42話 文化祭 二
女の霊が、元女優と聞いてびっくりしたが、霊の顔をじっと見つめても、残念ながら芸名がわからない。
「あら、あなた、芸名がわからないって思ったでしょ。無理もないわ。全然売れなかったから。でも、サスペンスドラマの死体役とか、結構仕事してたのよ」
文化祭までずっと憑かれる春子のことが心配になったのだが、元女優の霊は明るかった。
「何も悪さをしようって言うんじゃないのよ。私、高校生のとき、仕事で文化祭に参加してなかったから、ちょっと、その雰囲気を味わいたいだけよ」
結局春子から離すことはできずに放課後になってしまった。
まあ、春子の気分が悪くなってないのなら、このまま放置していても良しとするか……。
その後、元女優の霊は、文化祭の準備中にふらりとやって来ては、春子の横にぴったりとくっついていた。
そして楽しそうに、井戸を作る春子を見ていた。
なんだかんだで、文化祭当日になった。
昨日、暗幕を窓に垂らして教室を暗くし、机と暗幕を使って暗い順路を作り、お化け屋敷の会場作りは、なんとかできた。
役割分担は前半と後半に分けて、皆で協力することになっている。
私たち四人の仕事は前半で、春子と私は白い着物の衣装を着た幽霊役で、卓弥と裕太は、暗幕に隠れた場所に立ち、釣り竿で上から薄いこんにゃくを垂らす仕事。
他の生徒たちも、自分の仕事をするために配置につき、、客を待っている。
開場時間になり、お化け屋敷に入った人が順路で重ならないように、入場整理係が時間差をつけて入場させ始めた。
「キャー!」
「わあー!」
教室のあちこちから悲鳴が聞こえてきた。
皆上手に驚かせているみたい。
春子の仕事は、客が近づいたら井戸からにゅっと立ち上がって驚かせる役。
私は柳の木の後ろに隠れて客を待ち、通り過ぎる際に後ろから肩をトントンして驚かせる役。
皆、それぞれの持ち場で頑張った。
私たちのお化け屋敷は怖いと評判になり、多くの生徒が列をなして大盛況になった。
午前の部が終わり、私たち四人は自由時間になったので、他のクラスを回ることにした。
廊下を歩いていると、裕太の友人が話しかけてきた。
「お前らのお化け屋敷、怖かったぞ。歩いていたら、ペチョッて顔に何かがついてびっくりしたし……」
「ああ、それやったの、俺! アイディアも俺!」
裕太は得意げに自慢した。
「一番怖かったのは井戸から出てくる幽霊だな。あれは迫真の演技って言う感じでさ」
「それやったのは春子だよ。なっ!」
「えっ?う、うん……」
裕太は春子の肩をたたいたが、春子の返事は曖昧だった。
周りに誰もいなくなってから、春子がこっそりと私に教えてくれた。
「実はね。私、井戸の中にいたときに、気分が悪くなって立てなくなって……、手しか出してないの。皆キャーキャー怖がってくれたけど……、手の演技がそんなに怖かったのかなぁ?」
「えっ? そ、そうね。きっと手の演技が、迫真の演技だったのね……」
きっと、元女優が春子に代わって幽霊役をしたのだろう。
後で聞いた話だが、後半の生徒も気分が悪くなって立てなくなったそうだ。
元女優の霊は、結局一日中、井戸の幽霊役を楽しんでいたようであった。
文化祭が終わった後は、ぱったりと姿を見せなくなったから、あれで十分に満足したのだろう。




