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02話 変わらない放課後


 蒼太が部室へ飛び込んだ頃には、グラウンドからすでに集合の笛が聞こえていた。


「やばっ」


 慌てて荷物を置き、着替えを済ませる。

 そのまま部室を飛び出し、グラウンドへ駆けた。

 整列している部員達の列へ滑り込む。


「間に合った……」


 そう呟いた瞬間だった。


「水沢」


 低い声が飛んでくる。

 蒼太の肩がぴくりと震えた。


「はい!」


 顧問は腕を組んだまま言う。


「集合1分前に来るのは余裕を持った到着とは言わん」

「すみません!」


 後ろで後輩達が小さく笑った。


「よし、全員揃ったことだし練習始めるぞ」

「「はい」」


 顧問の声と共に部員達が動き出す。

 蒼太も後輩達と一緒に走り始めた。

 夕方の風が頬を撫でる。

 グラウンドを蹴る足音が響く。


「先輩速いです!」


 後ろから声が飛んできた。

 蒼太は振り返る。


「まだまだ行けるっしょ!」

「まだ上げるんですか!?」

「あと1周!」

「聞いてません!」


 後輩達から悲鳴が上がる。

 それでも蒼太は笑っていた。


「ほらほらまだまだ!」

「無理ですって!」

「いけるいける!」

「いけるわけありません!」


 そんなやり取りをしながら全員で走り続ける。

 数周後。

 後輩達の表情はかなり苦しそうだった。


「水沢!」


 顧問の声が飛ぶ。

 蒼太は反射的に返事をした。


「はい!」

「後輩を潰す気か」


 後輩達が一斉に頷いた。

 蒼太は目を逸らす。


「そんなつもりは……」

「お前はできるだろうが全員がお前じゃない」

「はい」

「まずお前が無理するな」

「はい……」


 後輩の1人が小さく呟く。


「説得力ありますね」

「聞こえてるぞ」


 思わず蒼太が返す。

 周囲から笑い声が上がった。


 一方その頃。

 弓道場には静かな空気が流れていた。

 後輩達が順番に矢を放っている。

 的へ当たる音。

 外れる音。

 その繰り返し。

 碧羽は静かに前へ出た。

 弓を構える。

 視線を的へ向ける。

 その瞬間だった。

 矢が放たれる。

 後輩達が目を見開く。


「速っ……」


 乾いた音が響いた。

 矢は的の中心へ突き刺さっていた。


「また真ん中だ……」

「さすが風間先輩」


 後輩達が感心したように見つめる。

 碧羽は小さく息を吐いた。

 特別なことをしたつもりはない。

 ただ、いつも通り放っただけだった。


 休憩時間。

 1人の後輩が近付いてくる。


「風間先輩」

「ん?どうしたの?」

「どうしたらそんなに速く撃てるんですか?」


 碧羽は少し考えた。


「速く撃とうとは思ってないよ」

「え?」


 後輩が首を傾げる。


「無駄な動きを減らしていったらこうなっただけ」

「無駄な動き……」

「うん」


 碧羽は頷いた。


「あと、当てようとし過ぎないことかな」

「当てようとしないんですか?」

「真っ直ぐ飛ばすことを考えるの」


 後輩は真剣な表情で話を聞いていた。

 碧羽は続ける。


「焦らなくて大丈夫だよ。続けていれば少しずつできるようになるから」


 後輩の表情が少し明るくなった。


「ありがとうございます!」

「どういたしまして」


 休憩終了の声が響く。

 後輩達が持ち場へ戻っていく。

 碧羽も再び弓を手に取った。

 夕日が弓道場を赤く照らしている。

 静かな空気の中、碧羽は再び弓を構えた。

 放課後は、まだ続いている。

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