30話 庭 一
夜、夕飯が終わってくつろいでいたら、卓弥からメールが来た。
「ちょっと見てもらいたい家があるんだけど、よかったら一緒に来てくれないかな?」
卓弥は霊の気を感じることはできるが、私のように、はっきりと霊の姿を見ることができない。
きっと仕事の話だろうと思い、OKのメールを送った。
翌日、卓弥と私はその家に向かった。
歩きながら、卓弥は簡単に説明してくれた。
今から行く家には、老夫婦が二人で住んでいた。
娘が一人いたが、結婚して家を出ている。
妻の趣味はガーデニングで、花を植えたり雑草を抜いたりして、広い庭をいつもきれいに管理していた。
ところが少し前の暑い日に、妻が庭の草抜きをしている最中に、熱中症になって倒れてしまった。
ご主人はたまたま外出していて気が付くのが遅くなり、救急車で病院に運ばれたが、残念なことにそのまま帰らぬ人となってしまった。
残されたご主人は、一人で暮らし始めたのだが、言動がおかしくなってきた。
それで娘が心配して、浄念寺に相談に来たと言う。
「言動がおかしくなったって……、痴ほう症なら、相談に行くのは病院じゃないの?」
「俺もそう思ったんだが、おかしな言動と言うのが、亡くなった奥さんのこと限定なんだ」
娘が実家に行くと、父親が母親のことを話し出すのだが、まるで母親が生きているかのように話をする。
「母さんが、枕元に立って何か言ってるのだが、何を言ってるのか聞こえない」
「母さんが、今日もじっと庭を見ていた」
「母さんが柿の木の枝に座っていた」
これ以外にも、父親はまるで母親が生きているような言動を繰り返した。
生活面では一人でも家事をこなし、問題なく暮らしているから、もしかしたら、痴ほう症ではなく、霊的なものではないかと心配になったそうだ。
私たちは話をしている間に、家の前についた。
少し広めの庭がある二階建てのごく普通の一軒家。
庭は花がきれいに咲いているが、奥さんが亡くなってから手入れがされていないのか、雑草が少し目立ってきている。
庭木も数本植えられているが、形が整っているのを見ると、どれも手入れがされているようである。
卓弥がじっと庭の様子を見た後に、私を見た。
「柔らかな霊気を感じる。麗奈は何か見えるか?」
「そうね。おばあさんがじっと柿の木を見ているわ」
この家の柿の木は、手入れをされているようで、大きくなり過ぎないようにきちんと剪定されていた。
麗奈が幼い頃に旅行に行った先で見た柿の木畑を思い出した。
どの木も、大人が手を伸ばせば届くような位置に柿の実がなるように剪定されていて、オレンジ色の実に白い袋が掛けられていた。
なんだか、おばあさんはこの木にとっても思い入れがあるみたい。
「私、おばあさんと話してみる。卓弥、私の身体、守っててね」
私と卓弥は道の端に座り、私は魂を飛ばしておばあさんと対面した。




