49話 キャンプ場 二
霊気を感じることのできる卓弥が、禍々しい霊気を感じると言った。
「えっ? じゃあ、さっきの光は霊のせいなのか……?」
卓弥の言葉を聞いた裕太が青くなり、震える声で言った。
「おそらくな」
「怖くなってきたわ。もう帰りましょうよ。」
「ああ、そうだな。」
春子の声を合図に、皆は山の斜面に背を向けて、車に向かって歩き出した。
その時である。
「ま、待ってくれ~」
背後から男の声が聞こえた。
「えっ? な、なんだ?」
皆が驚いて後ろを振り返ると、腰から下のない上半身だけの男の幽霊が宙に浮き、ふわふわと追いかけてきた。
顔は半分潰れ、血を流し、苦しそうにこちらに手を伸ばしている。
「ええっ?」
「わあー!」
「ギャー!」
春子と裕太と従兄が、口々に悲鳴を上げて走り出す。
私も卓弥も、皆と一緒に走った。
走りながら後ろを振り向くと、「待ってくれ~、助けてくれ~」と恨めしそうな声を出し、まるで私たちを捕まえようとするかのように、近づいて来る。
私たちは必死に走って、駐車場に停めてあった車に乗り込んだ。
「は、早く出して!」
裕太が従兄に出発を促した。
「ああ、わかってる……、あ、あれ? キーがない!」
「えっ、ええー!?」
これには皆が驚いた。
窓の外を見たら、上半身だけの幽霊がこちらに迫って来ている。
「ポケットの中じゃないの?」
「い、今探しているんだけど……」
従兄はズボンのポケット、上着のポケットとあらゆるポケットを探り出す。
「あ、あった!」
従兄が嬉しそうに鍵を手にしたそのときに、天井からドン!と大きな音が聞こえた。
「キャーッ!」
「ワーッ!」
春子と裕太と従兄の悲鳴が、車の中に激しく反響する。
音の後に、何かがフロントガラスに転がり落ちてきた。
フロントガラスにコロコロと転がり落ちてきたのは、男の生首だった。
顔が半分潰れて血にまみれた男の生首は、フロントガラスにへばりつき、中にいる私たちをギロリと睨んだ。
「ギャーッ!」
運転席に座っている従兄が、目の前の生首に驚きのけぞった。
「あ、兄貴、しっかりして! そうだ、ワイパーで振り落とすんだ!」
「わわわ、わかった……」
裕太の声で、やっと冷静になった従兄はキーを差し込み、ワイパーを動かした。
男の生首は、ワイパーに翻弄されたが、落ちることはなくずっと中を睨み続けている。
「だ、だめだ……、あ、そうだ!」
従兄が、思いついてワイパーの速度を上げた。
ワイパーの速度に振り落とされるようにして、やっと生首は転がり落ちた。
「兄貴、早く、今のうちに、車を出して!」
「う、うん」
従兄はやっとエンジンをかけて車を発進させた。
後ろを見たら、男の生首の幽霊がふわふわと追いかけて来たのだが、車のスピードの方が速くて、徐々に遠のき、とうとう見えなくなった。
そのまま車は山道を下り、ふもとの町までたどり着いた。
皆は恐怖で喉がからからになっていたので、レストランに入って休憩することにした。
席について、男の幽霊の話をしていたら、レストランのマスターが水とおしぼりを出してくれた。
「お客様、もしかして、男の幽霊を見たのではありませんか?」
「そうなんです。腰から上の幽霊で、生首の幽霊にも……。追いかけられてすごく怖かったです」
従兄が代表して答えた。
「そうですか。実はね、十年ほど前のことなんですが、近くでバラバラ殺人事件があったのですよ。犯人は、バラバラにした死体をキャンプ場の近くに埋めましてね。それから時々、身体がバラバラになった幽霊が出てくるようになったのです」
一気に、この場の空気が凍り付いた。
マスターが出してくれた水が、まるで氷のように冷たく感じるのだった。
私の友人の友人に、春子と同じ体質の人がいます。その人と一緒に行動すると、何故か霊に遭遇することが多く、不思議な体験をすることがあるのです。
「キャンプ場と霊」は、友人から聞いた話を元にしてアレンジした作品です。まるで信じられないようなお話ですが、実際に体験したことなのだと話してくれました。




