24話 4人の休日
ショッピングモールの中へ踏み込む。
日曜日ということもあり、館内はすでに信じられないほど多くの人で賑わっていた。
楽しそうに歩く家族連れ。
おしゃべりに花を咲かせる学生たち。
大きな買い出し袋を抱えた買い物客。
実にさまざまな人々が行き交っている。
蒼太が吹き抜けの巨大な天井を見上げた。
「やっぱ、いつ来てもでかいよなー!」
「うん、何回来ても同じこと思うよね」
碧羽が隣でクスクスと笑う。
咲は目をキラキラと輝かせながら、圧倒されたように周囲を見回していた。
「すごい、広いですね……!」
「咲、そんなに来たことないのか?」
蒼太が不思議そうに尋ねると、咲は少し照れくさそうに頷いた。
「家族とは何回か来たことがありますけど……友達と来るのは、今日が初めてで」
「なんだ、そうだったのか! じゃあ今日は思いっきり楽しんでいけよ!」
「はいっ!」
蒼太が豪快に笑い、咲も満面の笑顔で力強く頷いた。
4人はそのまま館内の奥へと進んでいく。
ひんやりとしたエアコンの冷気。
どこからともなく聞こえる楽しげな歓声やBGM。
これぞ休日のショッピングモールといった活気に満ちていた。
まず最初に向かったのは、フードコートだった。
お昼には少し早い時間帯だったが、すでにたくさんの利用客で席が埋まりつつある。
蒼太が頭上のメニュー表を見上げながら口を開いた。
「いやー、腹減ったなー!」
「ちょっと蒼太、今さっき着いたばかりなんですけど……」
碧羽が呆れ果てたような声を漏らす。
「おいおい碧羽、朝飯は家を出た瞬間に消化されて消えるんだよ!」
「そんな無茶苦茶な理論、蒼太先輩だけですよ」
咲が思わず笑い出す。
俺たちは各自で好きなものを注文しに並んだ。
蒼太は大盛りの肉どんぶり。碧羽はおしゃれなパスタ。咲は可愛らしいオムライス。そして俺は、手軽に食べられるハンバーガーのセットだった。
4人で空いているテーブル席につき、それぞれの料理を広げる。
一瞬だけ訪れた静寂の中、咲が嬉しそうに口を開いた。
「こういうの……なんだかすごく新鮮です」
「ん? 友達と一緒にご飯食べるのがか?」
蒼太が肉を頬張りながら聞く。
「はい」
咲は少しだけ恥ずかしそうに目を細めた。
「そういう機会……今まであまりなかったので」
碧羽が優しく微笑みかけながら言った。
「そっか。じゃあ、これからはどんどん増えていくよ」
咲は胸をいっぱいに膨らませ、心から嬉しそうな表情を浮かべていた。
満足のいく食事を終え、次に向かったのはアパレルショップだった。
可愛い服が並ぶ店内で、咲が少し遠慮がちに俺たちを振り返る。
「あの……少しだけ服を見てもいいですか?」
「うん、もちろん! じっくり見ておいで」
「俺は服のこととかサッパリ分からないけどなー」
「蒼太少し黙って」
「おい! やっぱり俺の扱いひどくないか!?」
咲は楽しそうに笑いながら、ラックにかかった服を手に取り始めた。
白いカーディガン。淡いパステルカラーのスカート。
碧羽が横から見て、満足そうに頷く。
「咲、それすごく似合うと思うよ」
「本当ですか……!?」
「うん、とっても可愛い。似合ってる」
すると咲は、少し上目遣いで俺の方へ視線を向けてきた。
「橙真先輩は……どう思いますか……?」
突然振られて、俺は一瞬言葉に詰まり、少し困ったように咲の持っている服へ目をやった。
ほんの少しだけ間が空く。
「……似合ってると思うよ」
俺がボソッと答えると、咲の目がパッと大きく開いた。
「……っ! ありがとうございます!」
蒼太がニシシと意地悪く笑う。
「橙真、ちゃんと素直に褒めるんだなー!」
「はあー、うっさいわ」
4人の和やかな笑い声が服屋の中に響いた。
その後、賑やかなゲームセンターへ移動した。
蒼太が真っ先にレースゲームの筐体へ駆け寄っていく。
「よし! ここらで勝負だ!」
「何の勝負よ」
碧羽が呆れ顔で尋ねる。
「決まってんだろ、レースゲームだ! 男ならこういうところで血が騒ぐもんだろ!」
熱戦を繰り広げた結果――蒼太がダントツの最下位だった。
(ちなみに1位は俺だ)
「なんでだよ! おかしいだろ絶対!」
「蒼太、運転が荒すぎ」
「ほとんど壁しか走っていませんでしたね……」
咲も口元を押さえて笑っている。
俺もそんな蒼太の情けない姿に、少しだけ口元を緩めていた。
続いて、クレーンゲームのコーナーへ。
咲がガラスの向こうにある、可愛らしいペンギンのぬいぐるみをじっと見つめていた。
「かわいい」
「よし! 俺がサクッと取ってやるよ!」
蒼太が意意揚々と挑戦するが、アームは虚しく空を切り撃沈。
「 次は私が行く!」
碧羽も真剣な目で挑戦したものの、惜しくも失敗。
「うーん……この台、アームが弱くて難しいね」
2人の苦戦を見かねて、俺が無言で筐体の前に出た。
コインを投入し、アームを慎重に操作する。
一発目。
狙い澄ましたアームがぬいぐるみの重心を完璧に捉え、ゴトンと出口へ落ちた。
咲が信じられないものを見るように目を見開く。
「す、すごいです!」
「……こんなのたまたまだよ」
「いやいや絶対違うだろ! 一発で取る奴があるか!」
蒼太の叫びを無視して、俺は取り出したぬいぐるみを咲に手渡した。
咲はそのぬいぐるみを両手で大切そうに胸に抱きしめた。
「ありがとうございます! 大切にしますね!」
「……別に、いいよ」
楽しい時間はあっという間に過ぎ去っていった。
時計を見ると、まだ夕方には少し早い時間帯だった。
咲は嬉しそうに俺たち3人を見つめる。
「今日すごく楽しいですね」
蒼太が笑った。
「ハハッ、今さらかよ?」
「私、こういう風にみんなで遊ぶの、ずっとやってみたかったんです」
少しだけ、周囲が静かになった気がした。
碧羽が優しく目を細めて笑う。
「またみんなで一緒に来ればいいよ」
「ああ、そうだぞ」
「また次の休みにでも、みんなで来ればいいんじゃねぇか」
咲は本当に嬉しそうに、弾けるような笑顔を見せた。
***
その時だった――
蒼太が「次どこ行く?」と周囲を見回した瞬間――
――ゴォン……
地底から響くような、重く低い音が館内に響き渡った。
同時に、足元の頑丈な床がわずかに不気味に揺れる。
4人の動きが、一瞬でピタリと止まった。
「え、地震ですかね……?」
咲が不安そうに呟いた。
だがこの揺れ方は、ただの地震とはどこか決定的に違っていた。
ショッピングモールの外から届く、地響き。
まるで何か化け物が、地を這って動いているかのような不快な足音が地鳴りとなって響いている。
俺は無意識のうちに、右耳のイヤホンへそっと触れた。
胸の奥が、激しく不気味にざわつき始める。
言いようのない、最悪の嫌な予感。
さっきまでのあんなに穏やかで楽しかったはずの休日が。
ゆっくりと、しかし確実に終わりを告げようとしていた。




