70話 白銀の戦場
轟音を響かせながら押し寄せていた凄まじい雪崩は、蒼太の発動した氷の能力によって分厚い氷壁となり、完璧にその進行を止めていた。
「ふう……なんとか止めてやったぜ。おい、この雪は俺たちにはいらないから、お前に全部返してやるよ!」
そう言い放つと、蒼太は目の前の巨大な氷の壁を一瞬で鋭利な無数の氷柱へと変形させ、邪神体に向けて一斉に発射した。
しかし――氷柱の群れは、邪神体が狂暴に振り回した巨大な金棒によってすべて豪快に叩き割られてしまう。
「……全部壊されたか。一本くらいは刺さると思ったんだけどな」
「蒼太、私、このまま上空から攻めるね!」
「ああ、分かった! 頼んだぞ、碧羽!」
碧羽は風を纏った疑似飛行で空中を軽やかに舞いながら、上空から邪神体の隙を冷静に捉えて弓を構えた。
一方、蒼太は深く積もった雪を強く蹴り伸ばし、邪神体の足元へ降り積もる雪を瞬時に凍らせていく。
「少しの間だけでもいい、じっとしてろ!」
――バキィィン……!!
邪神体は身の毛もよだつ腕力で金棒を振り下ろし、足元の氷を力任せに粉砕してみせた。
「……これでも足止めできないのか。それなら、手数を増やして一気に叩いて削り切るだけだ!」
蒼太は周囲の氷雪を操り、およそ二十本におよぶ巨大な氷柱を宙に浮かび上がらせた。
――ドドドドドドドドッ……!!
次々と放たれる氷柱の嵐! 数本の鋭い氷柱が胸や脚へ深く突き刺さり、邪神体はたまらず大きくよろめいた。
***
上空の碧羽は、その一瞬の隙を逃さなかった。
弓に風の矢を同時に三本つがえ、眩い雷光を纏わせる。
「……そこっ!」
――ヒュンッ……!!
三本の雷を纏った風の矢が射出される! 一本目と二本目は金棒で弾かれたが、三本目の矢が邪神体の左腕へ深く突き刺さった。
――ドシュッ……!!
「蒼太、今だよっ!」
「任せろ!!」
蒼太は一気に踏み込み、横薙ぎの金棒を極限まで低くなって潜り抜ける。
右手を前へ突き出し、放った四本の氷柱が邪神体のガードを大きく抉じ開けた!
「これで終わりだぁっ!!」
――ドッスン……!!
蒼太の生成した規格外の巨氷が邪神体の右半身を深々と貫く!
それと同時に、上空から碧羽の雷を纏った風の矢が降り注いだ。
「貫いてっ!!」
――ドシュッ……!!
矢が左半身を貫通すると、邪神体の全身に無数の光の亀裂が走る。
――ガァァァァァァァッ……!!
断末魔の叫びが響き渡り、巨大な身体は真っ白な粒子となってゆっくりと崩れ落ちていった。
***
――ゴゴゴゴゴゴゴ……!!
だが直後、邪神体が消えた場所から巨大な雪の山が一斉に崩れ始めた!
「しまっ……雪崩だ!」
距離が近すぎて氷の壁が間に合わない! その時――
「蒼太っ!!」
――ゴォォォッ……!!
上空の碧羽が放った突風の渦が蒼太を包み込み、身体を宙へと持ち上げた。
蒼太の真下を、巨大な雪崩が凄まじい轟音とともに駆け抜けていく。
数秒後、雪崩が静まり返り、蒼太は積もった雪の上へ無事着地した。
「ふう……碧羽、助かったよ!」
「助けるのは当たり前だよ。怪我してないよね?」
「怪我してないぞ」
荒れ狂っていた吹雪が止み、空に静寂が戻る。
***
――プルルルルッ!
スマホの画面には『花江さん』の文字。ビデオ通話に切り替えて出る。
『蒼太くん! 碧羽さん! 総合公園の邪神体反応の消失を確認しました! 本当にお疲れ様です!』
「はい、今ちょうど倒し終わったところです」
『あの……蒼太くん、碧羽さん。橙真くんから何か連絡来ていますか……? 先ほどから連絡がつかなくて……』
「いえ、来ていませんけど……花江さん、まだ邪神体の反応って残っていたりしますか?」
『はい、山間部に邪神体の反応が残っています』
二人は視線を交わした。
「もしかしたら橙真のやつ、そこに一人で行っているのかもしれません。俺たちも山間部へ向かってみます」
『了解しました! 風宮さんも現在山間部へ向かっているので、現地に着いたら合流してください!』
通話が切れ、二人は遠くで黒煙が立ち昇る山間部を見つめた。
「橙真のやつ、きっと一人で無理をしているよね」
「ああ、それ間違いないな……急ごう!」
「うん!」
蒼太と碧羽は、橙真がいるであろう灼熱の戦場へ向けて全力で駆け出した――




