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08話 それぞれの時間


 終礼のチャイムが校舎に響いた。

 2年生の教室。

 蒼太が大きく伸びをする。


「終わったー」


 碧羽が鞄を持ちながら笑った。


「今日は長かったね」


 橙真も席を立つ。


「そろそろ行くか」


 蒼太が鞄を肩に掛ける。


「咲、もう待ってるかな」


 碧羽が言う。


「1年だから先に着いてるかもね」


 3人は教室を出た。

 廊下には帰宅する生徒たちの声が響いている。

 階段を下りながら蒼太が言う。


「まだ昨日から2日しか経ってないんだよな」


 碧羽が笑う。


「なんかもっと前みたい」


 橙真も頷いた。


「いろいろありすぎたしな」


 3人はそのまま昇降口へ向かった。

 

 昇降口。

 咲は鞄を抱えながら待っていた。

 2年生の昇降口側から3人が歩いてくる。

 咲は少し慌てて頭を下げた。


「お疲れ様です!」


 碧羽が笑う。


「待った?」

「いえ!」


 蒼太が靴を履き替える。


「じゃあ帰るか」


 橙真も頷いた。


「行こう」


 四人は学校を後にした。


 夕方の帰り道。

 オレンジ色の光が道路を照らしている。

 咲は少し後ろを歩いていた。

 蒼太が振り返る。


「そんな後ろ歩かなくていいだろ」

「あ……はい」


 咲は少し前へ出る。

 碧羽が笑う。


「まだ緊張してる?」

「少しだけ……」


 橙真が言う。


「そのうち慣れるよ」


 咲は頷いた。


「はい」


 しばらく歩く。

 碧羽が聞く。


「咲のクラスどう?」

「まだあんまり慣れてなくて……」

「1年の最初ってそんな感じだよね」


 蒼太も言う。


「俺も最初そうだったし」

「蒼太先輩もですか?」

「意外か?」


 咲は少し困ったように笑った。


「少しだけ……」


 四人の間に小さな笑いが生まれる。


 交差点。

 蒼太が足を止めた。


「俺こっちだ」


 咲が頭を下げる。


「さようなら、蒼太先輩」


 蒼太は少し困ったように笑った。


「だからそんな固くなくていいって」

「あ……はい」

「また明日な」

「はい!」


 蒼太は手を上げる。


「じゃあな」


 そのまま帰っていった。


 しばらく三人で歩く。

 咲が口を開く。


「蒼太先輩って昔からあんな感じなんですか?」


 橙真が答える。


「昔からだな」


 碧羽も笑う。


「全然変わってないよね」

「皆さん付き合い長いんですか?」


 橙真が言う。


「俺と蒼太は幼馴染」


 咲は驚く。


「そうなんですか?」


 碧羽が続けた。


「私は中学からかな」

「同じクラスになったんだよね」


 橙真も頷く。


「気づいたら今も一緒にいる」


 咲は少し羨ましそうに言った。


「いいですね」


 碧羽が優しく笑う。


「咲もそのうち慣れるよ」

「はい」


 土手へ続く道。

 碧羽が立ち止まる。


「私はここで

 また明日ね」


 咲が頭を下げる。


「はい、碧羽先輩」


 碧羽は少し笑う。


「何かあったら連絡してね

 学校のことでも何でも」

「ありがとうございます」


 碧羽は少し照れたように笑った。


「後輩できたの初めてだからちょっと嬉しいし」


 橙真が言う。


「それ前にも言ってたな」

「だって本当だもん」


 三人が少し笑う。

 碧羽は手を振った。


「じゃあまた明日」

「また明日です!」


 碧羽は土手の方へ歩いていった。


 残ったのは咲と橙真。

 夕方の住宅街。

 少し静かな帰り道。

 咲がぽつりと言う。


「なんだか不思議ですね」

「何が?」

「昨日まで知らなかったのに……」


 橙真は少し考える。


「そうだな」


 風が吹く。

 咲は少し笑った。


「でも楽しかったです」

 

 橙真も小さく笑う。


「俺も」


 やがて分かれ道に着く。


「じゃあまた明日」

「はい、橙真先輩」


 咲は頭を下げた。

 橙真も軽く手を上げる。

 二人はそれぞれの道を歩き始めた。

 

 夜。


「ただいま」


 咲が家へ入る。

 母が振り向く。


「おかえり」


 父もソファから顔を上げる。


「今日はどうだった?」


 咲は少し考えた。 

 昨日のこと。

 今日のこと。

 全部は話せない。

 それでも。


「楽しかったよ」


 母が笑う。


「友達できた?」

「先輩なんだけど……」


 父が聞く。


「いい人たちか?」


 咲は頷いた。


「うん」


 その後。

 咲は部屋へ戻る。

 ベッドへ座り、スマホを見る。

 橙真先輩。

 蒼太先輩。

 碧羽先輩。

 昨日まで知らなかった名前。

 咲は小さく笑う。


「また明日か……」


 窓の外には夜空が広がっていた。



 蒼太の部屋。

 ベッドに寝転びながら動画を見る。

 次々と映像が流れる。

 その時。

 海の動画が映った。

 青い海。

 波の音。

 蒼太の指が止まる。

 

「……」


 数秒。

 静かな時間。

 やがて動画を閉じる。


「……まだだめだな」


 スマホを置き、天井を見上げた。


 夕方の土手。

 碧羽が一人寝っ転がっている。

 風が吹く。

 誰もいない。

 碧羽は大きく息を吸う。


「────あーーーーっ!!」


 思いきり叫ぶ。

 叫び終え、少し笑った。


「すごい二日間だったな……」


 空を見上げる。

 夕焼けは夜へ変わろうとしていた。


 橙真の部屋。

 静かな夜。

 窓の外には街の灯り。

 橙真はベッドに腰掛ける。

 両耳にはイヤホンをつけている。

 咲のこと。

 赤い光。

 昨日の怪物。

 今日の帰り道。

 様々なことを思い返す。

 まだ分からないことばかりだ。

 だが。

 もう一人ではない。

 蒼太がいる。

 碧羽がいる。

 そして咲もいる。

 橙真は静かに窓の外を見つめた。


「……また明日か」


 同じ夜。

 同じ街。

 それぞれの時間が流れていた。

 そして。

 四人の物語は、まだ始まったばかりだった。

ここまでの放課後、崩壊する僕らの日常 ――それは、何気ない放課後から始まった。この話で第1章が完結いたします。連載はこれからも続けますので時間がある時に読んでくれると嬉しいです。これからもよろしくお願いいたします

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