴を見つめる。コロニーでの戦闘も和らぎ始め、爆発の火やビームの光は認められない。


 勇子(ユウコ)が三次元バブルスクリーンから戦いの幕引きを読み取る。


「敵は撤退していくようです。もう一隻の船がある以上、彼らはそこへ行くでしょうね」

「敵の逃亡を許すのか?」

「わたしにはもう無理です。この機体は危険すぎます」


 ミュウの言葉に勇子(ユウコ)は弱々しく返答する。


〔アル・スカイ〕は普通の〔AW〕とは違う。大きさもさることながら、搭載されている火力が段違いだ。


「…………すまない。そうだったな」


 ミュウでも故郷で運用されている〔マリーネン〕とはけた違いの力を感じていた。ひと段落つけば、全身が震えだして寒気を覚える。


 しかし、それ以上に(サクラ)は自身の中に眠る激動が怖かった。


「わたし、わたしは……」


 凍てつくような寒さが足先から這い上がってくるのを(サクラ)は感じた。


〔アル・スカイ〕から怒気が消えうせて、静かに放熱フィンから熱風を吐き出す。彼女たちに降りかかっていた不快感も消えて、システムの制約が徐々に解かれていく。


 それに便乗して、勇子(ユウコ)とミュウのイメージスクリーンが(サクラ)の目の前に浮かび上がる。


「よかった。やっと回線が開いた」

(サクラ)。大丈夫か?」


 勇子(ユウコ)とミュウの心配する声。


 (サクラ)は恐る恐るイメージスクリーンを見て、何を言えばいいのかわからなかった。


 しかし、なぜだろうか。彼女の胸の内に潮騒のようにさざめく暖かさがあった。這い上がってくる冷たさと胸に押し寄せる暖かさ。二つの感覚は似て非なるもの。


 冷たさが自身の内側から生まれたものなら、暖かさは二人から伝わってくる外側から運ばれてきたものと思う。まるで心がつながっているかのように、勇子(ユウコ)とミュウの情動がゆっくりと浸透する。


「あ、あの————」


 (サクラ)が言葉を紡ごうとした瞬間、接近警報が鳴り響く。


 三人は弛緩していた気持ちを無理やりに引き締めて身体を強張らせる。敵性機は撤退しているのは間違いない。彼らは母艦の一つを失って、これ以上の戦いは危険と判断しているはずだからだ。


 だが、もう一つの勢力はそう考えてはいない。


〔アル・スカイ〕を囲うようにして次々と〔カムシャリカ〕が着地する。


 甲冑を纏った騎士のような〔AW〕は臨戦状態でいつ襲い掛かってきてもおかしくなかった。


「今度こそ決着をつけるぞ。破壊神っ」


〔カムシャリカ〕の操縦者、シャントッドは悠々と立ち尽くす白銀の機体を見てそう呻いた。


 (サクラ)たちは周囲を見回して、この困難に気持ちが委縮してしまう。


「ど、どうしましょう……」


 (サクラ)は赤い瞳に涙をためて言った。

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