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36話 初めての任務報告

 巨大な雷光が、足元の蜘蛛の巣全体を激しく駆け巡る。


「碧羽、蒼太の近くに着地してくれ!」

「分かった!」


 碧羽が着地した瞬間、俺――橙真は両手を勢いよく前へ突き出した。


 掌から放たれた眩い炎の光が一気に広がり、激しい炎の渦を巻き起こす。


 そして――蒼太と碧羽を優しく包み込むように、半球状の巨大な炎のドームが展開された。


 直後、激しい轟音とともに、凶悪な雷光が炎のドームへと激突する。


 バチバチと何度も雷が炎の障壁を叩きつける。


 それでも、俺の炎のドームはびくともせず、雷を一切通さなかった。


 数秒後、猛烈な雷光は次第に勢いを失い、やがて完全に消え去った。


 周囲の状況を確認してから、俺は炎のドームを静かに消滅させる。


 蒼太が胸に手を当て、ほっと大きく息を吐いた。


「危なかったー……! 本当に助かったぜ、橙真!」


 碧羽も安心したように、俺を見て微笑む。


「橙真、守ってくれてありがとう」


 俺は二人に怪我がないことを確かめ、小さく安堵の息をついた。


「……とりあえず、二人とも無事で本当によかったよ」


***


 邪神体の巨大な身体は黒い粒子へと変わり、空気中へゆっくりと溶けるように消滅していった。


 その瞬間、風宮さんの胸元にある無線機がカチリと鳴る。


『こちら花江です。現場の邪神体反応が完全に消失しました。任務完了です』

「こちら風宮。報告、了解した」


 風宮さんは短く無線を切ると、俺たちに向き直った。


「日向、水沢、風間。これより一度、防災対策課へ帰還するぞ」

「「「はい!」」」


 俺たち四人は車に乗り込み、不気味な廃ビルを後にした。


***


 防災対策課のエントランスへ足を踏み入れると、花江さんが温かい笑顔で出迎えてくれた。


「みなさん、おかえりなさい!」


 月影さんも影のように佇みながら、静かに頷く。


「今回の任務、ご苦労だったな」


 風宮さんが俺たちを見渡した。


「これより会議室へ移動し、今回の初任務についての報告を行う」

「「「はい」」」


 俺たちは風宮さんの後に続き、会議室へ向かった。


 室内に入り、全員が着席すると、花江さんが手元のノートを開く。


「それでは橙真くん、今回の任務についての報告をお願いできますか?」


 突然指名され、俺は思わず目を丸くした。


「えっ……俺ですか? 風宮さんから報告するんじゃないんですか?」


 風宮さんが腕を組み、静かに口を開く。


「今後の訓練も兼ねて、日向、お前がやってみろ」

「は、はい……分かりました。それじゃあ、やってみます」


 俺は深呼吸をして、頭の中で状況を整理しながら言葉を紡いだ。


「今回の現場は、市外にある廃ビルの最上階でした。現れた邪神体は、雷を纏った巨大なクモのような姿をしていました。戦闘では、俺が全体への指示、蒼太が前衛での回避と攻撃、碧羽が後方からの援護を担当しました。敵の攻撃パターンと隙を見極めた後、碧羽が風の矢で体勢を大きく崩し、その隙を突いて蒼太が巨大な氷柱で撃破しました」


 報告を聞き終えた風宮さんが、満足そうに頷いた。


「日向、初めてにしては十分に整理された報告だな」

「……ありがとうございます」

「これから三人だけで現場へ向かう任務も増えるだろう。その都度、報告の役目は日向に、一任する」

「わかりました」


 花江さんがニコリと笑って碧羽を見る。


「それじゃあ碧羽さん、何か他に、補足があればお願いします。それと、被害報告もお願いしますね」

「はい!」


 碧羽は背筋を伸ばして答えた。


「邪神体の撃破直後、体内に残っていた雷が広範囲に放出されましたが、橙真が炎のドームを展開して私たちを守ってくれました。そのため、今回の戦闘では一般人はもちろん、私たちの中にも負傷者は一人もいませんでした」


 花江さんは嬉しそうに頷いた。


「素晴らしい報告をありがとうございます!」


 すると、それまで黙っていた蒼太が焦ったように手を挙げた。


「えっ……俺には何も聞かないのか!?」

「はい、聞きたいことはもう十分分かりましたので」

「……マジかよ!」


 ガックリと肩を落とす蒼太を見て、室内に和やかな空気が流れた。


 だが、風宮さんは再び表情を引き締め、俺たち三人を見つめる。


「ひとまず、今回の初任務としては十分すぎる成果だった」


 そして、俺へ視線を向ける。


「まずは、日向」

「はい」

「現場で冷静な状況判断ができていて、実に良かったぞ」

「ありがとうございます」

「次に、水沢」

「はい!」

「事前に教えた『避ける判断』を、実戦でしっかりと生かせていた」

「へへっ、できててよかったです!」

「最後に、風間」

「はい」

「後方からの援護も攻撃も、極めて正確に当てていた」

「ありがとうございます!」


 その言葉を受け、俺たち三人はほっと表情を緩めた。


 初めての任務。

 そして、初めての実戦。


 無事に終えられたことが、今になって実感として込み上げてくる。


 風宮さんは静かに言葉を続けた。


「だが、いくつか反省点もある。それは今後の訓練で一つずつ克服していく。今日の特訓と任務はここまでだ」

「「「ありがとうございました!」」」


 俺たち三人は揃って深く頭を下げた。


「次の訓練も今日と同じだ。遅れてこないようにしろよ。それでは解散」

「「「はい」」」


***


 男子更衣室。


 訓練服を脱いで私服へ着替えながら、蒼太が大きく両腕を伸ばした。


「ふぅ……とりあえず、やっと終わったな……!」


 俺は私服に着替え終えると、右耳のイヤホンへそっと触れた。


「でも、初任務が無事に終わって本当によかったよな」

「そうだな! 一時はどうなるかと思ったけどさ、なんとかなってよかったぜ!」


***


 一方、女子更衣室。


 碧羽は一人、黒い訓練服を脱いで私服へと着替え、鏡の前で乱れた髪を丁寧に整えていた。


(はぁ……任務報告、すごく緊張したな……でも、無事に終わって本当によかったな)


 鏡に映る自分の顔を見つめながら、小さく息を吐き出す。


(みんな怪我もなく、ちゃんと邪神体を倒せたし……ひと安心かな)


***


 着替えを済ませた俺たち三人は、更衣室を出て明るいエントランスで合流した。


 建物の外へ出ると、初夏の空は淡いオレンジ色に染まり始めている。


 蒼太が爽やかに笑う。


「それじゃあ帰るか!」

「うん」

「ああ」


 俺たち三人は並んで歩き出し、夕暮れに包まれた防災対策課を後にした。

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