45話 靴 一
俺の名前は、浄念寺拓弥。浄念寺の跡取りだ。
幼い頃から霊能力に目覚め、じいちゃんのもとで修業を繰り返し、今では除霊もできるようになっている。
だけど、まだまだ力不足で、霊気を感じることはできるが、霊気が具現化した姿を見ることはできない。
じいちゃんも麗奈も、霊の姿を見ることができるから、俺にしてみたら羨ましい限りだ。
だが、俺だっていつまでも負けちゃいない。
これからもどんどん修行を積んで、じいちゃんを超える除霊師になるつもりだ。
現在の住職である親父は、霊能力が皆無だ。
だから、客から除霊の依頼があれば、俺も同席して、話しを聞くことにしている。
人々の中には、この世に霊なんて存在しない、あんなのは気のせいだとか、勘違いだとかいう輩もいるが、現実に幽霊を見たと言う人や、霊障で困っている人がいるのだから、霊が存在しないと決めつけるのは暴論ではないかと俺は思う。
昨日だって、除霊をして欲しいと親父に依頼をするために、浄念寺に来た客人がいた。
その人は、ここからかなり遠くに住んでいる中年の男だったが、ネットで除霊できる寺を探して、ここに来たと言った。
俺は親父と一緒に、その客人の話を聞いた。
客人が住んでいる場所は、山奥の自然豊かな場所である。
先祖が切り開いた田や畑を守りながら、平日は会社員として働き、いわゆる兼業農家として収入を得ている。
田舎の広い家で、奥さんと年老いた両親と一緒に暮らしている。
息子二人は大学に通うために家を出ているから、現在は四人暮らしだ。
今から一週間前のこと、ドンドンと夜に玄関の戸を叩く音が聞こえた。
この客人が住む田舎の集落は、家と家が離れていて街灯が少なく、夜に出歩くのは危ないので、よほどのことがない限り、夜に人が訪ねてくることはない。
玄関の戸を叩く音が聞こえたので、「いったい、誰が来たんだ?」と客人は玄関まで行き、戸を開ける前に「どなたですか?」と尋ねた。
「夜分にすみません。私は通りすがりの者ですが、助けて欲しいのです」
苦し気に震えている男の声が聞こえた。
こんな田舎に強盗が来るとも思えず、戸を開けてみたら、白いトレーナーとジーンズ姿の全身ずぶ濡れの青年が立っていた。
顔色は血の気がなく真っ青で、ブルブルと震えている。
「ど、どうしたのですか、全身ずぶ濡れじゃないですか?」
「実は、先ほどまで車を運転していたのですが、私の車が池にはまってしまったのです。なんとか車から抜け出してきたのですが……。すみませんが、今夜一晩、こちらで泊めていただけないでしょうか?」
このやり取りをしている間に、妻も両親も玄関にやって来た。
「それは気の毒なことじゃ。孫の部屋が空いてるから、そこで寝てもらえば良いじゃろう」
客人の父がそう言うので、客人は青年を息子の部屋に案内した。




