087 炉辺は竪琴、そして歌とともに
多くのファンタジー小説において、主人公をはじめ冒険者が所属するギルドには、たいてい酒場が併設されている。
理由は諸説あり、それをここに示すゆとりはないが、この酒場に欠かせぬキャラクターのひとつが吟遊詩人だ。
30話で触れたように、音楽は人の本能に刻まれた根源的な悦びである。危険と隣り合わせ、死神を隣人に修羅を友とする冒険者ならずとも、ひとときの安寧を歌舞音曲に求めるのは必然といってよい。
さて、吟遊詩人はもうひとつ重要な役目もつ。
最新情報を流布すること、つまりニュースだ。ひっそりスローライフしたい者はともかく、成り上がり系の主人公には不可欠の存在といえる。
いかに主人公が活躍しようと、それを伝える者がいなければ虚しい。冒険者ではないが、古来より遠征を行う王には、その勲を歌にして伝え、また味方を鼓舞する役目をももつ楽人がいたものだ。アレクサンドロス大王までいくと、もう本来の、探検家という意味の冒険者かもしれないが……。
話を戻そう。それゆえ作者の皆様は、ときに詩人が歌うシーンを書くこともあろう。で、そういったシーンで気をつけたいことがある。
まず、私が昔読んだ、児童向けに翻訳されたアーサー王物語のワンシーンを挙げよう。若きパーシバルが獰悪な騎士を倒したのち、道化師がそれを讃えて歌う場面だ。
騎士というても いろいろござる
みなりよろいは そまつでも
いやなやつ 悪いやつ 打ちこらす
やりの若者 みごとです
音読してみると、非常にテンポのよいリズムと分かる。それぞれ音の数は、
7 7
7 5
5 5 5
7 5
となっている。
俳句や短歌でおなじみの五音と七音に統一して日本語にすることで、印象に残るよう配慮しているのだ。歌のサビにあたる三行目が5×3音で、ひときわ軽妙なのもポイント。
もうひとつ挙げよう。こちらはスティーブ・ジャクソンとイアン・リビングストン共著の「モンスター辞典」からだ。
まずはンヤダク、酷き支配者
仕うるさだめの卑しきスコーン
されど謀反の炎は燃えて
奴僕の恨みにンヤダク滅びぬ
~ドワーフの古謡より
ンヤダクとスコーンは亜人の一種。前者はニャダクと発音したほうがよいかもしれない。それはともかくこちらの音数は、
7 7
8 8
7 7
8 8
で、同数を反復することで読みやすくしている。古謡つまり歌なのだから、音楽的な作詞の技法を取り入れた翻訳になってるわけだ。
イギリスの作家ローズマリー・サトクリフの「剣の歌」でも、主人公ビャルニが過去の経験を歌って聞かせるシーンがあった。こちらでは上のような歌詞そのものは書かれてはいないが、おおよそ似た感じだったと思ってよかろう。
炉辺には竪琴などの楽器が置いてあり、火を囲む者は自由に使ってよいらしい。現代人の感覚でいうなら、カラオケ店のマラカスやタンバリンのようなものか。
話はそれるが、竪琴とマラカスでは演奏の難易度がまったく違う。30話でも述べたが、娯楽が少ない時代だから楽器のスキルをもつ者が多いのだと思われる。
それはともかく吟遊詩人を描写するなら、テンポよく歌える文章を意識したい。ちょっとした演出ならまだいいが、主人公が竪琴弾きならある程度本格的な作詞の知識も必要になるはずだ。そうでなくとも音読したときつっかえぬように、いちど口にして確認する癖をつけよう。
ちなみに「剣の歌」本文によると、ビャルニは人並以上に竪琴が巧みらしい。
同作者の別作品「運命の騎士」において、主人公ランダルが楽人のエルルアンから「あいつは音楽の才能ゼロ!」と酷評されてたのとはえらい違いだ。少しでいいからその芸術的才能をランダルに分けてやれよビャルニ。




