54話 炎VS炎
河川敷では、全身に猛烈な炎を纏った邪神体が、巨大な炎の大剣を力任せに振り回していた。
俺――橙真は咄嗟に横へ跳躍し、紙一重でその強烈な一撃をかわす。
振り下ろされた大剣は、凄まじい地響きとともに地面を大きく抉り取った。
俺は素早く立ち上がると、そのまま距離を取る。
(……風宮さん!)
先ほど起きた土砂崩れの向こう側へ視線を向けた。
まだ風宮さんはこちら側へ来られていない。
風宮さんが合流するまでは、俺一人で無理に攻め込むわけにはいかなかった。
邪神体の大剣が、再び上空から振り下ろされる。
俺は間一髪で横へかわした。
――ドォン!
間髪入れず、今度は大剣による横薙ぎが襲いかかってくる。
俺は姿勢を急激に低くして、それをやり過ごす。
次は、大剣の切っ先が鋭く突き出された。
身体を限界まで捻り、紙一重で回避する。
風宮さんが来るまで――俺はひたすら攻撃をかわし続け、時間を稼ぐことだけに集中していた。
***
一方その頃、俺――風宮は、大量の土砂をどうにか乗り越えようと必死にもがいていた。
「……日向!」
焦りから駆け出そうとする。
しかし、一歩踏み出すたびに足元がズルズルと崩れ落ち、思うように前へ進むことができない。
雷を纏って一気に駆け抜けようとしても、土砂が次々と崩れ、うまく進むことができなかった。
「くそっ……! 早く助けに行かなければ……!」
***
だが、防戦一方の回避行動にも、ついに限界が訪れた。
俺――橙真は、足元の河川敷に転がっていた大きな石につまずいてしまった。
「……っ!?」
体勢を崩した、その隙を見逃すはずもない。
邪神体は大剣を大きく横へ薙ぎ払った。
この広範囲の攻撃を、そのまま避け切るのは不可能。
俺は瞬時に判断し、自分の身体の周囲へ炎のドーム状の防壁を展開した。
――バァァァン!!
大剣が炎の防壁へ激しく激突する。
爆発的な衝撃とともに、俺は防壁ごと大きく吹き飛ばされた。
「……っ!!」
身体が激しく吹き飛び、河川敷の石地面を何度も転がる。
――ドン! ドン! ドン……!!
何度も地面へ叩きつけられ、ようやく勢いが止まった。
俺は全身を走る激痛に耐えながら、ゆっくりと立ち上がる。
目の前では、炎を纏った邪神体が再び大剣を頭上高く掲げていた。
俺は土砂崩れの向こうをもう一度確認する。
風宮さんは、まだ来られない。
――俺は覚悟を決めた。
右耳のイヤホンへと、そっと手を伸ばす。
「……こうなったら、仕方ないか」
右耳から静かに外す。
――カチッ。
その瞬間――世界から、一切の音が消えた。
流れる川のせせらぎも、遠くで鳴く鳥の声も、邪神体の咆哮さえも。
何も聞こえない。
完全なる無音の世界。
その直後――邪神体の大剣が勢いよく振り下ろされた。
俺は振り下ろされた大剣を、片手で真っ向から受け止める。
――ガァァン!!
そして次の瞬間――俺は一瞬で邪神体の懐深くへ潜り込み、重い拳を一撃叩き込んだ!
――ドカァァン!!
鈍い衝撃波が走り、邪神体の巨体が大きく後退する。
俺は間髪入れずに拳を打ち込み続けた。
一発、二発――三発――。
何度も身体を削るような打撃を、叩き込んでいく。
それでも邪神体は倒れることはなかった。
俺は一度、巨体から距離を取る。
そして――鋭い視線を、炎の大剣へ向けた。
大剣の中央部。
そこには、赤く不気味に光り輝く一つの宝珠が浮かんでいた。
邪神体が再び大剣を振り上げる。
俺は邪神体の正面へ一直線に駆け出した。
振り下ろされる大剣とほぼ同時に、赤く光る宝珠へ向かって真っ直ぐ跳躍する。
そのまま拳を強く握り締めた。
迫る大剣の刃を拳で強引に弾き飛ばし、地面へ深く突き刺させる。
そして――剥き出しになった赤い宝珠を正確に捉えた。
一気に間合いを詰め、拳を突き出す!
――パリン――!!
炎を纏った拳によって、赤い宝珠が鋭い音を立てて粉々に砕け散った。
炎を纏っていた邪神体と大剣は黒い粒子となり、その場から崩れ落ちるように消滅していく。
しかし、その直後――大剣が突き刺さっていた場所を中心に、周囲の草木へ炎が燃え移った。
大規模な火災が発生する。
燃え広がる猛火の真ん中で、俺は、ただ静かに佇んでいた。
***
俺――風宮は、ようやく崩れた土砂を乗り越え、息を切らしながら駆けつけた。
燃え盛る炎の向こう側。
そこに立つ日向の姿を見つめた。
俺は思わず息を呑む。
「……日向!! あの邪神体を一人で倒したのか……!?」
俺の声が届いているのかは分からない。
だが、日向の身体を包み込んでいた凄まじい炎が、不規則に揺れ始めた。
まるで力を失うように――彼の全身から燃えるような炎が、スーッと消えていく。
日向は右耳にイヤホンを付けていた。
――カチッ。
すべての炎が消えた、その瞬間――。
「ごほっ……!!」
日向は血を大量に吐き出すと、その場へ強く膝をついた。
そして、力が完全に抜けたかのように、前へ崩れ落ちていく。
「……っ!!」
俺は泥を蹴って飛び出した。
倒れ込む日向の身体を、慌てて正面から受け止める。
「おい、日向! しっかりしろ、日向!! おい! おい!」
返事は返ってこない。
日向はゆっくりと瞳を閉じた。
そのまま俺の腕の中で、完全に意識を失った。
燃え盛る炎だけが、静寂の戻った河川敷を照らし続けていた――。




