23話 夢 二
「い、い、いったい何故、俺はこんなところに……?」
まるで自分の意志ではなく、この場所まで来たかのような反応を見せた後、私の顔を見て「ギャー!」と叫んで逃げて行った。
まるで狐につままれたような気分とは、こういうことを言うのだろう。
私がポカンと口を開けて逃げた男を見ていると、卓弥がボソッと聞いてきた。
「麗奈、何が見えた?」
「あの男の背中に女の霊がへばりついていたのよ。女の霊はすごく怒っていたんだけど、それだけじゃないものを感じたわ。卓弥、あの霊は悪霊なの?」
「いや、悪霊特有の禍々しい気は感じられなかった。あの男と何か関係があるのだろうけど……」
「それにしても、失礼よね。心配して声を掛けたのに、私の顔を見て、叫んで逃げるなんて……」
「女の霊はどんな姿をしていた?」
「若かったわ。それに髪の毛が長かった」
「おそらく、それだろう。若くて髪が長い女だったら、麗奈と同じじゃないか」
「つまり、私を幽霊と間違えたってこと? それはそれで失礼だわ」
「まあまあ、そう怒らないで……」
この失礼だった男の理由が、後でわかった。
ラーメン屋の除霊式が終わった翌日 、テレビニュースやネットニュースで、顔写真付きで大きく報道されたからである。
内容はこう。
二日前に、初老の男が殺人を犯したと警察に自首してきた。
年齢は65歳、40年前に交際していた女性と、別れ話のトラブルから首を絞めて殺害。
死体は、床下に穴を掘って埋めた。
死体を埋めたその真上の畳の上に布団を敷き、何食わぬ顔で寝起きを40年間繰り返してきたから、男が殺人を犯したことなど、誰も気が付かなかった。
ところが実際は、その40年の間、周りの人に気付かれないように平静を装っていたが、内心では、いつばれるかと思うとビクビクしていた。
何度も悪夢にうなされるようになり、引っ越しも考えたが、死体が見つかるのを恐れて、それもできなかった。
ここ一年間は特にひどく、毎日夢の中に女が現れて、恨みのこもった恐ろしい顔で自首しろと迫ってくる。
目が覚めても、目の前に女の幽霊が現れて、自首しろ、自首しろと憎悪と怨念の宿った形相で睨んでくる。
とうとう昼間にも女の幽霊は現れて、ふと気が付いたら警察署の前に立っていた。
その日は怖くなって逃げ出したが、夜になると女の幽霊が、どうして自首しないのかと迫って来た。
怖くて怖くて毎日眠ることができず、疲れ果てていたところに、無意識のうちに警察に連れていかれたことを考えると、女の言う通りに自首せずにはいられなくなった。
だから、40年たった今、自首してきたのだと男は話したそうである。
その話をもとに、床下を掘り返したら、白骨死体が出てきたとニュースは伝えていた。
昼間に警察署の前で、女の幽霊が現れたという下りは、若干ムッとするのだが、40年間、自首しろと訴え続けてきた女の執念がやっと実を結んだのだ。
女の幽霊が、これで成仏できたら良いのに……と思った。




