↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/125

48話 新たな戦いへ

 気づけば、神門教の教会での潜入任務から、早くも一か月が経とうとしていた。


 あの日が一つの境界線になり、俺たちが暮らすこの街では、明らかな異変が急速に増え始めていたのだ。


 それは他でもない。

 邪神体の発生件数が、以前とは比べものにならないほど増加していた。

 今までは数日に一度ほどだった出現頻度は、今では毎日のように市内各地で確認されるようになっていた。


 防災対策課は市内各地へ、覚醒者である俺たちを次々と派遣していた。

 その対応に追われる過酷な日々が、ずっと続いていたのだった。


***


 そんなある日の朝。


 碧羽はいつも通り早めに登校し、すでに自分の席に着いていた。


 柔らかな朝の光が差し込む窓際の席で、一冊の本を静かに読みながら、ホームルームの開始を待っている。


 しばらくして、陸上部の朝練を終えた蒼太が、汗を拭いながら教室のドアを開けて入ってきた。


「ふぅ……今日も朝からめちゃくちゃ汗かいたぜ……」


 軽く息を吐きながら、自分の席へ向かって歩いていく。


 さらに数分後、俺――橙真も、廊下側の扉から左耳のイヤホンを外しながら教室へ入った。


 自分の席へ向かう途中、ふと窓際で本を読む碧羽へ視線を向ける。


「……ん、あれ? 碧羽……眼鏡、かけるようになったのか?」


 俺が思わず漏らした声に気づき、碧羽がゆっくりと顔を上げた。


「あ、橙真、おはよう」

「おはよう」


 蒼太も俺の声につられて、碧羽へ視線を向ける。


「あ、本当だ! 碧羽、眼鏡かけるようになったんだな!」


 碧羽はどこか照れくさそうに、細い指先で眼鏡のフレームへそっと触れた。


「うん……最近、どういうわけか急に視力が落ちてきちゃって。それで、見えづらいことも増えてきたから、眼鏡をかけるようになったの」


 俺は碧羽の顔を見つめ、小さく頷いた。


「……その眼鏡、すごく似合ってるぞ、碧羽」


 碧羽は少しだけ驚いたように目を丸くし、それから照れくさそうに柔らかな笑みを浮かべた。


「……ふふ、ありがとね。橙真」


 蒼太もいつものように、穏やかで爽やかな笑顔を向ける。


「うん、やっぱり眼鏡をかけると雰囲気ガラッと変わって、良い感じだな!」

「蒼太も、ありがとうね」

「おう」


 その時、朝のホームルームの始まりを告げるチャイムが、校内に高く響き渡った。それと同時に、担任の先生が教室に入ってきた。


 俺たち三人はそれぞれの席へ戻り、いつも通りの学校生活が始まった。


***


 やがてすべての授業が終わり、放課後になる。


 俺、蒼太、碧羽の三人はカバンを持ち、昇降口へ向かって並んで歩いていた。


 靴箱のある昇降口へ着くと、そこには俺たちを待っていた咲の姿があった。


「……あ、咲」

「橙真先輩!」


 咲は嬉しそうに駆け寄ってくる。


 だが、俺は申し訳なさそうに胸の前で両手を合わせた。


「ごめんな。今日は一緒に帰れないんだ」

「そうですよね。今日は水曜日で、訓練の日ですもんね」

「ああ。そういうことだから、また明日な、咲」

「はい! また明日です!」


 咲は元気に笑顔で手を振って、俺たちを見送ってくれた。


***


 俺たちが校門を出て歩き始めると、蒼太が前を向いたまま口を開いた。


「咲、連れてかなくて良かったのか?」

「いや、さすがに防災対策課まで、咲を連れていくわけにはいかないだろ」

「確かにね。連れて行ったら、風宮さんたちに何か言われそうだもんね」

「例えば、『なんで一般人を連れてきたんだ』とか言われそうだもんな」

「ああ。そう言われそうだから連れて行かないし……それに、巻き込みたくないっていうのもあるかな」


 碧羽もクスクスと笑いながら同意する。


「咲のこと、巻き込みたくないのは分かるかも」


***


 三人が校門を離れ、住宅街の道を並んで歩き始めた、その時――不意にポケットの中のスマホから、緊急着信音がけたたましく鳴り響いた。


 俺たちは同時に足を止め、画面を確認する。


『――こちら花江です! 緊急通信です!』


 花江さんの切迫した声がスピーカー越しに聞こえた瞬間、俺たち三人の表情が一気に引き締まった。


「こちら橙真です」

「蒼太です」

「碧羽です」


『市内三地点で同時に邪神体の発生を確認しました! 各地点に二体ずつ出現しています!』


 その一言で、周囲の穏やかな空気が一瞬にして重く張り詰めた。


 花江さんは、すぐに言葉を続ける。


『各員の担当を伝えます!

 橙真くんと風宮さんは、住宅街近くの河川敷へ向かってください!

 蒼太くんは私と合流して、海岸へ向かいます!

 碧羽さんは月影さんと合流して、小学校へ向かってください!

 それぞれ、至急、現場へ急行してください!』

「「「了解しました!」」」


***


「それじゃあ、行きますか」

「うん」

「ああ!」


 返事をするのと同時に、俺たち三人は地面を強く蹴り、一斉に別々の方向へ駆け出した。


 俺は河川敷へ。


 蒼太は海岸へ。


 碧羽は小学校へ。


 日が傾き、西日が照らす街並みを、俺たち三人は全力で駆け抜けていった。


 街の平和を守るための、新たな戦いが、それぞれの場所で始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。