47話 靴 三
客人は家中探し回ったが、結局、青年がどこにいるのかもわからないまま、時間が過ぎていった。
そうこうしている間に、警察と救急車と、レッカー車がやって来た。
この騒ぎを聞きつけた村人たちが、ぞろぞろと出て来て、皆が見守る中、ため池に落ちた白い車がレッカー車で引き揚げられた。
「大変だ、中に人がいるぞ!」
見ていた村人の中から悲鳴が聞こえた。
驚いて、客人が車の中を覗くと……
白いトレーナを着た若い男が、車の中で息絶えていた。
その顔は、昨夜泊めた青年の顔だった。
救急車に乗せられる際に青年の姿を見たら、ジーンズをはいた足には、靴を履いていなかった……。
その後は大騒ぎで、青年の遺体は救急車で町の病院に運ばれ、車の中にあった免許証から住所がわかり、その日のうちに家族に引き渡された。
青年を家に泊めた客人は、救急車を見送った後、家に戻ったのだが、青年の濡れた靴はまだ残ったままだった。
客人の長い話が終わった。
「これがその靴なのですが……。その場で救助の方に渡せばよかったものを、渡しそびれて、今に至っております」
客人は紙箱を親父の前に差し出し、蓋を開けた。
中には、スニーカーが入っていた。
「この靴を、持ち主の家族に返そうと思うのですが、その前にお祓いをしてもらいたくて持ってきたんです」
客人は話しを聞いてもらって、ほっとしたような表情をしていた。
「なるほど、それは恐ろしい体験をしましたね。ですが、ご安心ください。この靴を見る限り、あなた様の善意と、ご家族の皆様の温かいお気持ちは、仏様にも十分に伝わっています。念のために、この靴をお祓い致しますが、どうぞご遺族様に、安心してお渡しください」
何度も言うが、親父には霊能力が全くない。
だが、演技力がすごくて、こういうことも、さも見えているように言えるのだ。
俺が靴を見たら、霊気は感じたが、禍々しさはなく、とても少ないものだった。
ご遺体は家族の元に帰ったのだから、もうこの靴には執着がないのだろう。
本心を言えば、別に除霊をしなくても良いような気もするのだが、除霊をすることで、客人が安心して家族に靴を返せるのなら、した方が良いのだと思う。
俺と親父は、除霊の呪文を唱えた。
「オン アボキャ ベイロシャノウ マカボダラマニ ハンドマジンバラ ハラバリタヤ ウン オン アボキャ ベイロシャノウ マカボダラマニ ハンドマジンバラ ハラバリタヤ ウン……」
今回の除霊は光明真言、仏の光で成仏を促す呪文だ。
靴から出ていた霊気は、きっとあの世で本体の霊と合流することだろう。
呪文を唱えている間、俺が靴から感じていた少ない霊気は、暖かく柔らかな霊気となって消えていった。
きっと親父の言うように、仏様には客人と家族の善意と温かさがちゃんと伝わっていたのだと思う。
だから、親切にしてもらったお礼を言いたくて、靴を残していったのかもしれないなと、ふと思った。




