46話 神門教の報告回
翌日の九時半ごろ。
防災対策課の会議室には、風宮さん、花江さん、俺――橙真、蒼太、碧羽の五人が集まっていた。
あの不気味な神門教の教会での潜入任務を終え、正式な報告会議が始まろうとしていた。
風宮さんは重々しく席を立つと、机の上に置かれた資料を開いた。
「それでは……これより、神門教教会潜入任務後の正式な報告を始める」
風宮さんの一言で、会議室の中にしんとした静けさが広がっていく。
「今回の潜入で判明した重要事項は、大きく分けて三つある。一つ目は、神門教の教会地下に大規模な地下施設が存在していたこと。二つ目は、教会内で発生した大量の邪神体が、その地下施設へ隠されていたこと。そして三つ目は、教会の教祖、シエリオ・トグレイの確保に失敗したことだ」
誰も余計な口を開かない。
風宮さんは静かに資料を一枚めくった。
「一つ目と二つ目の報告は、日向から受けたものだ。俺が現場へ駆けつけた時には、邪神体はすでに消滅していた。だが……現場の焼け焦げた状況から見ても、その報告に大きな誤りはないと判断している」
風宮さんは一度、言葉を区切った。
「現時点では断定できない。だが、神門教が邪神体と裏で何らかの深い関係を持っている可能性は極めて高い」
そして、静かに次の資料へ視線を落とす。
「三つ目の報告は、水沢と碧羽から受けたものだ。シエリオ・トグレイは『遺体操作』の能力を持つ覚醒者であることが判明した。二人はシエリオを追い詰めたものの、一般人を盾にされ、そのまま車で逃走を許した。確保には至らなかったとのことだ」
「すみません、捕まえられなくて」
碧羽が申し訳なさそうに頭を下げる。
「一般人を盾にされたなら、仕方ない。シエリオは次の機会に必ず捕まえる」
***
花江さんが手元のノートにメモを取りながら、風宮さんへ尋ねた。
「では……今後は神門教を重点的な監視対象にする、ということでしょうか?」
「ああ、そういうことだ」
風宮さんは短く、力強く答える。
「今後は防災対策課としては、神門教の動向を継続的に監視する。各部署とも連携を取り、本格的に調査を進めてもらう予定だ」
「分かりました」
蒼太は腕を組みながら、苦々しい顔で呟いた。
「まさか、教会の地下にあんな大きい施設があったなんてな……」
碧羽も小さく頷いて同意する。
「表向きは、普通の宗教団体だったもんね……」
風宮さんは資料を静かに閉じた。
「……以上で、昨日行った神門教の潜入任務に関する報告会を終了とする」
***
一同は静かに頷いた。
風宮さんは全員を見渡し、落ち着いた声で告げる。
「本日はこれで終わりとする。今日の特訓もなし。各自帰宅して、体をゆっくり休めてくれ」
そして風宮さんは、すっと視線を俺へ向けた。
「ここで全員解散と言いたいところだが……日向だけ、この場に残ってくれ」
「「「はい、分かりました」」」
***
蒼太、碧羽、花江さんは席を立ち、会議室を後にした。
パタン……と扉が静かに閉まる。
広い部屋には、風宮さんと俺だけが残された。
数秒間、張り詰めた沈黙が続く。
やがて、風宮さんが静かに口を開いた。
「日向……俺に隠している力があるのか?」
「……」
俺は何も答えることができなかった。
ただ静かに口を結び、視線を落とす。
だが、その沈黙だけで、風宮さんには十分な答えになっていた。
「……そうか」
風宮さんは、それ以上追及しなかった。
「今すぐ話せとは言わない。お前が話せる時が来たら、その時でいい」
「……配慮ありがとうございます、風宮さん」
風宮さんは静かに頷いた。
「今日は帰って、しっかり休め」
「はい。失礼します」
俺は一礼すると、会議室を後にした。
***
パタン……。
扉が閉まる。
俺――風宮はしばらく、閉じた扉を静かに見つめていた。
「……やはり、日向の力か」
小さく呟いた、その時だった。
俺の足元に長く伸びる影が、ゆらりと揺れた。
黒い影が床からゆっくりと立ち上がり、一人の男の姿を形作っていく。
「月影、そこにいるんだろ」
「ああ」
「それで、どうした」
「地下施設の調査についてだ。何か詳しいことは分かってきたか?」
月影は静かに首を振った。
「ああ……まだ詳しいことまでは分かっていない。だが、やはり気になる点がある」
「何だ?」
「あの地下施設の床や天井が、異様なほど焼け焦げていたことだ」
俺は静かに目を細めた。
「……やはり、日向が関わっている可能性が高いな」
「さっきの様子だと、話すつもりはなかったようだな」
「ああ。だが、本人が話すまで、無理に聞き出すつもりはない。だが……あれほどの力を持っているのならば、放置するわけにもいかない」
「そういうことなら、日向のことは風宮さんに任せます。私は神門教の裏側の調査に全力を尽くします」
「分かった。頼む」
「はい。任せてください」
そう言い残すと、月影の身体は再び黒い影へと滑らかに溶けていった。
影は床へ吸い込まれるように消え去る。
会議室には、再び深い静寂だけが戻ってきていた。
俺は窓の外の青空へ視線を向け、小さく吐息を漏らした。
***
神門教――その巨大な組織の裏側で、一体何が動き始めているのか。
その真相を突き止めるため、俺たち防災対策課もまた、本格的に動き始め用としていた。




