70話 白銀の戦場
轟音を響かせながら押し寄せていた凄まじい雪崩は、俺――蒼太の氷の能力によって分厚い氷壁へと変えられ、完全に進行を止めていた。
「ふう……なんとか止めてやったぜ。おい、こんな雪、俺たちには必要ないから、お前に全部返してやるよ!」
そう言い放つと、俺は目の前の巨大な氷壁を一瞬で鋭利な氷柱の群れへと変形させ、邪神体へ向けて一斉に発射した。
――ドドドドドドドッ!!
しかし――氷柱の群れは、邪神体が激しく振り回した巨大な金棒によって、容赦なく叩き割られてしまう。
「……全部壊されたか。一本くらいは刺さると思ったんだけどな」
「蒼太、私、このまま上空から攻めるね!」
「ああ、分かった! 頼んだぞ、碧羽!」
「任せて」
碧羽は風を纏って空中を軽やかに舞いながら、上空から邪神体の隙を冷静に見極めて弓を構えた。
一方、俺は深く積もった雪を蹴り上げ、邪神体の足元に降り積もる雪を瞬時に凍らせていく。
「少しの間だけでもいい、じっとしてろ!」
――バキィィン……!!
邪神体は凄まじい腕力で金棒を振り下ろし、足元の氷を力任せに粉砕してみせた。
「……これでも足止めできないのか。それなら、攻撃の手数を増やして、一気に削り切るだけだぜ!」
俺は周囲の氷雪を操り、二十本近くの巨大な氷柱を宙へ浮かび上がらせた。
――ドドドドドドドドッ!!
次々と放たれる氷柱の嵐。
数本の鋭い氷柱が胸や脚へ深く突き刺さり、邪神体はたまらず大きくよろめいた。
上空の碧羽は、その一瞬の隙を逃さなかった。
弓に風の矢を同時に三本つがえ、さらに眩い雷光を纏わせる。
「……そこっ!」
――ヒュンッ!!
三本の雷を纏った風の矢が、一斉に射出される!
一本目と二本目は金棒で弾かれたが、三本目の矢が邪神体の左腕へ深く突き刺さった。
――ドシュッ!!
「蒼太、今だよっ!」
「ああ、任せろ!!」
俺は一気に踏み込み、横薙ぎに振るわれた金棒を極限まで身を低くして潜り抜ける。
そのまま右手を前へ突き出し、四本の氷柱を放った。
――ズガガガガッ!!
氷柱が邪神体の防御を大きく崩し、胸元が完全に露出する。
「これで終わりだぁっ!!」
――ドッスン!!
俺が生み出した巨大な氷柱が、邪神体の右半身を深々と貫いた。
それと同時に、上空から碧羽の雷を纏った風の矢が降り注ぐ。
「貫いてっ!!」
――ドシュッ!!
矢が左半身を貫通した瞬間、邪神体の全身に無数の光の亀裂が走った。
――ガァァァァァァァッ!!
断末魔の叫びが響き渡る。
やがて、その巨大な身体は黒い粒子へと変わり、ゆっくりと崩れ落ちていった。
「……やった!」
「よっし!」
二人が拳を握った、その直後だった。
――ゴゴゴゴゴゴゴ……!!
「……え?」
邪神体が消えた場所から、再び大地を揺るがすような轟音が響き始める。
周囲に積もっていた巨大な雪の塊が、一斉に崩れ始めた。
「しまった……雪崩だ!」
邪神体が消えた直後に起きる、異常な自然災害。
また、この現象だ。
俺がそう考えた瞬間、山肌から巨大な雪の塊が一気にこちらへ押し寄せてきた。
「まずい!」
距離が近すぎる。
氷壁を作るには間に合わない。
その時――。
「蒼太っ!!」
――ゴォォォッ!!
上空の碧羽が放った突風の渦が俺を包み込み、その身体を一気に宙へと持ち上げた。
「うおっ!?」
次の瞬間、俺たちの真下を、巨大な雪崩が凄まじい轟音とともに駆け抜けていった。
――ズズズズズズズ……!!
雪と土砂が山肌を削りながら流れ落ち、視界一面を白く染めていく。
数秒後、ようやく雪崩が静まり、俺と碧羽は積もった雪の上へ無事に着地した。
「ふう……碧羽、助かった!」
「助けるのは当たり前でしょ。怪我してないよね?」
「怪我してないぞ」
荒れ狂っていた吹雪が止み、一瞬だけ空に静寂が戻る。
だが――俺の胸には、嫌な予感が残っていた。
邪神体が消えた直後に起こる、異常な自然災害。
今回も、同じ現象が起きた。
この現象には、何か意味があるはずだ。
そんな気がしてならなかった。
***
――プルルルルッ!
静寂を切り裂くように、俺のスマホが鳴った。
画面には『花江さん』の文字。
俺はビデオ通話に切り替えて出る。
『蒼太くん! 碧羽さん! 総合公園の邪神体反応の消失を確認しました! 本当にお疲れ様です!』
「はい、今ちょうど倒し終わったところです」
『あの……蒼太くん、碧羽さん。橙真くんから何か連絡は来ていますか……? 実は、先ほどから連絡がつかなくて……』
「いえ、来ていませんけど……花江さん、まだ邪神体の反応は残っていたりしますか?」
『はい。山間部に邪神体の反応が残っています』
二人は、同時に視線を交わした。
「もしかしたら橙真のやつ、そこへ一人で向かっているのかもしれません。俺たちも山間部へ向かってみます」
『了解しました! 風宮さんも現在、山間部へ向かっているので、現地に着いたら、合流してください!』
「分かりました!」
通話が切れる。
二人は遠くを見つめた。
その先には、山間部から立ち昇る黒煙が見えていた。
「もしかして橙真、また一人で無理をしてるのかな……」
「ああ、間違いないな……」
俺は拳を強く握り締める。
「とにかく……急ごう!」
「うん!」
二人は、橙真がいるであろう山間部へ向かって、全力で駆け出した。




