49話 それぞれの戦場へ
花江さんからの緊急通信が終わるやいなや、俺たち三人は、それぞれの担当現場へ向けて全力で地面を蹴り出した。
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夏特有の強い日差しが容赦なく頭上から照りつけ、肌にまとわりつくような蒸し暑い風が頬を撫でていく。
俺――橙真は、陽光が降り注ぐ住宅街の急な坂道を勢いよく駆け抜け、目的地である河川敷を目指していた。
どこまでも青い夏空の下、風を切り一心不乱に突き進んでいると、前方から一人の男性が姿を現した。
「……おい日向!」
「……え、風宮さん! 車じゃなくて、走ってきたんですか?」
「ああ、車は光莉が乗っていったからな」
「そうなんですか」
風宮さんはそのまま俺の隣に自然に並び、乱れることのない呼吸で走り続ける。
その時だった。
遠くの河川敷の方角から、空気を激しく振動させる鈍く重い衝撃音が、不気味に響いてきた。
「――ズン……ズン……!」
足元の舗装されたアスファルトが、かすかに、しかし確実に揺れる。
風宮さんは鋭い眼差しで道路の先を見据えたまま、低く短い声で告げた。
「日向、現場へ急ぐぞ! 住民の避難が完了しているとはいえ、猶予はない!」
「分かりました!」
俺と風宮さんはさらに歩幅を広げ、急報のあった現場へ向けて一心不乱に疾走した。
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その頃、俺――蒼太は、猛暑の湿った風を切り裂きながら、一刻も早く海岸へ着こうと全速力で脚を動かしていた。
額から流れる汗が目に入りそうになるのを強引に拭い去り、前だけを見つめて走り続ける。
すると、すぐ横へ一台の黒い車が滑り込むように急停車した。
「――キキィッ!」
タイヤが地面を擦る甲高いブレーキ音が周囲に響き渡り、助手席の扉が勢いよく開く。
「蒼太くん!」
運転席でハンドルを握っていたのは、花江さんだった。
「え……花江さん」
「とりあえず乗って! このまま走って海に向かうより、車で向かったほうが早いでしょ!」
「分かりました! 今、乗ります!」
俺は迷わず助手席へ滑り込むように飛び込んだ。
扉がバタンと大きな音を立てて閉まる。
その直後、車体は激しいエンジン音を響かせ、猛スピードで発進した。
花江さんは、日差しが眩しく差し込む前方を見据えたまま、引き締まった声で告げる。
「海岸に到着するまで、あと三分ほどです! 準備はいいですか?」
「分かりました! いつでも行けます!」
真夏の激しい陽光を浴びながら、黒い車両は海岸へ向けて一直線に道を駆け抜けていった。
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一方その頃、私――碧羽は、無事に目的地である小学校へと辿り着いていた。
十六時を過ぎ、本来なら下校途中の児童たちの元気な歓声が響いている時間帯のはずだ。
だが、重い鉄製の校門をくぐった先に広がる校庭は、気味が悪いほど静まり返っていた。
傾きかけた日差しが照らす敷地内へ、注意深く周囲を警戒しながら慎重に足を踏み入れる。
周囲を見回すが、人影は一つもない。
防災対策課からの迅速な避難誘導のおかげで、すでに児童や教員たちの避難は完了しているようだった。
「あれ、月影さんは……まだ来てないのかな?」
私がぽつりと呟いた、まさにその瞬間だった。
足元に長く伸びる自分の影が、ゆらりと不自然に揺れた。
黒い影が地面から静かに立ち上がり、一人の男の姿を鮮やかに形作っていく。
月影さんだった。
「ずいぶん早い到着だったな、碧羽」
私は突然の出現に驚きながらも、小さく頷いた。
「はい、大急ぎで走ってきましたので!」
月影さんは静かに校舎の奥、影の差す方向へと視線を向けた。
「よし、行くぞ。気を抜くことのないようにしろよ」
「はい!」
二人は並んで、異様な気配の漂う校舎の裏手へと足を進めていった。
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そして――三つの現場に、それぞれ二人ずつ覚醒者が到着した。
同時に、彼らの目の前には、それぞれ二体の邪神体が姿を現していた。
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河川敷には、傾きかけた太陽の強い日差しの中、全身から紅蓮の炎を噴き上げる火災型の邪神体が立ちはだかっていた。
立っているだけで肌が灼かれるほどの凄まじい熱気。
その隣には不気味な三つの首を持つ、土砂を撒き散らす土砂災害型の邪神体。
足元の地面には無数の亀裂が走り、崩落を思わせる地響きを立てていた。
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海岸では、荒れ狂う海面を背に、濁流のような水流を全身に纏った巨体の津波型邪神体が立っていた。
その隣には、猛烈な暴風を巻き起こしながら鋭い牙を剥く、巨大な白い狼のような姿をした吹雪型の邪神体。
周囲では海水が舞い上がり、砂浜を激しく打ちつけていた。
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小学校では、夏の暑ささえ押し流すような不気味で激しい暴風が吹き荒れていた。
その中心には、校舎を見上げるほどの圧倒的な巨体を持つ嵐型の邪神体が立っている。
さらに、その奥――不気味な濃霧の中から、地響きのような低い唸り声が響き渡る。
黒き濃霧型の邪神体が、ゆっくりと姿を現した。
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まだ明るい街並みの中で――六体の邪神体と、六人の覚醒者。
それぞれ異なる場所で対峙し、静かに戦いの火蓋を切ろうとしていた――。




