085 忍者なのに全然忍んでない人たち
ファンタジー作品の多くは中世ヨーロッパ風の世界だが、その文化では異質であるにもかかわらず、不動の人気をもつキャラクターがいる。
わが国が誇る侍と忍者だ。かくいう私も別作品で主人公親子をサムライとして書いているが、今回はもう一方の忍者について語ってみたい。
まず、史実の忍者についておさらいしておこう。実際には暗殺などより情報収集やデマの流布を行うスパイのような任務をメインとし、各地の大名に雇われる存在であった。ちなみに呼称は多数あり、素破(透破とも)、乱破などとも呼ばれた。特ダネをスクープする「すっぱ抜き」の語源がこれである。
次にフィクションの忍者。これは横山光輝先生の漫画や特撮ヒーローに代表されるように、驚異的な体術と魔法のような忍術を兼ね備えた超人戦士というイメージが主流だ。
ゲームとかの忍者は、大抵スピード型の戦士という扱い。体力や攻撃力、防御力はやや低いものの、素早さで攻撃を避け、手数の多さと麻痺などの状態異常で敵を追いつめる。
そんな忍者がファンタジーに登場した元祖は、このエッセイでもよく挙がるウィザードリィだろう。少なくとも、現在確立している漫画的ニンジャのイメージを決定づけたのは確かだと思う。
で、そのウィザードリィの忍者は現在の主流とは少し違う。具体的には戦士が使える武具は全て装備可能、レベルが同じなら攻撃力も同等。敵を即死させるクリティカルのスキルを持ち、何も装備がない状態だと回避率が上がる。また、本職の盗賊には劣るが罠の知識も有する。
そして魔法は使えない。
古いウィザードリィでは敵を眠らせたり麻痺させるのは呪文でしかできなかったので、デバフ能力がないのだ。
魔法が使える侍や君主とは違う。忍者というより剣豪か武術家って気がする。なので思わずにはいられない、盗賊と魔法使いの複合職のほうがそれっぽくね? と。
火遁の術はマハリトで分身の術はソピック。武具だって短剣と鎖かたびら止まりのほうが似合うだろう。鎧兜は忍者っぽくないよ。
しかし考えてみれば、物語の舞台リルガミンは中世ヨーロッパ風の世界だ。情報伝達の技術は現代とは比較にならない。忍者が隠密行動を主任務とする工作員であることは、伝播の途中で歪曲され、誤って伝わってしまったのであろう。
史実では、中東にはアサシンなる一団がいた。詳しく書くゆとりはないが、まあ殺し屋と思っておこう。リルガミンがある世界にも同様の集団が存在したなら、これが忍者と混同されてもおかしくない。
ウィザードリィの忍者が暗殺を専門とするなら、魔法を使えないのも納得がゆく。沈黙の魔法モンティノや、ワードナのダンジョンでも見られた呪文封じの結界が存在するため、物理攻撃に頼らねばならぬからである。
戦士の武具を使えるのも変装のためだろう。ファンタジーでなく時代劇だが、隆慶一郎の小説「影武者徳川家康」でも、甲斐の六郎が騎馬武者の鎧を奪って家康に近づいた。
ネットも写真もない時代、異国の文化がそのまま伝わるわけがないのだ。まして忍者は機密保持のため、人里離れて修行しているから尚更である。
ところで……
フィクションの忍者はどいつもこいつも全然忍んでない。目立ちまくりのハットリ君、ウィザードリィの裸忍者。戦闘中にスシ食うやつもいるし。
中でもファミコンの「忍者龍剣伝」の主人公リュウ・ハヤブサ。1面のクリアデモで、彼は独りつぶやく。
『奴らは一体、何者なんだ……
俺を狙っているのは確からしいが……』
いやあのさあ、アメリカの街中を白昼堂々忍者の格好して刀持ったやつが全力疾走してたら、誰に襲われてもおかしくねーだろ。
おとんはもう少し世間の常識を教えておけよ。




