表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/73

62話 届いてほしい思い

 俺は耳に装着しているイヤホンへ、そっと指先で触れた。


「俺が能力に覚醒したのも、五年前の小学五年生の頃だったと思います。あの時は……」


***


 2011年3月11日の午前。小学校の教室。


「はーい、みんな! ここまでの問題は理解できたかー?」

「はーい!」

「よし、それじゃあ次のページに進むぞー」


 いつものように、授業が進んでいた。

 そんな中、一人の生徒がふと声を上げる。


「先生! 橙真の様子がなんか変です!」

「え……? おい日向、大丈夫か?」


 先生が駆け寄ってきて、俺の額へそっと手を当てた。


「これは……少し熱がありそうだな」

「……すみません、先生」

「謝るようなことじゃないよ。体調が悪いのなら、今日は無理せず早退しようか」


 俺は頭の重さに耐えながら、ただ俯くことしかできなかった。


 しばらくすると、連絡を受けた母さんが慌てて学校まで迎えに来てくれた。


「橙真、大丈夫? 気分悪くない?」

「うん……大丈夫」


 母さんに優しく手を引かれ、俺は家へ帰った。

 自宅へ戻ると、俺は家の奥にある静かな部屋で布団に入った。


「無理しないで、ゆっくり休みなさいね」


 母さんが優しく布団を掛けてくれた。

 俺はそのまま安心したように、いつの間にか深い眠りについていたらしい。


 その間に、仕事に出ていた父親も心配して帰宅してくれていた。

 父さんも俺の寝顔を見て、優しく微笑んだ。


「きっと夕方頃には元気になっているさ」

「そうですね」


 俺は両親の温かい気配を感じながら、再び静かに目を閉じた。


***


 だが、まさにその時だった。


 ――ゴゴゴゴゴゴ……!!


 突如として家全体が猛烈に激しく揺れ始める。

 父さんが急いで立ち上がった。


「地震だっ!!」


 次の瞬間――ドォンッ!!

 立っていることすら不可能なほどの壮絶な揺れが家を直撃した。


 大きな家具が倒れ、食器棚からガラスが割れる甲高い音が響き渡る。

 家全体が悲鳴を上げるように大きく軋む。


 不気味で長い揺れが延々と続いた後、ようやく揺れが一旦収まった。

 父さんが必死の形相で俺の部屋へ駆け込んでくる。


「橙真、大丈夫か!? すぐに外へ避難するぞっ!!」


 俺は深く頷き、父さんと母さんとともに玄関へ向かって走り出そうとした。

 しかし、まさにその時だった。


『火事だーーーっ!!』


 どこからか叫び声が外に響き渡った。

 窓の外を見ると、近所の家から真っ赤な炎が立ち上っている。

 吹き荒れる強風に煽られ、炎は瞬く間に近くの家々へと次々に燃え広がっていった。


「急ぐぞっ!!」


 三人で外へ向かって走り出す。

 しかし――ズドーンッ!!


 凄まじい爆音とともに、頭上の大きな梁が崩れ落ちてきた。

 通路が完全に塞がれ、落ちてきた衝撃で俺は家の奥深く弾き飛ばされた!


「橙真っ!!」


 父さんと母親さんは迷うことなく、俺の元へ向かって必死に駆け寄ろうとする。


「大丈夫か!? 今助けるからなっ!!」

「待っててね、橙真っ!!」


 二人は必死の思いで重い瓦礫を取り除き始めた。

 俺も向こう側から必死に瓦礫を押す。


「父さん! 母さんっ!!」


 しかし、勢いを増した炎は容赦なく迫ってくる。

 熱気で肌が焼け焦げそうで、黒煙で前が全く見えない。あまりの熱さに意識が朦朧としてくる。


 容赦のない炎が、俺と両親の間を残酷に割いていく。


「父さんっ!! 母さんっ!! 助けてっ……!!」


 そして追い打ちをかけるように、激しい余震が襲いかかってきた。

 凄まじい揺れの中、そして揺れが止まった後――何度も叫んでも、両親からの返事が返ってくることは二度となかった。


***


 ただ、真っ赤な炎だけが全てを焼き尽くすように燃え広がっていく。


 助けたいのに、助けられない。

 激しい悔恨、圧倒的な喪失感、そして全てが無に帰すような虚無感。


 それらの巨大な感情が、俺の心を完全に飲み込んだ。

 次の瞬間、俺の身体から眩いばかりの光が解き放たれた。


 ――ドォォォッ!!


 俺の体内から、暴走した巨大な炎が勢いよく吹き荒れた!

 俺の炎は壁を焼き払い、柱を削り、天井までもを一瞬で焼き尽くしていく。猛火は家の外へと留まることなく広がっていった。


 俺は何も言えなかった。

 ただ灼熱の炎の中心にぽつんと立ち尽くし、完全に感情を失った瞳で、燃え続ける世界をぼんやりと見つめていたのだった。


 炎はさらに激しさを増していく。


 その時だった。


 燃え盛る炎の向こうから、一人の巫女がゆっくりと歩いてきた。

 狂暴な炎の中を歩いているにもかかわらず、その佇まいは少しも揺らぐことがない。


 巫女は呆然と立つ俺の前で立ち止まった。

 何も言わず、手にしていた一つのイヤホンをそっと差し出してくる。


 震える手でそのイヤホンを受け取り、静かに自分の耳へ装着する。


 ――スッ……


 その瞬間、あんなに暴走していた巨大な炎が、まるで嘘のように一瞬で鎮まっていった。

 周囲が完全な静寂に包まれた瞬間、巫女は静かに、涼やかな声で口を開いた。


「そのイヤホンは、決して外してはなりませんよ」


 俺は驚いて顔を上げた。

 しかし、そこにはもう巫女の姿はどこにもなかった。


 知識も力も追いつかない幼い俺はそのまま、強い疲労感とともにその場へ倒れ込んだのだった――


***


 現代の会議室。

 俺は耳のイヤホンへそっと触れながら、静かに語り終えた。


「……っていうのが、俺が能力に覚醒した理由です。事故の後、道路で倒れてからのことは……よく覚えてないです」


 会議室には重苦しい静寂が静まり返る。

 碧羽は両手をぎゅっと強く握り締めた。


「そんな悲しいことがあったなんて……」

「橙真も……ずっと辛かったんだな」


 花江さんは静かに目をつむる。


(風宮さんとお姉さん……私とお姉ちゃん……そして橙真くん。大切な人を失う深い悲しみは、それぞれの形は違っても、等しく同じだったんだ……)


「橙真くんも……辛い過去を、ずっと一人で抱え込んでいたんだね」


 俺は黙って頷いた。


 その時、咲の瞳から大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちた。

 咲はゆっくりと立ち上がり、俺の前まで歩み寄ってくる。


「咲……どうした?」


 咲は何も言わず、俺の身体にそっと強く抱きついてきた。

 彼女は俺の胸へ顔を埋め、震える声で愛おしそうに呟く。


「……もう大丈夫ですよ、橙真先輩」


 俺は驚いて少しだけ目を見開いた。

 そして、愛おしそうに咲の頭へそっと優しく手を置いた。ぽん、ぽん、と優しく叩いてやる。


「……ありがとうな、咲」


 碧羽はその温かい光景を見て、涙を浮かべながら小さく微笑んだ。

 蒼太も静かに口元を和らげる。花江さんは優しく微笑みながら二人を見つめていた。


 風宮さんは静かに場にいる全員を見渡した。


「日向、辛い過去を話してくれてありがとう……これで全員の話を聞き終えたが、いくつか気になる点がある」


 風宮さんの一言で、会議室の空気が再びキュッと引き締まった――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ