52話 スキー 三
一日目はなんとか無事に終わり、その夜は、皆ですき焼きを食べた。
その間も女の子は、ずっと春子のそばにいた。
なんだか、春子に懐いた猫が離れないという感じ。
二日目の朝からスキーの特訓が始まり、昼頃には、転ぶ回数が減り、私もそれなりに滑れるようになった。
だから、リフトで上がっては滑り降りることを、繰り返すようになったのだが、今度は人とぶつかりそうになって怖い思いをするようになった。
「じゃあ、次は、人がいない場所で滑らない?そこならぶつかる心配はないし……」
春子は何度も来ているから、いろんな場所を知っているのだそうだ。
私は春子の後をついて滑り下り、別の場所に移動した。
その場所は初心者の私が練習するにはちょうど良い斜面で、人もいなくて周りを気にせずに滑ることができた。
ただ、リフトがないので、歩いて上まで行かなければならなかったから、それはそれで結構大変だったのだが……。
ところが、山の天気は変わりやすく、いきなり風雪が激しくなり、あっという間に吹雪が視界を覆ってしまった。
まったく周りが見えなくなる恐怖なんて初めての体験で、私はその場で立ちすくんでしまった。
隣にいる春子も、空を見上げてじっと動かずにいた。
「春子、帰った方がいいんじゃない?」
「それはそうだけど……、道が見えなくて……」
このままじっとしていたら、夜になってしまうのでは……、私は、その恐怖に襲われた。
その瞬間、春子に憑いていた女の子と目が合った。
女の子は、私を見てから、斜め上に向かって指さした。
あちらが家の方角だよって言ってるみたいに……。
そして、春子から離れて、ゆっくりとその方向に歩き出した。
「春子、大丈夫。宿に帰ろう」
私は女の子の後をついて歩いた。
スキー板を肩にしょって、一歩ずつ女の子の後を追っていく。
春子と私は、吹雪の中を歩き続け、ようやく宿の前にたどり着いた。
「麗奈、良かったぁ。助かったぁ。でも、よく道がわかったわね」
春子は私を尊敬の目で見つめた。
「えっ?まあ、道を覚えていたっていうか……」
「麗奈ってすごい!」
春子は感動していたが、私が宿に帰ってこれたのは、春子のことが大好きな女の子のお陰である。
私が女の子に、心の中でありがとうとお礼を言うと、女の子は嬉しそうに宿の中に入って行った。
「やあ、お疲れさん。急に吹雪いて、大変だったね。リフトも停止したし、今日のスキーは、もう無理だな」
民宿のご主人は、私たちが遭難しかけたことを知らない。
私も春子も、叱られそうで、本当のことを言う気はなかった。
知っているのは、この家に住む座敷童の女の子だけなのである。




