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084 民家で家捜しする勇者と、王様の思慮

 RPGをやってて、いつも疑問に思っている方も多かろう。


「勇者は新しい町に到着したとき、なぜ何をおいても民家の机やタンスを調べたり、壺を割ったりするのか?」


 むろんメタ的には情報収集の都合である。大抵のプレイヤーはタンスを調べるついでに村人にも話しかけるだろうから、自然と次にすべきことが分かる。逆に言うと、ただ話しかけるだけでは面倒さが勝るだろうとの配慮から、町を隅々まで探査する際にささやかなご褒美を用意してあるわけね。

 別パターンとして、74話で紹介した東海三県クエストシリーズでは、話しかけるだけでレベルが上がるので自然と全員と会話するようになっていた。また、そこら中にお金やアイテムが落ちているので、それらを取るために歩き回るのも若干の経験値となった。


 まあ、勇者というのがそこら辺の腕自慢が自称しているだけなら、略奪は納得がいく。これは言うなれば傭兵隊のようなもので、彼らはいくさが終わった瞬間に失業し、そのまま強盗団に早変わりしたのだから。嘘か真か、戦争中の方がまだいくらか平和だったとすら言われている。


 が、近年の作品だと勇者はだいたい王様公認の少数精鋭部隊、魔王をはじめ世界の脅威となる外敵を討伐する任務を帯びた存在だ。時計の針を中世から古代に戻して、ギリシャ神話で十二の難行を課せられたヘラクレスや、王から言われて金の羊毛を求めて旅立ったイアソンのような。

 とすると国王公認の、いわば本物(?)の勇者ともあろうものが空き巣をやったら、王様は任命責任を問われないのだろうか? 現代の日本なら、下手すりゃ辞任ものだろこれ。


 いくつかの可能性が考えられ実際に諸説あるが、もしかして勇者に物資などを供出するようにと、王の名において先触れが出ているのかもしれない。それなら分からなくもないし、ある種の名誉でもあろう。


 たとえ一袋の薬草だろうと、提供した人は「自分はしがない村人だけど勇者様に協力した。魔王討伐にほんの少しだけ役に立てたんだ」という満足感、達成感を得られる。それはおそらく市井しせいのいち庶民にとって、生涯誇れる人生の勲章なのである!


 また、魔王の中には人間のネガティブな感情、すなわち恐怖や絶望をエネルギー源とする者がいる。なら町の人各自が「自分だって自分なりの方法で魔王と戦っている」と思えることは、敵の力を弱めることにほかならない。

 古い特撮の主題歌にもある。一人一人は小さいけれど、一つになればごらん無敵だ! 魔王軍との戦いでステテコパンツが何の役に立つかは知らないが……。


 いや待て、下着は必需品だな。

 ジャック=ルイ・ダヴィッドの有名な絵画「サビニの女たちの仲裁」でも、ほぼマッパで戦う男たちの間に入った女性が「ちょっとあんたたち、せめてパンツくらい履きなさいよ!」と叫んでいる(※たぶん)ではないか。


 このエッセイでも「勇者に銅の剣を渡すのは、青銅の剣が最強武器だった古代の勇者を再現する儀式」という仮説を展開したが、あえて物資の少ない状態で旅立たせるのは村人の協力を促し、人類規模の連帯感を高める狙いがあると思われる。


 人は共通の敵と戦うとき、もっとも強く団結するという。皆に「自分だって魔王と戦う一員なんだ」と思わせることは、荒廃した人心の安定や治安の維持にも役立つだろう。


 やはり王様はケチなのではなく、深謀遠慮しんぼうえんりょのもとで魔王と戦っていたのである。まあ、それはそれとして支度金はもう少し奮発してほしいけど。

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