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01話 何気ないいつもの放課後


 4月下旬。

 新学期が始まって数週間。桜はほとんど散り、街には少しずつ初夏の空気が混じり始めていた。

 東高校2年A組。帰りのホームルーム。

 担任の話が教室に響いている。


 俺の名前は日向橙真(ひなたとうま)

 東高校2年生。どこにでもいる普通の高校生――だと思う。

 右耳にはイヤホン。

 昔からの癖だ。音楽を聴いているわけじゃない。ただ、こうしていると落ち着く。


 窓の外を見る。 

 グラウンドでは運動部が準備を始めていた。吹奏楽部の音も微かに聞こえてくる。

 平和な放課後だった。

 そんなことを考えているうちに、担任が出席簿を閉じた。


「――以上だ。明日の提出物を忘れるなよ。それじゃあホームルーム終了」


 その瞬間、静かだった教室が一気に騒がしくなる。

 椅子を引く音。友達同士の会話。帰宅準備を始める生徒達。

 いつもの放課後だ。


 俺は右耳に入れっぱなしのイヤホンに軽く触れながら立ち上がった。


「橙真」


 聞き慣れた声に振り向く。

 そこには蒼太が立っていた。


「行くか」

「そうだな」


 鞄を肩に掛ける。

 すると後ろから声が聞こえた。


「2人とも待って」


 振り返ると碧羽が小走りで近付いてくる。


「碧羽も一緒か」

「うん。置いていかれるかと思った」

「そんなことしないだろ」

「どうかな」


 少し意地悪そうに笑う碧羽に、蒼太が苦笑した。


「信用ないな俺達」

「普段の行いじゃない?」

「それは否定できない」

「できないのかよ」


 思わず突っ込むと、2人が笑った。

 3人で教室を出る。

 夕日が差し込む廊下には、部活へ向かう生徒達が行き交っていた。


 蒼太が大きく伸びをする。


「今日の部活きつそうなんだよな」

「まだ始まってもないだろ」

「嫌な予感がする」

「また言ってる」


 碧羽が呆れたように言う。


「だって本当にするんだって」

「毎回言ってる気がする」

「言ってるな」

「言ってるね」


 俺と碧羽の声が重なる。

 蒼太は不満そうな顔をした。


「2対1はずるくない?」

「事実だからな」

「事実だね」

「息ぴったりじゃん」

「今のはたまたま」

「たまたま」


 また声が重なる。

 数秒の沈黙。

 そして蒼太が吹き出した。


「だからなんでそうなるんだよ」


 廊下に笑い声が響く。

 そんな他愛のない会話をしながら歩いているうちに、昇降口へ着いた。

 

 蒼太が靴を履き替えながら時計を見る。

 その瞬間、表情が固まった。


「あ」

「どうしたの?」


 碧羽が首を傾げる。


「集合時間何分後だ?」


 俺が聞くと、蒼太はぎこちなく笑った。


「3分後」


 沈黙。

 碧羽がため息をつく。


「だから言ったのに」


 蒼太は姿勢を正した。


「返す言葉もありません」


 即答だった。

 俺は思わず吹き出す。

 碧羽も小さく笑った。


「笑わないでくれません?」

「無理だな」

「無理だね」

「ひどくない?」

「事実だろ」

「事実だね」


 蒼太は大げさに肩を落とした。


「じゃあ本当に行ってくる!」


 そう言うと、陸上部のあるグラウンドへ向かって走り出す。


「また明日!」


 という声だけが後ろに残った。

 碧羽はその背中を見送りながら苦笑した。


「相変わらずだね」

「まあ蒼太だしな」

「それはそう」


 碧羽も靴を履き替える。


「私も行くね」

「おう」

「また明日」

「また明日」


 碧羽は弓道場の方へ歩いていった。

 その姿が見えなくなる。


 さっきまで賑やかだった空間が少し静かになった。

 俺はポケットからイヤホンケースを取り出す。

 そして左耳にもイヤホンをつけた。

 音楽を流す。

 周囲の音が少しだけ遠くなる。

 夕日に照らされた校庭を眺めながら、俺は1人、校舎の外へ歩き出した。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

「放課後、崩壊する僕らの日常 ――それは、何気ない放課後から始まった。」が初めての投稿作品になります。

 まずは橙真、蒼太、碧羽のいつもの日常を描かせていただきました。

 次回は蒼太と碧羽、それぞれの部活の様子を描く予定です。

 少しずつ物語が動き始めますので、よろしければ今後もお付き合いいただけると嬉しいです。

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