40話 遊園地 二
魂を飛ばした私は、観覧車のゴンドラを抜けて、下にいる男の霊の前に立ち、対面した。
「あの、失礼ですが、何か困りごとがあるのではないですか? さっきから、誰かを探しているように見えたのですが……」
突然降って来て、目の前に現れた見知らぬ私を見て、男の霊は一瞬驚いたような顔をしたが、なんとなく、少し嬉しそうな顔をしているようにも見えた。
「ああ、あなたは僕が見えるのですね。ずっと長い間ここにいるけど、話しかけてくれたのは、あなたが初めてです。実は婚約者を探しているのです」
やっぱり嬉しかったようで、男はすんなりと話してくれた。
「婚約者の方が、遊園地に来ているのですか?」
「いつ来るのかわからないから、毎日探しているのです」
「あの……、でも、さっき、子ども連れの家族を見ていませんでしたか?」
この問いに、男の霊は私をじっと見たのだが、その目にはどことなく悲しみをたたえているようにも見える。
「僕は婚約者を残したまま、病気で死にました。病気になる前に、彼女とここに来て、子どもができたら家族で来ようねって約束していたのです。でも、それは叶いませんでした。僕は、彼女を幸せにしてあげることができなかった……」
男の目から、ほろりと涙が零れた。
「だから、僕でなくてもいい、他の誰かでもいいから、彼女を幸せにして欲しかった……。だから、ずっとここで待っているのです」
「では、婚約者の方が、家族と一緒に来るまで、この遊園地で待ち続けるということですか?」
「はい。そうです」
私には、彼を助けることはできないみたい……。
「早く幸せな彼女に会えたらいいですね」
私はそう言い残して浮き上がり、ゴンドラの中にいる身体に魂を戻した。
目を開けると卓弥が聞いてきた。
「どうだった?」
「婚約者が幸せになっている姿が見たくて、ずっとここで待っているんだって。私が力になれることはないみたいよ」
私たちのゴンドラは一周し、降りる時間になった。
先に降りた春子と裕太が下で待っていてくれたから、私と卓弥も合流する。
その時、三歳くらいの男の子を連れた夫婦とすれ違った。
男の子がワクワクしながら観覧車を指さして、母親の手を引っ張っている。
子どもの笑顔に釣られるように、夫婦も楽しそうに微笑んでいる。
遊園地では、よくあるごく普通の家族の光景。
さっきの男の霊が、じっとその家族を見ていた。
ほっとした表情に、どこか寂しさを交えた目をして……。
ああ、やっと願いが叶ったんだわ……
私の中にも、ほっとした感情が湧きあがった。
男の霊はその後、ふわりと浮き上がって、霧のように消えていった。
あの男の霊は、いったい何年間待ち続けていたのだろう。
彼女の幸せを確かめたい、その思いだけで、ずっと待ち続けていたのだ。
「願いが叶って良かったですね」
私は天に向かって呟いた。




