53話 海岸での戦い
海岸では、俺――蒼太と狼型の邪神体が同時に砂浜を蹴り飛ばした。
一直線に互いの身体が高速で肉薄していく。
俺は敵を見据え、静かに氷の力を全身へ巡らせながら構えた。
「これで決める――!」
狼型の邪神体が空中へ高く躍り出る。
それと同時に、俺は空中に無数の鋭い氷柱を一瞬で生成した。
「――これで終わりだ!」
その言葉と同時に、無数の氷柱を邪神体へ向けて一斉に解き放つ。
――シュシュシュシュッ!!
無数の氷柱が凄まじい速度で飛翔し、向かってくる邪神体へ次々と突き刺さっていく。
氷柱は硬い皮膚を次々と突き破り、その身体を深く貫いた。
――パリンッ!!
内部に隠された核が、鋭く甲高い音を立てて砕け散る。
邪神体は苦しげな咆哮を上げながら、黒い粒子となって空気中へ崩れ去っていった。
***
だが、その直後――海岸を覆っていた吹雪が、一気に激しさを増した。
視界はさらに白く染まり、強烈な冷気を孕んだ風が海岸全体を吹き荒れる。
花江さんはこちらを見て、ハッとした表情を浮かべた。
「取り込んでいたのは……吹雪だったんですね!」
まさにその瞬間――花江さんの背後へ、巨人の太い拳が振り下ろされる!
「……っ!?」
激しい連続攻撃に、花江さんの反応がわずかに遅れた。
「花江さん、しゃがんでください!」
声が届いた瞬間、花江さんは咄嗟に身を低く沈める。
直後――彼女の周囲に強固な氷の壁が出現し、水を纏った巨大な邪神体の拳を受け止めた!
――ガンッ!! パリンッ!!
激しい衝撃音とともに氷の壁は粉々に砕け散った。
だが、拳の直撃は完全に免れていた。
「……間に合ってよかった……!」
「蒼太くん、ありがとうございます! 本当に助かりました!」
俺は邪神体へ向き直る。
「花江さん、あっちの邪神体は撃破しました。なので、今からあいつの撃破に集中します。サポートをおねがいしてもいいですか?」
「もちろんです! 任せてください!」
***
俺と花江さんは同時に、見上げるほど巨大な邪神体へ鋭い視線を向けた。
視線を上げると、邪神体は不気味にゆっくりと太い両腕を広げている。
その背後では、海面が地鳴りのような音を立てて激しく揺れ始めていた。
花江さんは再び両の手のひらへ、まばゆい光を集め始める。
「光で一瞬、あの邪神体の動きを止めますね!」
俺は腰を低く落とし、静かに氷の構えを取り直した。
「お願いします! あと、できればあいつの姿を光で強く照らしてほしいです!」
「わかりました! この吹雪じゃ、敵の姿を視認することすら難しいですよね!」
花江さんは一気に集めた強烈な光を、空中へ解き放った!
巨大な光球が邪神体の眼前で激しく爆発する。
――バシィィィン!!
眩しさに邪神体は思わず太い腕で顔を覆い、動きを止めた。
そして解き放たれた光は、荒れ狂う吹雪の空間を明るく照らし続ける。
「蒼太くん、今です!」
「ありがとうございます……これで終わらせます!」
俺は右手を前方へ強く突き出した。
空中に無数の巨大な氷柱が生成される。
次の瞬間――氷柱が一直線に邪神体の胴体へ向けて飛翔した。
その巨体を正確に射抜き、深々と貫いていく。
――パリンッ!!
内部の核が粉々に砕け散る。
邪神体はゆっくりと膝から崩れ落ち、漆黒の粒子となって虚空へ消失していった。
***
しかし、その瞬間――はるか沖合から、腹に響く地鳴りのような轟音が響き渡った。
――ゴゴゴゴゴゴ!!
海面が、山のように大きく盛り上がっていく。
海岸全体を飲み込もうとする、巨大な津波が発生しようとしていたのだ。
花江さんは息を呑み、顔を蒼白にさせる。
「……っ、もしかして津波!?」
巨大な波の轟音が、不気味に海岸中へ響き渡る。
「……っ!」
俺の全身が強張った。
一瞬、呼吸が止まり、激しく乱れていく。
「はっ……っ」
胸の奥が締め付けられるように痛む。
「はぁっ……はっ……」
視線が、目前に迫る巨大な津波からどうしても離れない。
両手がガタガタと激しく震え始めた。
あの水の向こうに何があるのか。
頭では分かっている。
今は戦うためにここにいる。
それでも――身体だけが、あの日の恐怖を思い出していた。
異変に気づいた花江さんが俺の元へ駆け寄り、前かがみになって顔を覗き込む。
「蒼太くん、大丈夫ですか!?」
心配そうに必死に声をかけてくれる花江さん。
それでも俺は、吸い寄せられるように津波へ向かって一歩、また一歩と震える足を踏み出していた。
激しく震える両手を、ゆっくりと迫り来る巨大な海原へ向ける。
「止まって……くれぇっ!!」
――ズズズズズズズバンッ!!
次の瞬間、海中から無数の巨大な氷柱が突き上がった。
凄まじい音とともに、押し寄せる津波が巨大な氷壁へと変わっていく。
そして――巨大な津波は、完全に凍りつき、その場で止まった。
***
津波が静止した瞬間、静寂が海岸へと広がっていく。
俺は全身の力を使い果たし、そのまま砂浜へ膝から崩れ落ちた。
花江さんは凍りついた巨大な津波を見上げ、安堵から小さく息を漏らす。
「蒼太くん、やったね! 津波を止めるなんてすごいね!」
花江さんは笑顔で駆け寄り、右手を差し出した。
「蒼太くん……?」
しかし、俺はその手に気づかなかった。
「はぁっ……はぁっ……」
荒れ狂った海だけを、虚ろな目で見つめる。
浅く乱れた呼吸を繰り返しながら、身体の震えを止めることもできない。
花江さんの表情から、笑顔が消えた。
「っ、蒼太くん!?」
吹雪の残る白い海岸で、俺はただ静かに海を見つめ続けていた――。




