53話 音楽室 一
月日が経つのは早いもので、冬休みが終わり、あっという間に三学期になった。
三学期と言えば、卒業式シーズンの到来である。
と言っても、高校三年生は受験で忙しいから、中学校のように歌の練習とか、卒業式の準備らしきものはしていない。
白百合学園は中高一貫の学校なので、中等部の校舎から、卒業式ソングが風に乗って聞こえてくる程度である。
休み時間に春子と一緒に校庭に出た際に、ふわりと風に乗って中学生が歌っている卒業ソングが聞こえてきた。
「うわー、懐かしいなぁ。昨年、私もこの歌うたったわ。私立も公立も同じ歌うたってるんだね」
「へえ、そうなんだ……。春子もこの歌を歌って卒業したんだ」
「うん。そうなの。でね、放課後に残って歌の練習してたんだけど、不思議なことがあったのよ」
春子が中学三年生だったときの、思い出話が始まった。
卒業式の歌の練習は、音楽の授業を使って行われるのだが、授業だけでは練習が足りなくて、上手く歌えない生徒もいる。
女子はソプラノとアルトに分かれて歌うから、合唱に慣れていない生徒には結構難しい。
だから、もっと練習したいと言う生徒のために、放課後、音楽室を使っても良いことになっていた。
春子も放課後に残って練習することを希望し、毎日放課後に音楽室で、短時間の練習をしてから帰宅する日が続いた。
ある日のこと、練習が終わった後、友人同士で恋バナに花が咲き、いつもよりもずいぶんと帰る時間が遅くなってしまった。
その日は、春子が音楽室の鍵を閉め、音楽の先生に鍵を返して帰路についた。
まだ、午後の陽が落ちるのは早く、辺りは既に薄暗くなっている。
帰る途中でふと気がついた。
「体操服を入れたカバンを、音楽室に忘れて来たわ……」
春子は慌てて学校に引き返した。
音楽室の鍵を先生に借りに行こうとしたら、さっきまで練習していた卒業ソングのピアノ伴奏が、風に乗って聞こえてきた。
「あれ? 合唱の練習は終わったのに……、誰かがピアノの練習しているのかな?」
春子は、音楽室に誰かがいるのだと思って、職員室に寄らずに音楽室に足を運んだ。
外は暗くなっていて、照明の点いていない廊下も暗かったのだけど、音楽室から漏れる灯りで、そこだけが明るくなっていた。
「このピアノ伴奏、すごく上手いわ。弾いてるの、先生かな?」
春子は音楽室の引き戸をガラガラと開けて、中に入った。
するとその瞬間に、パタリと演奏が止まった。
「えっ? なんで?」
静まりかえった音楽室で、春子は狐につままれたような思いで、誰もいないピアノを見つめた。




