35話 洋館 四
俺とじいちゃんが慌てて悲鳴が聞こえた部屋に入ると、春子が蹲って震えていた。
裕太と麗奈はしゃがんで「大丈夫?」と声を掛けている。
この部屋は、物置にでも使われていたのか、デーブルも椅子もない小さな部屋だった。
「どうしたんだ?」
「あ、あれ……」
俺の問いに、春子が震える手で指をさした。
俺が春子の指の先に視線を移したら、そこにあったのは、大きな鏡だった。
この部屋には家具らしいものは何も置かれていなかったが、壁に取り付けられた大きな鏡だけが残されていた。
「あ、あの鏡に、寝着を着た、き、金髪の、髪の長い女の人が映ってた……」
指を差しながら、そう言う春子の声は震えている。
俺は鏡の前に立って、じっくりと鏡を見たのだが、何の変哲もないごく普通の鏡で、俺の顔を映しているだけだった。
「今は金髪の幽霊なんて映ってないから、安心しろ」
俺は春子を安心させたくてそう言ったのだが……
「わ、私……、き、気分が悪い……、ううっ……吐きそう……」
春子が真っ青になって口を押えた。
「おい、大丈夫か?」
裕太が心配して、横から春子をのぞき込んでいる。
「ふむ……。この鏡から邪気を感じる」
じいちゃんは、まじまじと鏡を見つめている。
「あっ……、待って!」
突如、麗奈が声を発した。
麗奈を見たら、彼女は誰もいない壁に向かって手を伸ばしている。
俺には何も見えないが、そこに霊気を感じる。
「卓弥も一緒に来て!」
麗奈が何かを追いかけるように、部屋から出た。
俺もじいちゃんも、麗奈を追いかけた。
麗奈が階段を上って二階へと駆け上がるから、俺たちも彼女に続いた。
二階の部屋の前で、麗奈が止まった。
「彼女、金髪の女性が、この部屋の中に入って行ったわ」
「ほう……、部屋の中から禍々しい霊気を感じるわい」
じいちゃんが緊張した顔でドアを見つめた。
「俺も邪悪な強い霊気を感じる」
俺の背中に、冷たい汗が流れてくる。
「これは、除霊をした方が良さそうじゃな」
じいちゃんが、重々しい口調で言った。
「待ってください。彼女、何か言いた気な、とても悲しそうな顔をしていました。何か理由があるような気がするのです。私が話を聞いてみます」
麗奈がすがるような目で、じいちゃんを見た。
「しかし、この中は危険じゃよ」
「危険なときは、助けてください」
麗奈は壁を背に座り込み、そのまま眠ったようになった。




