11話 並び立つ時
ドォォォン!!
住宅街の奥から大きな音が響いた。
家々の窓ガラスが震える。
人々の悲鳴が風に乗って聞こえてきた。
蒼太が顔をしかめる。
「今度はあっちかよ!」
橙真は周囲を見渡した。
まだ逃げ遅れている人がいる。
泣いている子ども。
動けずにいる人。
道路脇に座り込んでいるおばあさん。
橙真の表情が変わった。
「碧羽、怪物を頼めるか」
碧羽は静かに頷く。
「分かった」
「蒼太、咲は避難誘導を頼む」
「了解」
「はい!」
4人はそれぞれ走り出した。
碧羽がたどり着くと、怪物は住宅街の道路の真ん中に立っていた。
吹き荒れる風。
揺れる木々。
周囲の人々には見えていない。
見えているのは突然起きた強風と地響きだけだ。
怪物がゆっくりと顔を上げる。
赤い目が碧羽を捉えた。
「こっちを見て……」
碧羽は両手を前へ向けた。
風が集まり始める。
落ち葉が舞う。
砂埃が渦を巻く。
空気が震えた。
蒼太は逃げ遅れた人たちを誘導していた。
「慌てるな!
こっちだ!」
崩れかけた道路の端。
足元の亀裂が広がろうとしている。
蒼太は周囲を確認すると、そっと地面へ手を向けた。
薄い氷が広がる。
崩れかけた場所が凍りついた。
「今のうち!」
人々が急いでその場を離れていく。
咲も子どもの手を引いていた。
「大丈夫だよ
ゆっくりでいいでいいからね」
子どもが泣きながら頷く。
咲はその頭を優しく撫でた。
しかし時折、風の吹く方を見つめる。
「碧羽先輩、大丈夫かな……」
道路脇ではおばあさんが座り込んでいた。
橙真が駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
「足をひねってしまって……」
橙真はしゃがみ込む。
おばあさんの足にそっと触れた。
「もう大丈夫ですよ」
温かな光がわずかに広がる。
おばあさんはゆっくり立ち上がった。
「あれ……痛くない……」
橙真は笑う。
「ゆっくりでいいので逃げてください」
「ありがとう……」
その時だった。
ドンッ!!
怪物が再び空へ跳び上がる。
碧羽は両手を広げた。
周囲の風が一気に集まる。
ゴォォォォ――
風が渦を巻く。
空中に巨大な球体が現れた。
怪物の体がその中へ包み込まれる。
蒼太が足を止めた。
「うお……!」
風の球体は空中で怪物を捕らえていた。
碧羽の髪が激しく揺れる。
両手が震える。
「っ……!」
橙真は周囲を見渡した。
その先。
工事現場。
重機。
広い敷地。
人はいない。
橙真は叫ぶ。
「碧羽! 工事現場まで動かせるか!」
碧羽は苦しそうに頷く。
「やってみる……!」
風の球体がゆっくりと動き始める。
住宅街の上空。
人々には見えない怪物が空を移動していく。
蒼太が笑う。
「すげぇな……」
咲は目を輝かせる。
「碧羽先輩、すごい……!」
風の球体は工事現場の上へたどり着く。
そして。
碧羽が両手を振り下ろした。
ドォォォン!!
風が弾ける。
怪物が工事現場へ叩きつけられた。
土煙が舞う。
重機が揺れる。
強い風が吹き抜けた。
碧羽はその場で大きく息をつく。
橙真が工事現場へ歩き出した。
蒼太がその隣に立つ。
咲も並ぶ。
碧羽も静かに前へ出る。
夕日に照らされた工事現場。
黒い怪物がゆっくりと立ち上がる。
4人は横一列に並んだ。
風が吹く。
誰も言葉を発しない。
そして橙真が一歩前へ出た。




