09話 放課後の時間
あの帰り道から1週間。
学校にはいつもの日常が戻っていた。
授業を受けて。
昼休みを過ごして。
放課後を迎える。
怪物の姿も。
赤い光も。
あの日以来、現れていない。
だが4人の関係は、少しずつ変わっていた。
終礼のチャイムが鳴る。
2年生の教室。
蒼太が大きく伸びをした。
「よし、部活行ってくる」
碧羽も鞄を持ちながら立ち上がる。
「私も弓道行ってくるね」
橙真は軽く手を上げた。
「いってらー」
蒼太は笑う。
「サクッと終わらせてきてやるぜ」
碧羽が苦笑する。
「ちゃんとやってきてよ」
「してるしてる」
橙真が聞く。
「今日はどれくらい?」
蒼太が少し考える。
「1時間くらいじゃないか」
碧羽も頷く。
「私もそれくらいかな」
橙真は鞄を肩に掛けた。
「じゃあ、待ってようかな」
蒼太がふと思い出したように言う。
「もしかして咲、俺達のこと昇降口で待ってるんじゃないか?」
碧羽が笑う。
「あー、ありそう」
橙真も笑った。
「十分前行動してそうだな
じゃあ、俺行ってみるわ」
蒼太は手を上げる。
「頼んだ」
碧羽も微笑む。
「また後でね」
2人は教室を出ていった。
昇降口。
帰宅する生徒たちが次々と校舎を出ていく。
その中で咲は鞄を抱えながら立っていた。
時折、2年生の下駄箱の方へ視線を向けている。
そこへ橙真が歩いてきた。
「あ、橙真先輩」
「やっぱりいた」
咲が少し驚く。
「え?」
「待ってそうだなって思ってた」
咲は少し恥ずかしそうに笑う。
「そんなに分かりやすいですか?」
「かなり」
咲は小さく息をつく。
「否定は……できませんね」
橙真は笑った。
2人は昇降口を出る。
校庭近くのベンチ。
グラウンドでは陸上部が走っている。
弓道場からは静かな弦の音が聞こえてくる。
咲は校庭を見つめた。
「蒼太先輩、速いですね」
橙真も視線を向ける。
「昔からあんな感じだな。走ることだけは」
「だけは?」
「それ以外は結構雑」
咲は思わず笑った。
「でも楽しそうです」
「あいつは走ってる時が1番元気だからな」
しばらくして咲は弓道場の方を見る。
「碧羽先輩もすごいですね」
「中学の頃からずっとやってる」
「かっこいいです」
橙真は少し笑う。
「本人に言うと照れるかもしれないぞ」
咲も小さく笑った。
風が静かに吹く。
グラウンドの掛け声が聞こえる。
しばらく沈黙が続いた。
沈黙を壊さないように、橙真がふと口を開く。
「咲は俺のことどう見えてるの?」
咲は少し驚いた。
「え?」
「蒼太は元気で、碧羽は弓道が上手いだろ?」
「俺は?」
咲は少し考える。
そして小さく答えた。
「……優しいです」
橙真は少しだけ笑う。
「普通だな」
「普通が1番いいと思います」
「それならよかった」
咲も少し笑った。
時間が過ぎていく。
橙真がスマホを見る。
「そろそろ終わるな」
咲も立ち上がる。
「行きますか?」
「ああ」
2人は校門へ向かった。
夕方の校門。
少しずつ生徒たちが帰っていく。
しばらくして校庭の方から蒼太が走ってきた。
「お、いたいた!」
「お疲れ様です」
咲が言う。
「今日は軽かったからな」
その少し後、碧羽も弓道場の方からやってくる。
「ごめん、お待たせ」
「お疲れ様です」
咲が頭を下げる。
碧羽は微笑んだ。
「ありがとう」
4人が揃う。
夕日が校舎を赤く染めていた。
蒼太が鞄を肩に掛ける。
「じゃ、帰るか」
碧羽が笑う。
「久しぶりに4人揃ったね」
咲も少し嬉しそうに頷く。
「はい」
橙真が校門の外へ歩き出した。
「行くか」
4人は並んで歩き始める。
いつもの帰り道。
その先に待っている異変を、まだ誰も知らなかった。




