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24話 4人の休日

 ショッピングモールの中へ足を踏み入れる。


 日曜日ということもあり、館内は多くの人で賑わっていた。


 楽しそうに歩く家族連れ。

 おしゃべりに花を咲かせる学生たち。

 大きな買い物袋を抱えた買い物客。


 さまざまな人々が行き交い、明るい声と笑顔がそこかしこにあふれている。


 俺――橙真と蒼太は、吹き抜けになった巨大な空間を見上げた。


「やっぱ、いつ来てもでかいよなー!」

「うん。何回来ても、同じことを思うよね」


 碧羽がクスクスと笑う。


 咲は目を輝かせながら、圧倒されたように周囲を見回していた。


「すごい、広い……!」

「咲、そんなに来たことないのか?」


 蒼太が不思議そうに尋ねると、咲は少し照れくさそうに頷いた。


「家族とは何回かありますけど……友達と来るのは、初めてで」

「そうだったのか! じゃあ今日は思いっきり楽しもうぜ!」

「はいっ!」


 蒼太が豪快に笑い、咲も満面の笑顔で頷いた。


 四人はそのまま館内の奥へと進んでいく。


 ひんやりとしたエアコンの冷気。

 どこからともなく聞こえてくる、歓声やBGM。


 これぞ休日のショッピングモールといった、明るく賑やかな空気に満ちていた。


***


 まず最初に向かったのは、フードコートだった。


 昼には少し早い時間帯だったが、たくさんの利用客で席が埋まりつつある。


 蒼太が頭上のメニュー表を見上げながら、腹をさすった。


「いやー、腹減ったなー!」

「ちょっと蒼太、今、着いたばかりなんだけど……」


 碧羽が呆れたような声を漏らす。


「おいおい、碧羽。朝飯なんて、家を出た瞬間に消えるんだよ!」

「そんなめちゃくちゃな理論、蒼太先輩だけですよ」


 咲が思わず吹き出す。


 俺たちはそれぞれ好きなものを注文しに並んだ。


 蒼太は大盛りの肉丼。

 碧羽はパスタ。

 咲はオムライス。

 そして俺は、ハンバーガーのセット。


 四人で空いているテーブル席につき、それぞれの料理を広げる。


 一瞬だけ静かになったところで、咲が嬉しそうに口を開いた。


「こういうの……なんだか、すごく新鮮です」

「ん? 友達と一緒に飯を食うのがか?」


 蒼太が肉を頬張りながら尋ねる。


「はい」


 咲は少しだけ恥ずかしそうに目を細めた。


「こういう機会……今まで、あまりなかったので」


 その言葉に、碧羽が優しく微笑む。


「そっか。でも、これから増えていくよ」

「……はい!」


 咲は胸をいっぱいに膨らませるように息を吸い、本当に嬉しそうな笑顔を浮かべた。


 食事を終えると、次に向かったのはアパレルショップだった。


***


 可愛らしい服が並ぶ店内で、咲が少し遠慮がちに俺たちを振り返る。


「あの……少しだけ、服を見てもいいですか?」

「うん、もちろん!」

「俺は服のことなんてサッパリ分からないけどなー」

「蒼太、少し黙って」

「おい! やっぱり俺の扱いひどくないか!?」


 咲は楽しそうに笑いながら、ラックに掛かった服を手に取っていく。


 白いカーディガン。

 淡いパステルカラーのスカート。


 碧羽が横から見て、満足そうに頷いた。


「咲、それ似合うと思うよ」

「本当ですか……!?」

「うん。とっても可愛い。似合ってる」


 すると咲が、少しだけ上目遣いで俺を見る。


「橙真先輩は……どう思いますか?」


 突然振られ、俺は一瞬言葉に詰まった。


 咲の持っている服へ視線を落とす。


 ほんの少しだけ、間が空いた。


「……似合ってると思う」


 ぽつりと答える。


 その瞬間、咲の目がパッと大きく開いた。


「……っ! ありがとうございます!」


 蒼太がニシシと意地悪そうに笑う。


「お前、ちゃんと褒めるんだなー!」

「はぁ……うっさいわ」


 四人の和やかな笑い声が、服屋の中に響いた。


 その後、賑やかなゲームセンターへ移動する。


***


 蒼太が真っ先にレースゲームの筐体へ駆け寄った。


「よし! ここらで勝負だ!」

「何の勝負よ」


 碧羽が呆れ顔で尋ねる。


「決まってんだろ、レースゲームだ! ゲーセン来たら、やっとかないとな!」


 そして熱戦の結果――蒼太は見事な最下位だった。


 ちなみに、一位は俺。


「なんでだよ! おかしいだろ!」

「蒼太、運転荒すぎ」

「ほとんど壁に当たってましたもんね……」


 咲も口元を押さえて笑っている。


 俺も、そんな蒼太の情けない姿を見て、少しだけ口元を緩めた。


 続いて、クレーンゲームのコーナーへ。


 そこで咲が、ガラスの向こうにある可愛らしいペンギンのぬいぐるみをじっと見つめていた。


「……かわいい」

「よし! 俺がサクッと取ってやる!」


 蒼太が意気揚々と挑戦する。


 だが、アームは虚しく空を切った。


「くそっ!」

「次は私が!」


 碧羽も真剣な目で挑戦する。


 しかし、惜しくも失敗。


「うーん……この台、アームが弱くて難しいね」


 二人の苦戦を見かねて、俺が無言で筐体の前に出た。


 コインを投入する。


 アームを慎重に操作する。


 一発目。


 狙い澄ましたように動いたアームが、ぬいぐるみの重心を捉え――ゴトン、と出口へ落ちた。


 咲が、信じられないものを見るように目を見開く。


「す、すごいです!!」

「……たまたまだよ」

「いやいや、絶対違うだろ! 一発で取る奴があるか!」


 蒼太の叫びを無視して、俺は取り出したぬいぐるみを咲へ手渡した。


 咲はぬいぐるみを両手で大切そうに抱きしめる。


「ありがとうございます! 大切にします!」

「……別に、いいよ」


 楽しい時間は、あっという間に過ぎていった。


 時計を見ると、まだ夕方には少し早い。


 咲が嬉しそうに俺たち三人を見つめた。


「今日、すごく楽しいですね」


 蒼太が笑う。


「ハハッ、今さらかよ?」

「私、こういう風にみんなで遊ぶの、ずっとやってみたかったんです」


 その言葉を聞いて、三人の間にほんの少しだけ静寂が落ちた。


 碧羽が優しく目を細める。


「またみんなで一緒に来ればいいよ」

「ああ、そうだぞ」

「また休みの日にでも、みんなで来ればいいんじゃねぇか」

「……はい!」


 咲は本当に嬉しそうに、弾けるような笑顔を見せた。


***


「次、どこ行く?」


 蒼太が周囲を見回した、その瞬間――。


 ゴォォン……。


 地の底から響いてくるような、重く低い音が館内に響き渡った。


 同時に、足元の床がわずかに揺れる。


 四人の動きが、一瞬で止まった。


「え……地震ですかね?」


 咲が不安そうに呟く。


 だが、この揺れは、ただの地震とは何かが違う。


 ズズズズ……。


 遠くから、何かを引きずるような音が響いてくる。


 館内のざわめきが、少しずつ大きくなっていく。


「……なんだ?」


 蒼太が眉をひそめる。


 俺は無意識のうちに、右耳のイヤホンへ触れた。


 胸の奥が、激しくざわついている。


 嫌な予感がする。


 それも――今までに感じたことがないほどの。


 さっきまで、あんなに楽しかった。


 四人で笑って。

 くだらないことで騒いで。

 また一緒に遊ぼうと約束した。


 そんな穏やかな休日が、ゆっくりと、しかし確実に――終わりを告げようとしていた。

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