80話 4人の連携
俺たちが視線を戻したとき、邪神体は液状化した道路を泳ぐように、ゆっくりとこちらへ近づいてきていた。
「こっち来るぞ!」
「ああ、分かってる!」
そう言うと、蒼太が右手を前へ突き出す。
次の瞬間、液状化した地面から泥水が勢いよく巻き上がり、無数の水滴が宙へ浮かんだ。
蒼太は一瞬で浮遊させた水滴と泥水を融合させ、鋭い氷柱へと変えていく。
「行け!」
氷柱が一斉に邪神体へ向かって放たれた。
何本もの氷柱が黒い硬質な鱗へ突き刺さり、激しい音を立てる。
しかし、身体を貫くよりも早く、邪神体は液状化した地面へ滑り込むように潜っていった。
「……地面の中に逃げられた!」
次の瞬間――
――ドォン!!
邪神体の巨大な顔が、蒼太の足元から凶暴な牙を剥き出しにして飛び出してきた。
「うおっ!?」
蒼太は反射的に邪神体の頭を蹴り、その反動で身体を前へ飛ばす。
間一髪で牙をかわした。
「蒼太、大丈夫か!?」
「ああ、牙には触れてないから大丈夫だ」
「それなら良かった……。碧羽、上からいけるか!」
「もちろん、任せて!」
碧羽は足元へ風を集め、その身をふわりと宙へ浮かせる。
高層ビルの間を滑るように舞い飛び、上空でしなやかに弓を構えた。
邪神体が再び地中から顔を出した瞬間、碧羽は弦を引き絞る。
「……っ!」
放たれた矢が一直線に邪神体の頭部へ突き刺さった。
だが、致命傷には至らない。
邪神体は再び泥水を巻き上げながら、地中へ潜って逃げた。
***
咲は俺の隣で、緊迫した様子で邪神体を見つめている。
「……あの邪神体の核の位置、どこなんだろ?」
少しでも見えやすい場所を探そうと、咲が一歩前へ出ようとした。
その瞬間――ぐいっ。
俺はとっさに咲の腕を掴み、その場に押しとどめた。
「橙真先輩?」
「これ以上、前に出るな。どこから邪神体が飛び出してくるか分からないからな」
「……はい、分かりました」
咲は素直に頷き、もう一度邪神体へ視線を戻した。
俺たち四人の中で、邪神体の核を見つけられるのは咲だけだ。
だからこそ、無理に前へ出すわけにはいかない。
***
地中を泳ぐ邪神体は、再び姿を現した。
その瞬間、蒼太へ狙いを定め、一直線に襲い掛かる。
「蒼太、一旦核を見つけたい! 回避に専念してくれ!」
「分かった!」
「ついでに、これを受け取ってくれ!」
俺は右手を前へかざし、小さな火の玉を生み出した。
火の玉は蒼太へ向かって飛んでいき、その身体へ吸い込まれるように消えていく。
次の瞬間、身体能力が一気に底上げされ、蒼太の踏み込みがさらに鋭くなった。
「……この感じ、久々だな」
「碧羽にも!」
俺はもう一つ火の玉を生み出し、風に乗せて上空の碧羽へ飛ばす。
彼女の身体へ溶け込んだ瞬間、その飛翔速度と旋回能力が一気に跳ね上がった。
「……確かにそうかもね!」
蒼太は蛇の猛攻をかわし続ける。
碧羽は上空を旋回しながら、邪神体の身体を細かく観察する。
そして――
***
邪神体は大きく身体を反らし、太い鎌首を高く持ち上げた。
「ギャアアアアアアッ!!」
空を切り裂くような咆哮が響き渡る。
その瞬間、咲の瞳が大きく見開かれた。
「見えました!橙真先輩!首の付け根に核があります!」
「了解!蒼太、今の状態で凍らせられるか!」
「ああ、任せろ」
蒼太が両手を大きく広げる。
すると、周囲の泥水が一斉に浮き上がり、邪神体の全身へ絡みついていく。
「……凍れ!」
――バキバキバキバキッ!!
一粒の水滴が凍ったのを皮切りに、氷結が一気に広がっていく。
巨大な黒い蛇は、瞬く間に全身を氷で覆われ、完全に動きを止めた。
「碧羽!」
「うん、任せて!」
上空で極限まで弦を引き絞る碧羽。
周囲を渦巻く風と雷光が一本の矢へと凝縮されていく。
――シュリィィィンッ!
「……これで倒せる!」
放たれた一撃は閃光となって飛び出した。
一直線に飛翔した矢は、凍り付いた邪神体の首の付け根――赤い核を正確に射抜く。
――パリン!!!
甲高い音が響き渡った。
赤い核が粉々に砕け散り、巨大な黒蛇の身体にも無数の亀裂が走る。
そして次の瞬間、邪神体は黒い粒子へと変わり、静かに崩れ去っていった。
***
周囲に、しばしの静寂が訪れる。
「……終わったか?」
蒼太が小さく呟いた。
「倒せたみたいだな」
「やった……!」
咲が安堵したように息を吐く。
だが――その直後だった。
――ゴゴゴゴゴ……!
「……え?」
地面の奥から、再び地鳴りが響き渡る。
邪神体が倒れたことで、液状化した道路の崩壊が一気に進み始めた。
道路が大きく波打ち、次々と地面が陥没していく。
アスファルトが轟音を立てながら崩れ落ち、その下にあった地面までもが泥水へと飲み込まれていった。
「これは!」
俺たち四人は息を呑み、崩れゆく街を見つめる。
やはり、今回も邪神体が倒れた直後に異変が起きた。
俺は崩壊する街から目を離し、遠く――三角州が存在する方角の空へ視線を向ける。
(ガブリエルの方は……どうなったんだろう)
「橙真、なにか言ったか?」
「ああ……倒せてよかったなって」
「そういうことか」
「たしかに、倒せてよかったよ」
「はい!!」
俺はもう一度、三角州の方角へ視線を向ける。
遥か遠くで、俺たちがまだ知らない恐ろしい異変が起きていないことを、強く祈りながら――




