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05話 それぞれの役割


 轟音。

 炎の壁と水の奔流が激突する。

 白い蒸気が一気に吹き上がった。


「先輩……!」


 咲は思わず声を上げる。

 だが、その直後。

 蒸気の向こうから巨大な影が飛び出した。

 水を纏った蛇のような怪物。

 炎の壁を突き破るように橙真へ襲いかかる。


「っ!」


 橙真は咲の前へ出る。

 その瞬間。 

 ヒュッ――

 鋭い風切り音。

 一本の雷の矢が怪物へ突き刺さった。

 バチバチと雷が弾ける。

 怪物が大きくのけ反る。


「二人とも無事?」


 上空から声が降ってきた。

 咲が見上げる。

 風を纏いながら空を滑る少女。


「え……飛んでる……?」

「正確には飛んでないんだけどね」


 少女はゆっくりと地面へ降り立つ。

 橙真がその姿を見る。


「碧羽」

「ごめん、返信できなくて

 移動しながらメッセージだけ確認した」

「いいよ、全然

 むしろ来てくれて助かった」


 碧羽は安心したように笑った。


「ならよかった」


 怪物が再び唸る。

 大量の水を巻き上げながら橙真へ向かう。

 

 その時。

 パキッ。

 乾いた音が響いた。

 怪物の身体の一部が突然凍りつく。

 続けて。

 パキパキパキッ――。

 水を纏う体の一部が次々と凍り始める。


「おいおい、二人だけで始めるなよ!」


 聞き慣れた声。

 公園へ駆け込んできた少年を見て、橙真はわずかに息をついた。


「蒼太、部活長引いたのか」

「おう。監督に捕まった」

「私は先に抜けてきたからね」

「ずるくないか?」 

「機動力の差かな」


 だが蒼太の視線は怪物を纏う大量の水へ向いていた。


「……っ」


 わずかに表情が曇る。

 大量の水。

 だが。

 蒼太はゆっくり息を吐いた。


「……大丈夫だ」


 橙真だけがその言葉を聞いていた。

 橙真は怪物へ視線を向ける。


「それじゃあ行きますか」


 蒼太が口元を上げる。


「おう」


 碧羽も頷く。


「うん」


 碧羽の足元に風が集まる。

 その身体がふわりと浮き上がった。

 蒼太は前へ踏み出す。

 橙真は咲の隣に立つ。

 三人がそれぞれの位置へ散った。

 

 蒼太が怪物を抑える。

 碧羽が上空を駆ける。

 咲は圧倒されていた。


「すごい……」


 その隣には橙真がいる。

 怪物から目を離さない。

 いつでも咲を守れる位置。


「橙真先輩は行かないんですか?」


 咲が聞く。

 橙真は前を見たまま答えた。


「俺の力は蒼太たちみたいに戦うための力じゃないんだ」

「そうなんですか?」

「ああ」


 短い返事。

 それでもその声は落ち着いていた。


 その時。

 咲の目が怪物の異変を捉える。

 体の中央。

 水の奥。

 赤い光。

 心臓のように脈打っている。

 咲は目を見開いた。


「橙真先輩!」

「どうした?」

「体の中央が赤く光っています!」


 橙真は怪物を見る。

 もちろん見えない。

 だが咲の目は真剣だった。

 一瞬だけ考える。

 そして。


「……蒼太!」

「なんだ!」

「体の中央を集中的に凍らせてくれ!」


 蒼太が頷く。


「了解!」


 怪物に付着していた無数の水滴。

 その中でも体の中央付近のものが反応する。


「凍れ」


 パキッ。

 小さな音。

 次の瞬間。

 赤い光の周囲が一気に凍りついた。

 怪物の動きが止まる。

 橙真が上空を見る。


「碧羽!」

「ん?」

「そこ撃ち抜けるか」


 碧羽が微笑む。


「任せて」


 橙真の手のひらから炎が溢れる。

 熱はない。

 力だけが碧羽へ流れ込む。

 風がさらに強まる。

 碧羽の速度が上がる。


「――そこ」


 雷を纏った風の矢。

 一直線。

 凍りついた中心部。

 赤い光を貫く。

 バチィッ――!!

 赤い光が砕け散った。

 怪物の動きが止まる。

 そして。

 巨大な身体が崩れ始めた。


「やった……」


 咲が息を吐く。

 だが次の瞬間。

 崩れた大量の水が空へ巻き上がる。


「え……?」


 巨大な水柱。

 渦を巻きながら空へ伸びていく。


「まだ終わりじゃねぇのかよ!?」


 蒼太が叫ぶ。

 碧羽は空を見上げる。


「取り込んでた大量の水が放出されたみたいだね」


 咲は呆然と見上げた。


「な、なにあれ……」


 橙真は巨大な水柱を見上げる。


「噴水にしてはデカすぎるだろ……」

「笑えねぇって」


 蒼太が苦笑する。

 その時。

 遠くからサイレンが聞こえてきた。


「防災対策課かな」


 碧羽が言う。

 橙真が頷く。


「ああ」


 蒼太が言った。


「急ぐぞ」


 橙真は咲を見る。


「行くぞ」

「は、はい!」


 四人は公園を駆け出した。

 背後では巨大な水柱が空へ伸びている。

 近づくサイレン。

 揺れる木々。

 走りながら咲は三人の背中を見つめる。

 名前も。

 何者なのかも。

 まだ何も知らない。

 それでも。

 なぜか安心できた。

 ――この人たちは、一体何者なんだろう。

 その疑問を胸に。

 咲は三人の後を追いかけた。

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