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35話 初任務

 風宮さんは静かな足取りのまま、地下駐車場へ向かって歩き出した。


「ついて来い」

「「「はい!」」」


 俺――橙真、蒼太、碧羽の三人は、風宮さんの背中を追う。


 薄暗い地下駐車場には、専用車両が静かに停まっていた。


 風宮さんが運転席へ乗り込む。


 俺たち三人も素早く後部座席へ乗り込み、専用車両は防災対策課を出発した。


 しばらく走ると、車内に取り付けられた無線スピーカーから花江さんの澄んだ声が流れてくる。


『現場は市外の廃ビルです。周辺住民の避難はすでに完了しています。邪神体の反応は建物の最上階にあります。風宮さん、現場での指揮をお願いします』

「了解した」

『周辺に新たな邪神体の反応はない。今回の任務だけに集中しろ』


 月影さんの補足が終わると同時に、カチリと通信が切れた。


 走行音だけが響く車内は、ピンと張り詰めた静寂に包まれた。


 風宮さんは前を見据えたまま、低く重い声で口を開く。


「……今回、戦闘の主力はお前たち三人だ。俺は、お前たちだけでは危険だと判断した時だけ動く。それ以外は自分たちで判断して戦え」


 俺たち三人は顔を見合わせ、力強く頷いた。


「「「はい」」」


***


 約十分後――専用車両は、不気味に静まり返る廃ビルの前に到着した。


 俺たち四人は車を降り、建物の中へ足を踏み入れる。


 内部は薄暗く、壁や天井の至る所に巨大な蜘蛛の巣が張り巡らされていた。


 埃っぽい階段を慎重に上り、最上階へとたどり着く。


 そこは、床一面が分厚い蜘蛛の巣で覆われた異様な空間だった。


 風宮さんが後ろから静かに告げる。


「足元に気をつけて動け」

「わかりました」


 その直後――。


 バチバチッ――!


 青白い雷光が蜘蛛の巣の糸を激しく駆け巡る。


 天井の暗がりから、巨大な漆黒の影がゆっくりと降りてきた。


 雷を纏った蜘蛛型の邪神体。


 八本の太い脚には、鋭い雷がバチバチとまとわりついている。


 碧羽が思わず息を呑んだ。


「……大きい」


 俺は邪神体の動きから、一瞬たりとも目を離さない。


 蒼太はグッと両拳を握りしめた。


 風宮さんが静かに一歩下がる。


「……戦闘開始!」


***


 その一言を合図に戦闘が始まった。


 蒼太が真っ先に前線へ飛び出す。


 邪神体が巨大な前脚を勢いよく振り下ろした。


「!」


 蒼太は地面を転がるように横へ回転し、攻撃をかわした。


 続けて二本目の脚が猛烈な速度で振り下ろされる。


 蒼太は粘ついた蜘蛛の巣を蹴って駆け回りながら、間一髪で避けた。


「蒼太!」


 俺は即座に指示を出す。


「このまま回避を続けてくれ!」

「了解!」


 碧羽は弓を構え、風の矢を素早くつがえて放った。


 一射目が邪神体の太い脚へ命中。

 二射目は硬い腹部へ見事に突き刺さる。


 邪神体も負けじと、口から粘着性のある糸を大量に吐き出した。


 白い糸の束が一直線に飛んでくる。


「碧羽、避けろ!」


 碧羽は軽やかに風を纏い、風を踏み台にするように空中へ跳んで糸をかわした。


 邪神体は雷を纏った脚を振り回し、怒涛の攻撃を仕掛けてくる。


 蒼太は必死に回避を続けていた。


 無駄な攻撃は一切しない。


 風宮さんから教わったことを思い出していた。


(すべて受け止めない。回避できる攻撃は回避する)


 蒼太は眼前の邪神体の動きを冷静に見つめ続ける。


 俺もまた、離れた位置から戦況を観察していた。


「あいつ、糸を吐き出した直後に、一瞬だけ止まる隙がある……!」


 邪神体の動きを追いながら、俺は叫んだ。


「そこを利用すれば仕留められる! 碧羽、あいつの動きを止めてくれ!」

「了解!」


***


 碧羽が弓を構える。


 その周囲に激しい風が渦を巻き始めた。


 解き放たれた風の矢は、美しい軌道を描きながら邪神体の脚の関節へ正確に命中する。


 邪神体の巨体が大きく揺らぎ、体勢が崩れた。


 蒼太がすかさず何本もの鋭い氷柱を生み出し、放つ。


 しかし、邪神体は驚異的な反応速度で氷柱を紙一重で回避した。


「まだ焦らなくていい!」


 俺は大声で叫ぶ。


「あいつは大きな攻撃を放った直後に、必ず隙ができる!」


 邪神体が狂ったように雷を周囲へ撒き散らした。


 蒼太は床を転がりながら回避する。


 床一面の蜘蛛の巣に、青白い雷が走り抜けた。


 碧羽は弓を引き絞り、真っ直ぐに邪神体を見据える。


「ここで決める!」


 矢に鋭い風が集まる。


 さらにそこへ、眩い雷の力を融合させていく。


 雷を纏った強力な風の矢が放たれた。


「いっけぇぇぇ――!」


 唸りを上げて飛んでいった矢は、邪神体の脚の付け根へ深く突き刺さった。


 雷と風が生み出した衝撃が、邪神体の巨体を完全に無防備にする。


「蒼太、今だ! 決めろ!」


 俺の叫びが響く。


 蒼太が正面から一直線に駆け出した。


 両手を力強く前へ突き出す。


 空間から巨大な氷柱が瞬時に生み出された。


「これで、終わりだぁぁぁっ!」


 巨大な氷柱が、雷を纏った邪神体の胴体を真正面から豪快に貫いた。


 邪神体は悲鳴を上げる。


 巨大な身体が力を失い、蜘蛛の巣の上へ激しく崩れ落ちた。


 蒼太は肩で大きく息を吐き出す。


「ふぅ……倒せたぜ!」


 碧羽も静かに弓を下ろした。


「……無事に倒せてよかった」


***


 だが――その瞬間だった。


 バチバチバチバチッ――!


 倒れたはずの邪神体の体内から、これまでとは比べものにならない量の雷が噴き出し始める。


 俺は驚愕して目を見開いた。


「しまった……まだ終わってない!」


 暴走した雷が、足元に広がる巨大な蜘蛛の巣全体へ一瞬で伝播していく。


 後方にいた風宮さんが鋭く叫んだ。


「三人とも、今すぐそこから離れろ!」


 直後――激しい轟音とともに、最上階全体を凶悪な雷光が駆け巡った。

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