04話 迫る異変
橙真と別れて数分後。
咲と友達は公園のベンチに座っていた。
夕日が差し込み、公園には穏やかな時間が流れている。
「優しそうな先輩だったね」
咲がそう言うと、友達は呆れたようにため息をついた。
「咲が急に話しかけたからでしょ」
「でも連絡先交換できたし」
「普通初対面で交換しないからね?」
「そうなの?」
「そうだよ」
咲は小さく笑った。
その時だった。
風が吹く。
妙な風だった。
思わず咲は顔を上げる。
「……?」
友達も空を見上げた。
公園の上空。
水が巻き上がっている。
「なにあれ……?」
巨大な渦。
あり得ない光景だった。
咲も立ち上がる。
だが次の瞬間。
渦の向こう側に何かが見えた。
水を纏った巨大な蛇のような怪物。
その姿を見た瞬間、咲の背筋が凍る。
「っ……!」
思わず後ずさる。
友達が振り返った。
「咲?」
「見えないの!?」
「え?」
「そこにいるじゃん!」
咲は震える指で空を指差した。
友達は目を凝らす。
だが首を傾げるだけだった。
「何が?」
「怪物……!」
咲の顔は青ざめていた。
友達には見えていない。
それが余計に怖かった。
「咲、落ち着いて!」
友達は慌てながらもスマホを取り出す。
「と、とりあえずこういう時は防災対策課に連絡!」
「え……」
「咲も誰か呼べるなら呼んで!」
咲は我に返った。
誰か。
その言葉で思い浮かんだ顔があった。
橙真先輩。
ほんの少し前に出会ったばかりの先輩。
理由は分からない。
でも今は連絡しなければならない気がした。
咲はスマホを開く。
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橙真先輩!
今大丈夫ですか!?
公園で変なことが起きてます!
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送信。
続けて写真も送る。
その間に友達も通報を終えたようだった。
「連絡した!」
「ありがとう……」
咲は頷く。
だが視線は怪物から離れない。
巨大な蛇のような怪物は、水の渦の中でゆっくりと動いていた。
見られている気がした。
それだけで足が震える。
「咲も早く行こう!」
友達が腕を引く。
だが咲は首を横に振った。
「私は少しだけ残る」
「はぁ!?」
友達が目を丸くする。
「危ないって!」
「分かってる」
「分かってない!」
しばらく言い合った後、友達は大きく息を吐いた。
「絶対無茶しないでよ!」
「うん」
友達は避難していった。
咲は一人、公園に残る。
そして小さく呟いた。
「来てくれるかな……」
その頃。
俺は帰り道を歩いていた。
スマホが震える。
左耳のイヤホンを外しながら画面を見る。
『白石咲』
「もう連絡来たのか」
軽く笑いながらメッセージを開く。
だが。
表情はすぐに消えた。
送られてきた写真。
巨大な水の渦。
そしてその奥に写る影。
怪物だ。
咲はまだ公園にいる。
その考えが頭をよぎる。
俺はすぐにグループチャットを開いた。
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橙真
公園
怪物が出た
来られるなら来てくれ
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送信。
すぐに既読はつかない。
「まだ部活中か……」
スマホをしまう。
左耳のイヤホンは外したまま。
俺は地面を蹴った。
咲がいる。
それだけで十分だった。
公園へ着いた時には、状況はさらに悪化していた。
強風。
巻き上がる水。
そして。
水を纏った巨大な蛇のような怪物。
「橙真先輩!」
咲がこちらへ駆け寄ってくる。
「大丈夫か!」
「私は大丈夫です!」
その瞬間。
怪物が動いた。
大量の水が巻き上がる。
「逃げるぞ!」
俺は咲の手を掴んだ。
二人で走る。
背後から轟音が迫る。
水の奔流。
公園の地面を削りながら追ってくる。
「なんなんですか、あれ!?」
「怪物だ!」
「えっ……!?」
「説明は後だ! 走れ!」
咲は息を呑みながらも走り続ける。
だが。
足を取られた。
「きゃっ!」
地面に倒れる。
迫る水。
避けられない。
俺は右耳のイヤホンに触れた。
そして右手を前へ突き出す。
手のひらが熱を帯びる。
「先輩!」
咲の声が響く。
次の瞬間。
炎が噴き上がった。
轟音。
手のひらから放たれた炎は巨大な壁となって俺達の前に立ちはだかる。
迫る水の奔流。
真正面からぶつかる。
白い蒸気が一気に吹き上がった。
視界が真っ白に染まる。
その中で。
巨大な影が、炎へ向かって突っ込んできた。
――その視線は、最初から俺だけを捉えていた。




