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03話 揺れ始めた日常


 放課後。


 蒼太と碧羽がそれぞれ部活へ向かった後。

 俺は1人、帰り道を歩いていた。

 両耳にはイヤホン。

 音楽が流れているわけじゃない。

 ただ、こうしていると落ち着く。

 夕日が街を赤く染めていた。

 いつもの帰り道。

 いつもの放課後。

 そのはずだった。


「ねえ!」


 突然、前から声が飛んできた。

 俺は顔を上げる。

 女子生徒が2人。

 知らない顔だった。


「……俺?」


 聞き取りやすいように左耳のイヤホンを外す。

 右耳にはいつも通りイヤホンを残したまま。


「そうです!」


 声をかけてきた方の女子生徒が元気よく頷いた。

 その隣で、もう1人の女子生徒が困ったような顔をしている。


「ちょっと咲、急に話しかけないの」

「だって気になったんだもん」


 咲と呼ばれた女子生徒は悪びれた様子もなく言った。

 そして俺を見る。


「そのイヤホンって何聴いてるんですか?」

「別に何も」

「え?」

「音楽は流してないよ」


 咲は目を丸くした。


「えぇ!?じゃあなんで付けてるんですか?」

「落ち着くからだよ」

「そんな人初めて見ました」


 思ったことをそのまま口に出しているらしい。

 隣の友達が慌てて頭を下げた。


「すみません、この子こういう性格で……」

「いや、大丈夫」


 むしろ少し面白かった。

 すると咲がふと俺の制服を見る。


「あれその制服って同じ学校の制服ですよね?」


 俺も咲達の制服を見る。

 確かに碧羽が来ている制服と同じだった。


「東高校だけど」

「やっぱり!」


 咲は嬉しそうな声を上げた。


「私も東高校です!」

「そうなんだ」

「先輩ですよね?」

「たぶん」

「やった!」


 何がやったなのか分からない。

 友達が小さくため息をついていた。


「私、白石咲です!」


 勢いよく頭を下げる。

 俺も軽く会釈した。


「日向橙真です」

「橙真先輩!」

「先輩だけど」

「やっぱり先輩だ!」


 なんだその確認は。

 思わず苦笑する。

 咲は楽しそうだった。

 初対面なのに妙に距離が近い。

 けれど、不思議と嫌な感じはしなかった。


「そうだ!」


 咲が何かを思いついたように声を上げる。


「連絡先交換しません?」

「は?」


 俺より先に友達が反応した。


「なんで!?」

「だって同じ学校だし!」

「理由になってないよ!」


 咲は首を傾げる。


「ダメですか?」


 真っ直ぐ聞かれる。

 俺は少しだけ考えた。


「別にいいけど」

「やった!」


 咲はすぐにスマホを取り出した。

 友達は呆れたように額を押さえている。

 数分後。

 連絡先の交換は終わった。


「ありがとうございます!」

「どういたしまして」

「それじゃあまた!」


 咲は大きく手を振る。

 友達に引っ張られながら去っていった。

 俺はその背中を見送る。

 姿が見えなくなった頃。


「……疲れた」


 思わず小さく呟いた。

 初対面なのに、あそこまで距離を詰めてくる人は珍しい。

 悪い人じゃないとは思う。

 ただ。


「すごく明るい人だったな……」


 俺は左耳のイヤホンを戻した。

 再び両耳にイヤホンをつける。

 そして帰り道を歩き始めた。


 その頃。

 公園の上空では異変が起き始めていた。

 風が渦を巻く。

 空気が震える。

 誰も気付かないまま。

 静かに。

 確実に。

 日常は崩れ始めていた。

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