↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/129

37話 初任務からの帰り道

 着替えを終えて防災対策課を出た俺――橙真、蒼太、碧羽の三人は、静かな住宅街へ向かって並んで歩いていた。


 夕暮れの街には、昼間の戦いが嘘だったかのような穏やかな空気が流れている。


 蒼太が首を傾げ、肩の凝りをほぐすように大きく腕を回した。


「マジで今日、やばかったな……! ずっと動きっぱなしだった気がするぜ……」


 碧羽は自分の足元を見つめ、少しだけ視線を落とした。


「……うん。怖いというより、立ち止まったら、その瞬間に終わりって感じだったからね」


 俺は前方の夕焼けを見つめたまま口を開く。


「……冷静に考える余裕があったのは、最後の撃破の時くらいだったな」


 蒼太が横目で俺を見ながら笑う。


「そんなこと言って、お前、ずっと冷静だったくせに」


 俺は首を少しだけ横に振った。


「でも実際、判断が遅れたところもあったし、判断できなかったこともたくさんあったと思う」


 碧羽が柔らかな声で言った。


「でも、最後にあの判断がなかったら、私と蒼太、本当に危なかったからね」


 俺は一瞬だけ黙り込み、視線を落とした。


「……そうだったらいいんだけどな」


 蒼太が、ふぅーっと大きく息を吐く。


「それにしても、あのデカいクモみたいな邪神体、マジでキモかったわ」


 碧羽が口元を押さえて小さく笑う。


「ちょっとは言い方考えてよ……でも、分かる」


 俺は少しだけ視線を上げた。


「次は、もっと早く動けるようにしないと」


 蒼太は軽く手を振る。


「なあ、橙真って、そんなに真面目だったっけ? まあでも、そういうやつがいると助かるんだけどな!」


 碧羽も深く頷いた。


「うん、たしかに。橙真って、そんなに真面目だったっけ」


 俺は二人の言葉に照れくさくなり、また少しだけ視線をそらした。


「……まあ、最近な。真面目にならないとなって思ってきて……」

「ってことは、咲が関係してるのか?」

「そんなこと……あるかもな」

「だな!」


***


 話をしながら歩いているうちに、俺たち三人は住宅街の分かれ道へとたどり着いた。


「じゃあ、橙真、碧羽。また明日な!」


 蒼太は軽く手を振ると、そのまま分かれ道を歩いていく。


「うん。また明日」


 碧羽も土手の方へと続く坂道を歩いていった。


 そして、俺は一人になった。


 ポケットから左耳用のイヤホンを取り出し、装着する。


 少し立ち止まり、空を見上げた。


「……次はもう少し早く動けるようにしないと、蒼太と碧羽のこと守れないよな。それに、咲もいたら……」


 小さく呟き、俺は自分の家へ向かって歩き出した。


***


 夕焼けの残る静かな土手に差し掛かり、私――碧羽は念のため周囲を見渡した。


 誰もいないことを確認すると、深く息を吸い込んで呼吸を整える。


(本当に……私たちの初任務、終わったんだよね)


 手には、まだ普段の弓道とは違う、あの訓練用の弓を握っていた感触が残っている気がした。


 風の矢を放った時の、ずっしりとした感触。


 雷が駆け巡った時の、背筋が凍るような緊張感。


 いつもの弓道の時とも、防災対策課に入る前の戦いの時とも違う。


 絶対に自分が邪神体を倒さなければいけない。


 そんな強い覚悟が、まだ身体の中に残っていた。


 私は胸いっぱいに息を吸い込む。


 そして――。


「でも今はとりあえず……すぅ……やった……!」


 空へ向けて、思い切り声を張り上げた。


 叫んだあと、ふっと肩の力が抜けていくのが分かった。


「……ふふっ、本当に勝ったんだ」


 小さく呟き、手を軽く握り直す。


(まだまだ強くならないとね。でも、とりあえず今日、ちゃんと動けてよかった)


 私は満足そうに軽く頷いた。


「よし、帰ろっと!」


 軽やかな足取りで、帰り道へ歩き出した。


***


 自分の部屋に入るなり、俺――蒼太はベッドへ勢いよく倒れ込んだ。


「ふはぁ……疲れたぁ……」


 天井を見つめたまま、今日繰り広げられた激しい戦いを頭の中で思い返す。


 あのクモの邪神体に向かって突撃した時。


 そして、最後に氷柱を叩き込んだ瞬間。


「……俺の動き、悪くなかったよな」


 満足そうに目を閉じる。


 数秒後……。


「……すぅ……すぅ……」


 静かな寝息が部屋に響き始めた。


 睡魔にあっさり負け、俺は深い眠りについた。


***


 自分の部屋に入り、俺――橙真は勉強机の椅子に腰を下ろした。


 その時、スマホがブブッと震えた。


 画面を開くと、咲からメッセージが届いていた。


『今日も特訓だったんですよね? お疲れ様でした』


『ありがとう、咲。さっき無事に終わって、今帰ってきたところ』


『それじゃあ、なおさらお疲れ様でした! ゆっくり休んでくださいね。それじゃあ、また月曜日に学校で』


『ああ。また月曜日に学校で』


 送信ボタンを押し、スマホを机の上に置く。


 窓の外を見やると、いつの間にか静かな夜空が、どこまでも広がっていた。


 俺は右耳のイヤホンにそっと触れ、静かに目を閉じる。


***


 こうして、三人の初任務は無事に終わった。


 そして俺たちは、それぞれの日常へ戻っていく。


 ――少なくとも、この時の俺たちは、


 この先に待ち受けるものが、まだ何も見えていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。