28話 映画館 二
チケットの座席番号を確認してから、私たちは座席を探した。
「あった、ここだわ」
春子が指定席のアルファベットを見つけて、座席の前を進んで行く。
数組の客の前を通り過ぎ、私は春子と並んで真ん中の見やすい席に座った。
客はまばらで、空席が目立つ。
こういう場合、チケットの購入の際、たいていは他人との距離をとるために、空席分を空けて座席を指定する。
だから、映画を見ている最中も、余裕があって気持ち的にも楽だ。
ところが、何故か、私のすぐ隣に若い女性が座った。
空席が多いのだから、せめて一つ席を空けて買えば良いのに……。
春子を見たら、気にする様子もなく、ポップコーンを食べながら、上映前のコマーシャルフィルムを見ている。
「麗奈も食べる?」
目の前に差し出してくれたから、私も少しポップコーンを食べた。
「空いていると、隣の人を気にしないで食べれるからいいよね」
春子がポップコーンを口一杯に放り込んで、私ににんまりと微笑んだ。
私の隣に座った女性は、可愛らしいワンピースを着て、髪形やアクセサリーにも気を抜くことなくおめかしをしている。
デートかな? と思ったけれど、彼氏らしき男性はいなくて、たった一人で私の隣に座っている。
だけど、待ち人がいるようで、キョロキョロと周りを見回していた。
そして私の席を、恨めしそうにじっと見たりする。
上映時間になり、照明が落ちて暗くなると、隣の女性からぼおっと暗い光を感じた。
ああ、彼女は霊だったのか……。
ふと気になって、ぐるりと客席に目をやると、何人かは暗い光を放っている。
数は少ないけれど、霊は彼女一人だけではなかった。
私は映画に集中しようとしたのだが、映画が始まっても彼女はキョロキョロと落ち着きなく周りを見回しているし、私に何か言いたげな視線を送ってくるし……。
隣でそんなことをされると、どうも落ち着いて映画なんて見れない。
とうとう我慢ができなくなって、私は魂を飛ばして、彼女と対面した。
「あの、さっきからキョロキョロと周りを見回しているようですが、誰かを探しているのですか?」
「うん、そうなの。彼と一緒にこの映画を見る約束をしてたから」
「彼はまだ来ていないようですね」
「私が日にちを間違えたのかもしれないの。約束をしたのは半年も前だから……。あっ、でも、見終わったら一緒にランチしようって言ってたから、時間は合ってるんだけどね」
「半年も前って、ずいぶん気の長い約束ですね」
半ば呆れたように、私は言った。
「仕方がないじゃない。彼、海外の長期出張なんだもの。半年前に、この映画館で映画を見て、半年後にもここで映画を見ようって約束したのよ。ちょうど、この映画の予告してたから……」
「すみません。理由はわかりました。でも……、席はここでないとダメなんですか? こんなに空いているのだから、別の席でも良いのでは……」
「彼がね。この席でチケットを買うって言ってたの。だから、私はここで待たなければならないの。彼の席は、今あなたが座っている席よ」




