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07話 いつもの朝


 朝日が街を照らしていた。

 昨日までと変わらない通学路。

 けれど咲にとって、その景色は少しだけ違って見えた。

 手の中のスマホ。

 画面には昨日登録した連絡先が並んでいる。

 橙真先輩。 

 蒼太先輩。

 碧羽先輩。

 咲は小さく息を吐いた。


「本当にあったんだ……」


 やがて公園の前へたどり着く。

 昨日怪物が現れた場所。

 入り口には黄色い警告テープが張られていた。


『立入禁止』


 壊れたベンチ。

 濡れたままの地面。

 昨日の出来事の痕跡だけが残されている。

 咲は少し立ち止まった。

 赤く光る怪物の核。

 蒼太の氷。

 碧羽の雷。

 そして橙真の炎。

 すべてが夢のようだった。

 しばらくして、咲は再び歩き始める。

 学校へ向かうために。


---


 校門が見えてきた。

 その時。

 校庭の方から誰かが走ってくる。

 首にタオルを掛けた男子生徒。

 咲より先に、その人物が足を止めた。


「あれ、咲?」


 咲は目を見開く。


「蒼太先輩!?」


 蒼太は少し笑った。


「え、同じ学校だったのか」


 咲も驚いたように返す。


「蒼太先輩も同じ学校だったんですね……!」

「昨日制服ちゃんと見てなかったからな」


 蒼太はタオルで汗を拭く。


「朝練終わったところ」

「陸上部なんですか?」

「長距離」


 咲は校庭を見た。


「朝から走ってたんですか……」

「毎日な」


 少し沈黙。

 そして蒼太が言う。


「昼、食堂来るか?」

「え?」

「橙真もいるし」


 咲は少し迷う。


「碧羽先輩もですか?」

「たぶん来る」


 咲は小さく頷いた。


「……はい!」

「じゃあ昼にな」


 チャイムが鳴る。

 二人は昇降口へ向かった。


 二年生の教室。

 最初に教室へ来たのは碧羽だった。

 窓際の席に座り、静かに本を読んでいる。

 しばらくして。


「おはよ」


 タオルを首に掛けた蒼太が教室へ入る。


「朝練お疲れ」


 碧羽が顔を上げる。

 蒼太は席へ座った。


「そういえば今朝、咲と会った」


 碧羽が首を傾げる。


「え?」

「同じ学校だった」

「えっ、そうだったの!?」


 その時。

 教室の扉が開いた。

 橙真が教室へ入ってくる。


「おはよう」

「おはよ」

「おう」


 蒼太が言う。


「咲、同じ学校だったんだな」


 橙真は少し不思議そうな顔をした。


「知らなかったの?」

「知らねぇよ」


 碧羽も笑う。


「私も知らなかったんだけど」


 橙真は首を傾げる。


「制服見てなかったのか?」


 蒼太は苦笑する。


「昨日そんな余裕なかったって」


 碧羽も頷いた。


「怪物いたしね……」


 蒼太が言う。


「昼、食堂誘っといた」

「じゃあ私も行く」


 橙真も頷いた。


「分かった」


 一時間目。

 二時間目。

 授業はいつも通り進んでいく。

 だが咲はあまり集中できなかった。

 昨日のこと。

 そして昼休み。

 休み時間。

 友達が咲の席へやってくる。


「昨日大丈夫だった?」

「あ……うん」

「防災対策課来てたよね

 公園、立入禁止になってたし」


 咲は少し俯く。


「そうなんだ……」

「結局なんだったんだろうね」


 咲は答えられない。

 怪物のこと。 

 三人のこと。

 自分に見えた赤い光。

 全部話せない。

 友達は笑う。


「でも無事でよかった」


 咲も小さく笑う。


「うん」


 そして。

 昼休みのチャイムが鳴った。


「咲、どこ行くの?」


 友達が聞く。


「ちょっと食堂に……」

「珍しいね」

「約束してて」


 咲は少しだけ笑った。


 食堂は生徒たちで賑わっていた。

 咲は少し緊張しながら中へ入る。

 すると。


「こっち」


 橙真が手を上げた。

 その隣には蒼太。

 そして。


「やっぱり来たね」


 碧羽が笑った。

 咲は少し安心したように笑う。


「失礼します」

「そんな緊張しなくていいって」


 蒼太が言う。

 碧羽が咲を見る。


「本当に同じ学校だったんだね」

「私もびっくりしました」

「昨日言ってくれればよかったのに」


 咲が橙真を見る。

 橙真は少し困ったように言う。


「言うタイミングなかったし」


 少し笑いが起きる。

 碧羽が優しく聞く。


「咲、あの後ちゃんと帰れた?」

「はい、大丈夫でした」

「遅かったから少し心配だったんだよね」


 蒼太も言う。


「家の人には怒られなかったか?」


 咲は少し苦笑した。


「少しだけ……」

「やっぱりか」


 橙真が言う。


「でも何とかごまかせました」


 碧羽は安心したように笑った。


「よかった」


 咲も尋ねる。


「先輩たちは大丈夫だったんですか?」


 蒼太は肩をすくめる。


「俺はいつも通り」


 碧羽は苦笑する。


「私は少し怒られたかな

 帰るの遅かったし」


橙真も言った。


「俺は一人暮らしだから問題なし」


 穏やかな時間が流れる。

 昼休み終了のチャイムが鳴った。

 蒼太が立ち上がる。


「あー、午後か」


 碧羽もトレーを持つ。

 その時。

 橙真が咲を見る。


「放課後時間あるか?」

「あります」

「じゃあ昇降口で」

「俺も行く」


 橙真が蒼太を見る。


「蒼太、部活はいいのか?」

「今日は休み」


 碧羽も笑う。


「私も今日は部活ないよ」


 咲が驚く。


「碧羽先輩も部活やってるんですか?」


「弓道部」

「蒼太は陸上」


 橙真が言う。


「俺だけ帰宅部」

「堂々と言うなよ」


 蒼太が笑う。

 少し笑いが起こった。


「じゃあ放課後な」

「はい!」


 3人の先輩たちは食堂を後にする。

 咲はその背中を見つめた。

 昨日まで知らなかった人たち。

 でも今は違う。

 放課後が少し楽しみだった。

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