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4日目

兎の額に角をがやした生き物は追い詰められていた。

自身の脚力に物を言わせて一度は脅威から逃れられたものの、まだまだ脅威の射程圏内から逃れたとはいいがたかった。

相手もまた、自分と同等いや、それ以上の脚力を有している生き物である。

2匹はお互いの間合いを計りながら激しく見詰め合た。

この世界、動物は動物、魔物は魔物と棲み分けられてはいるが、食物連鎖は存在している。

追い詰められている生き物は、魔物の中で、そんな食物連鎖の底辺に属している。

まだ生まれたばかりで、上手に捕食者から隠れることができず今に至っているのだ。

先に動いたのは、捕食者のほうである。

鋭い爪を振り下ろし迫ってくる。

避けきれず体の左半分にその爪を受けると同時にその勢いのまま地面に叩きつけられた。

3本の爪に引っかかれた場所からドクドクと血が流れているのが解った。

なんとか立ち上がろうと最後の気力を振り絞ってもがいている事をあざ笑うかのように悠々とした動作で捕食者はその身に左足をかけた。

地面に縫いとめられてなお捕食者から目を離せずにいる。

死を覚悟した。その時、自身が炎に包まれるのを感じた。

突然の炎に驚いた捕食者は離れていったが、それまでに痛めつけられていた体は全身を包んだ炎に耐えられはしなかった。

2本のナイフがせまってくるのが見えたが、どうすことも出来なかった。


「やったー」


彩加と薫はハイタッチを交わした。

初の大物(?)ゲットである。テンションも上がろうこと必死。


数日の観察の結果、この世界にも食物連鎖があることが解った。

また運のいいことに、このダンジョン前ではかなりの頻度でそれが繰り広げられていた。

まだまだ魔法スキルが低すぎて『トリー』しか仕留められなかった2人は、獲物の横取りを計ったのだ。

捕食される寸前の瀕死の生き物に彩加が『火炎』で止めを刺し、同時に薫がナイフを投げて獲物を回収するのだ。

トライすること数十回。

初の成功である。

因みに、薫の『水球』で止めを、彩加が回収する役回りもあったのだが、『水球』では捕食側の生き物を怯ませることが出来ず、折角止めを刺したのにそのまま持ち去られてしまったのだ。

タイミングが合わなかったり、ナイフがうまく刺さらず回収できなかったり、回収の途中で立ち直った捕食者に獲物を奪い返されたり、かなりの苦労のもとやっと手に入った一匹である。

たとえ兎程の大きさでも大物に違いない。




「『一角兎』だそうだ。Lvは8だな。」


鑑定で確認をとりつつ薫は早速解体に移る。

Lvが高いのか火に対する耐性が強いのか、『火炎』仕留めたにもかかわらず毛皮にほとんど焦げがないのは嬉しい限りだ。


「やった。私の種族レベルもLv5にあがったよ。」


彩加は無邪気に笑いながら薫に向かってピースサインを見せる。

経験値は戦闘時における自分の貢献度で入ってくるので、獲物の横取りでは殆ど経験値は入ってこない。

しかし、そこは最後の一撃だけだったとはいえ格上の獲物を仕留めたのだ。それなりの経験値が入ってこないわけがない。


「彩加、魔石っていうらしいんだが、何だ?」


解体を終えた薫は、本来は心臓の場所あたるところから出てきた石を鑑定して彩加に手渡した。


「魔石は魔物の証拠。魔石があるのが魔物、ないのが動物。魔石は冒険者ギルドが買い取ってくれるらしいよ。」


彩加は小石ほどの大きさの赤い石を受け取ると、ダンジョンの入り口で光にかざして見入っていた。

いつの時代でも何歳でも女という生き物は光物が好きだと実感させられる一幕である。


例のごとく例によって内臓を取り出して、血抜きを終わらせたら『一角兎』の解体である。

もちろん薫は自身の為に血抜きは念入りにだ。

血抜きした血は『吸血』行為の代用品となることが分かったからだ。

食べる時の生臭さの観点からというより、娘といえども首筋に歯をあてて血を吸うわけにもいかないという父としてのプライド(?)から、血抜きは疎かに出来ない作業である。

この父娘、考えていることは同じである。

いや、わざわざ首筋から直に血をすすらなくとも、チョット傷をつけてコップに入れてもらえよという

突っ込みを誰かしてやれよ。


今度の獲物は『トリー』と違い毛皮があった。

足首からナイフを使いながら丁寧に毛を剥いでいく。

さすがの薫も初めての作業に手こずっている様子が伺い見れる。

それほど大きくないといっても、かなりの時間と体力を使って解体することになった。


「なにそれ・・・」


だいぶ解体にも慣れてきた彩加だが、今度の薫の行動には顔を引きつらせている。

薫は、皮から残った脂と肉を削ぎ落としきれいにした後、すり潰した脳と少量の水を煮立てたものをすりこんでいたのだ。

脳をすり潰すとか・・・彩加の顔が引きつっている。


「皮をなめしておかないと、後々腐ったりするからな。異臭のする毛皮で寝たくないだろ。」


彩加は大いに納得して薫の作業を促すこととなった。

ただ、後は4つ折にして放置し数時間後に洗って『生活魔法・乾』で乾かすだけであったが。


たいして大きくもなく、3本の大きな切れ目が斜めにはいった毛皮であったが、毛はフカフカで彩加のお気に入りとなった一品となった。

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