068 利き腕と隊列の関係
突然だが、あなたの利き腕はどちらだろうか?
私は普通に右利きだ。しかし左利きは珍しいという程でもなく、全体の5%前後という。クラスに一人くらいですな。
当然、ファンタジー小説やゲームのキャラにだって左利きの者はいる。種族全体の傾向として左利きが多い蜥蜴人(心臓が右胸にあるから右手に盾を持つらしい。そういや特撮ヒーロー『宇宙刑事ギャバン』のサイダブラーもそうだった気が)はともかく、私の記憶違いでなければFF2のレオンハルト、石垣環版ウィザードリィの主人公リョウなどが左利きだった。あとモンハンの槍使い。
さて、彼らが利き腕に武器を持てるのは、少人数のパーティで戦う冒険者やハンターだからだとご存じだろうか。なぜなら騎士や兵士は、左利きでも右手に武器を、左手に盾を持って戦うよう訓練されるためだ。
なぜか? 右利きの人と左利きの人がカウンターに並んで食事するときを想像すると分かるだろう。今はソーシャルディスタンスが徹底されているが、近いと肘が当たる。隊列を組んで白兵戦を行う際、武器を振り回しにくいからである。
右利きの私は憶測するよりないが、左利きはものすごく不利なはずだ。
自分に置き換えると分かる。いくら訓練するといっても、私は右手に盾、左手に剣を持って、同じくらい訓練している左利きの相手に勝てるとは思えない。ましてや命がけの実戦などお断りですよ。
ファンタジー世界でも人の考えはそう変わるまい。おそらく左利きゆえに騎士や兵士の道を選ばず、あるいは芽が出ず、利き手に武器を持てる冒険者となった者もいるだろう。ベストを尽くしてやられるなら諦めもつくが、力を発揮できずに死ぬのは嫌だ、と……。もしあなたがバトル描写に自信のある作者なら、そんなキャラを登場させてみるのも一興だろう。
逆に、徹底した訓練により右利きと左利きの構えを両方使いこなすことができるパターンもありだ。
漫画だと、冨士宏氏の「ワルキューレの降誕」のドゥンケルが、目まぐるしく左右に斧槍を持ちかえて戦っている。逆に、初見殺しでここぞという時に左利きになる、なんて描写も使えそう。
一方、右利きにも不利な点、というか位置がある。隊列の右端だ。
これもすぐ分かるだろう。左手に盾を持っているのだから、そちらからの攻撃は防ぎやすい。だが右端は、防御の薄い右半身を敵の攻撃に晒すため危険度が増す。
ゆえに、古代の軍隊では右翼に精鋭を配置したという。逆に中央は、弱兵や士気の低い兵(寝返り組、傭兵など)が多かったとか。左右の部隊で囲み逃亡を防ぐためである。
こういったことを頭に入れておくと、戦闘シーンに説得力が出るかもしれない。私も多少は参考にしており、別作品で下図のような描写をしてみた。
【キャラクター】
主人公 左の肩当てが盾の代わり
味方A 左利き。右手に盾
味方B 右手に武器、左手に盾
味方C 魔法使い。盾は持っていない
【配置図(進行方向は右)】
行軍時
主
B C
A
戦闘時
B
A C
主
図で分かるだろうか? 移動時は主人公とAが広範囲を警戒して外側に盾を向け、敵と遭遇したらCを除く三人が時計回りに移動、左からの攻撃をBの盾で受け、いちばん強い主人公が重要ポジションの最右翼に位置し、かつ右利きのBとも武器が当たりにくくするわけだ。また、魔法使いゆえ体力や敏捷性で劣るCだけ動かなくていいのも利点となる。
説得力のある描写とは言いがたいが、それでも歴史の本で古代の合戦などを調べなければ、この記述はできなかっただろう。
なので作者の皆様には、一見ファンタジーと関係なさそうな本でも読んでみることをオススメしたい。思わぬヒントが得られるかもしれませんよ。




