52話 それぞれの戦い
一方――河川敷の向こう側では、俺――風宮が、目の前で不気味にうごめく巨大な邪神体を鋭く見据え、静かに刀を構えていた。
邪神体の三つの首は、それぞれ別の方向へ不気味に頭を巡らせ、低い唸り声を上げている。
夕暮れの西日が薄く射し込む中、張り詰めた緊張感が辺り一面を包み込んでいた。
次の瞬間――三つの方向から同時に、牙が襲い掛かってくる!
俺は一歩深く踏み込み、一つ目の首の噛みつきを横へ身体を滑らせて回避した。
続いて迫る二つ目の首に対しては、身体を大きく捻り、その鋭い牙を紙一重でかわす。
だが、息つく間もなく三つ目の首が目前まで迫っていた。
俺は瞬時に右手から刀を離し、落下させる。
同時に左手で逆手に握り直した。
三つ目の牙を刀で受け流すと同時に、全身へ雷を纏う。
そして――凄まじい回転とともに、邪神体の背後へ一気に駆け抜けた。
そのまま三つ目の顔へ鋭い一閃を放ち――首を一つ、豪快に斬り落とす!
――ズバァッ!!
邪神体の背中を強く蹴り上げ、すぐさま後方へ跳んで距離を取る。
深く呼吸を整えながら、刀を右手に握り直した。
しかし次の瞬間――地面に落ちて崩れたはずの首が、不気味な音を立てながら元通りに再生した。
(……この邪神体、以前戦ったあの邪神体と同じなら、三つの首を同時に斬り落とせば倒せるはずだ)
まるで思考を見透かしたかのように、邪神体が再び突進してくる。
三つの首が同時に大きく口を開き、牙を剥き出しにした。
「これで決める――!」
怪物の首が一直線に並ぶ一瞬を狙う。
俺の姿は、その場から消えた。
次の瞬間――三つの首の間を、一閃が疾風のごとく駆け抜ける。
――ズバァァァッ!!
三つの首が、同時に空高く舞い上がった。
「ガァァァァァッ!?」
邪神体は苦しげな絶叫を上げ、巨大な胴体を激しく揺らす。
三つの首を同時に斬り落とされたことで核が砕け、その身体は黒い粒子となって崩壊していった。
***
だが、その直後――。
――ゴゴゴゴゴ……!!
河川敷全体が、轟音とともに激しく揺れ動いた。
「……っ!」
俺は即座に足元へ視線を落とす。
河川敷の斜面が、凄まじい勢いで音を立てて崩れ始めていたのだ。
大量の土砂が土煙を巻き上げながら、斜面を一気に流れ落ちていく。
「これが……取り込まれていた災害か」
流れ落ちた土砂が河川敷の通路を一気に飲み込み、俺と日向の間を深く分断するように塞いでいく。
日向の元へ駆け出そうとした、その時――さらに巨大な土砂崩れが発生し、目前の進路を完全に塞いだ。
「……くっ、早く日向の元へ行かないと!」
立ち込める膨大な土煙の向こう側。
遥か視線の先では、激しい炎を纏う巨人型の邪神体と、日向の熾烈な戦いが今も続いている。
(……日向……もう少し耐えてくれ!)
俺は刀を強く握り締め、土煙の向こうにいる仲間の姿を睨みつけた。
***
一方、海岸では荒れ狂う高波が絶え間なく砂浜へ打ち寄せていた。
俺――蒼太は、目の前に立ち塞がる二体の邪神体を見据えながら、深く呼吸を整えていた。
狼型の邪神体が低い姿勢から濡れた砂浜を強く蹴り上げ、猛然と飛び出してくる。
まさにその瞬間――!
――バシィッ!!
閃光弾が二体の邪神体のすぐ目の前で激しく弾け飛んだ。
周囲一帯が、目が眩むほどの強い白い光に包み込まれる。
「……蒼太くん! 光を直接見てませんか、大丈夫ですか!?」
後方から駆け寄ってきたのは、花江さんだった。
「大丈夫です、見えています! それより、今のって……!」
「光を圧縮した特殊な閃光弾を、邪神体に向けて投げ飛ばしたんです!」
「そうなんですね! すごい効果ですね!」
「いえ、あの光は目眩まし程度にしか使えません。直接的な攻撃力はないので」
花江さんはちらりと水を纏った巨人型の邪神体へ視線を向ける。
「でも、これを使えばあの巨人を少しの間なら押さえられます。こちらは任せてください。蒼太くんは、もう一体を確実に倒してから合流してください!」
「分かりました! こっちは早く片付けて、すぐに合流します!」
「お願いします!」
力強く答えると、俺は狼型の邪神体へ素早く振り返った。
その途端、水を纏った巨人型の邪神体が、丸太のような太い腕を上空から振り下ろそうとしていた。
俺が回避行動を取るより早く――花江さんが再び、まばゆい光を放つ閃光弾を飛ばす!
巨人型の邪神体は強い光を直接視界に入れまいと、振り下ろしかけた腕を慌てて顔の前へ持ち上げ、光を遮った。
「蒼太くん、そっちに集中してくださいね!」
「分かりました……少しの間、そっちはお願いします!」
俺は狙いを定め、狼型の邪神体へ向き直る。
花江さんも巨人型の邪神体へ絶え間なく光を飛ばし、確実に牽制してくれている。
目の前で威嚇するように低い唸り声を上げる狼型の邪神体を、俺は鋭く睨みつけた。
荒れ狂う波の音が響く。
濡れた砂が足元から崩れる。
それでも、もう迷いはなかった。
俺は力強く足元の砂を蹴り飛ばし、跳躍する!
「よし……いくぞ!!」




