1日目(後)
先ほどから、人が1人やっと通れるほどの穴からわずかな光が差し込んでいる。
どうやらあれがダンジョンの入り口のようだ。
説明の通りだと、あそこが10日かけてだんだんと広がっていくのだろう。
相変わらず水晶だけが浮いている寒々しい石造りの部屋の床に鞄・ナイフ(耐久値100)・パン(耐久値30日)×30・生命回復薬Lv1×10・魔力回復薬Lv1×10・体力回復薬Lv1×10・1500Gが2セット並んでいる。
2人が所持品と装備品の確認をしているのだ。
装備品は、布の服・布のズボン・布の靴。耐久値は無限である。
気を取り直した彩加と平常運転の薫がそれぞれの持ち物の確認をおこなった結果である。
自分の所有品はレベル・品質はわからないながらも固有名称と効果・耐久値がわかるようになっているので間違うことはない。
一応、薫の『鑑定』スキル上げの為に鑑定はしたものの『鑑定』スキルの必要性のなさを彩加に再度痛感させただけであった。
いつ役立つ『鑑定』スキル。
因みに『鑑定』スキルを使うと半透明の盤のようなものが出現し、固有名称と効果・耐久値・Lv・品質などを記してくれる。
彩加が警戒しながら上半身を洞穴からだして、取れるだけの植物をとり、薫が鑑定し、仕分けしていく。
とりあえず、死に戻りを警戒し、安全に出来ることから始めた二人である。
「どう?」
「あまり、役に立ちそうなものはないな。」
休憩を挟みながら1時間ほどで採取したもは、雑草×30、タンポポ×12、薬草Lv1×2、薬草Lv?×1、 毒消し草Lv?×1、毒草Lv1×3、毒草Lv2×4、毒草Lv?×3、ツタx2、???×2、???×1、???×1、となんともいいがたい結果である。
???もLv?は恐らく鑑定のレベルが低いからであろう。
この『冀望~創生への序章~』、地球の何百億年か後の時代という設定の為、地球の動植物がなにげに多く存在しているが、
「雑草ってなに。手抜き?」
「それを言うなら薬草がLv表示のほうが手抜きじゃないのか?」
と言う様な事もある。
運営も名前を考えるのは疲れるのだ。
また、ただの景色の一部にまで無駄にこだわってメモリーを消費してられるか!という側面もある。
同じ草なのにLvが違っていることに途中で気づいて全て鑑定する羽目になった薫は少々うんざりぎみである。
もう少し上位の薬草系になれば固有名詞もつくのだが、今は鑑定レベルが低い為、軒並み???表示であることは、この段階で2人のしるところではなかった。
残念ながら、鞄に入れれば一発で名称は判ってしまうのだが、それには彩加もあえてスルーである。触れて欲しくない事柄は誰にでもあるというこということだ。
また、表示方法は「名前 毒草 レベル Lv1 状態 毒 品質 E」となるのだが、「毒草」である以上毒を持っているのは一般的ではないのかと薫を悩むことになるのも別の話。
「まっ、そういう仕様っことで割り切るしかないな。それより、魔力が増えてるようなんだがなんでだ?」
薫は鑑定結果より、鑑定の出来る回数が増えていったことの方が気になるようだ。
あたりまえだ。何度も言うようだが鑑定せずとも品名は判るのだから鑑定結果など些細な事柄だ。
この『冀望~創生への序章~』、めんどうなことに、自分の視界右上に生命バー・魔力バー・体力バー・空腹バー・睡眠バーはあるが、数値が減るごとに横棒が短くなっていくだけで、総量・数値は表示されない。
横棒の長さは固定なので、各ゲージの減少する割合で総量が増えた事を推測するしかないのだ。
雑草やタンポポはLv表示がなかったので、1つ鑑定して後は自動的に分けたのだが、Lv表示のある薬草系を一つづつ鑑定していった結果、薫の鑑定スキルがアップしたのと同時に魔力も微妙に上昇したのだろうと推測するしかない。
「スキルレベルが増えたからじゃないかな。このゲーム、レベルアップ通知とかないんだよね。確認の方法ないのかな?」
彩加の言う通り、他のVRMMOに限らず多くのゲームではレベルが上がれば通知があるのだが、この『冀望~創生への序章~』ではそれがない。
運営は『(昔日の)リアルの追求』をコンセプトとして『冀望~創生への序章~』を製作しており、本当は視界右上にある各種バーも泣く泣く表示させたのである。
しかし、プレーヤーからすれば不親切設計甚だしい仕様であるのは間違いない。
「とりあえず、薬草は乾燥させて煮出せば薬草茶にでもなるのかな?」
「そうじゃない?毒消し草もそんな感じでいいんじゃない。」
鑑定結果の 薬草Lv1 効能:生命少回復 を参考に思考する薫をよそに、彩加は薬草には興味なしとばかりに、穴から外の観察を続けている。
早く外に出て冒険を始めたいと、背中が語っている。
「私、ダンジョン行商人のパルムと申します。以後、お見知りおきを。」
今持っている唯一の武器であるナイフを構えて彩加を背中にかばい警戒態勢を崩さない薫に対して、突然現れた男は優雅に一礼した。
「このダンジョンの説明と担当の初めての挨拶を兼ねて参りました。
今回は挨拶ですので無料ですが、次回からは1000Gかかりますのであしからず。」
相変わらず、警戒態勢をとかない薫を気にした風もなく再度一礼して、名刺のようなものまで差し出す始末である。
「・・・」
数十秒の沈黙の後、彩加は薫に制止する暇も与えずパルムの差し出した名刺もどきを手に取った。
神速スキルは、いい仕事をしている。
こういった向こう見ずなところはかや乃の娘である。
「その名刺に、魔力を注いでいただければ、参らせていただきます。あっ、料金はその時徴収させて頂きますのでよろしくお願いいたします。もし、お手持ちがないようでしたら、その時にお売りいただいたものの中から差し引かせて頂きますので遠慮なく呼び出していただいて結構です。」
「はい!代金が足りなければどうなるんですか?」
先生に手を挙げて質問する生徒のような彩加にパルムはうっすら笑うことを答えとした。
その目は決して笑っておらず、薄ら寒いものを感じさせるものであった。
代金不足の場合はとんでもないことが待っていそうである。
「では、まずダンジョンの説明からさせていただきます。
ダンジョンは私どもがこの水晶を運びこんで作ったものです。
この水晶はダンジョンの核となります。」
いや~苦労しましたよ~と言う話はおいといて、要約すると、
①ダンジョンポイントでダンジョンを形成する。
主なポイント消費の項目は、部屋の増減、罠の作成、ダンジョンモンスターの召還等。
②ダンジョンポイントは、ダンジョンに進入した冒険者や魔物を戦闘不能に陥った場合、その経験値を水晶が吸収してポイントに還元されることによって取得される。
③ダンジョンモンスターは、水晶のダンジョンポイント使用、ダンジョン内で魔物が死ぬ、ダンジョンマスターのテイムの3パターンで取得可能。
④ダンジョンモンスターはダンジョン内から出れない。また、ダンジョンモンスターは死ぬと復活できない。
⑤ダンジョン内で戦闘不能になると、
・冒険者は経験値と所持品の一部消失後、ダンジョンの入り口で復活する。
・魔物は、ダンジョンモンスターとして復活する。ただし、ダンジョンモンスターとなった後の復活はない。
・ダンジョンマスターは復活ポイントを設定した街で復活となる。今の場合、自分の種族の首都だ。
⑥ダンジョンポイントは、ダンジョンマスターのポイントと共有できる。
つまり、ダンジョンポイントでダンジョンマスターのスキル取得時のポイントとして使用できる。逆にダンジョンマスターのポイントをダンジョンを広げることに使用することも可能である。ただし、そのダンジョンのダンジョンマスターの人数によって使えるスキルポイントの上限は決まっている。
薫たちの場合、二人なので、ダンジョンポイントは溜まっているポイントの1/3までしか各人に振り分けられない。
等々となる。
また細かいところでは、「落とした所持物は、拾った者勝ち。つまり、ダンジョンマスターが拾えば、ダンジョン収入に。冒険者は、仲間が拾ってくれたり、根性で死んだところまで戻って回収すれば戻ってくる。」といったルールなどがあるようだ。
そしてもっとも重要なのが、「水晶を奪われると、それまでにダンジョンに費やしたポイントと水晶に残っているポイントはすべて奪った者のポイントになる。」ということだ。因みに、水晶を持ち出すと、ダンジョンは崩壊する。
要約しても長い。
「ダンジョンの目的は、・・・
そもそも、皆様にこの世界に来た頂いたのは、魔物の王に対抗する為でございます。長い戦争と魔物の王による侵略でどの種族も数を減らしています。そして何より、勇敢な者から死んでいってしまったのです。」
そこでパルムは悲しそうな表情を作る小芝居をはさんできた。
「皆様には、各種族の人口の底上げと、出来れば魔物と魔物の王の討伐を期待しております。」
どこから取り出したのか湯気の立つ飲み物で喉を潤すパルム。
「
そこで、ダンジョンの有用性ですが、各冒険者様のレベルアップのお手伝いをしていただきたい。
確かに、水晶を奪われましたら、これまでの蓄積されましたポイントを失うことになります。しかし、それでもなおダンジョン運営には大きなアドバンテージがあります。ダンジョンポイントをスキルポイントに変換できることによる自分の強化などがそうです。自分への変換されたポイントは、水晶を奪われてもなくなりません。ダンジョンが大きくなり、多くの冒険者を呼び寄せ、戦闘不能にすれば、多くのダンジョンポイントが溜まります。よりダンジョンマスター様が成長されるのです!」
こぶしをにぎって力説するパルム。
「ようするに、水晶を奪われなければ私達の、奪われたら奪った者のレベルが上がるので、召還された者達だけで勝手に頑張れということかな?」
少しの沈黙後、薫はズバリ切り込む。
「そうとも言います。いや、実際はこの世界の冒険者もダンジョンに攻略に来ることでしょう。しかし、はっきり申し上げて、あまりレベルの高い者は多くありません。先ほども申し上げたように、この世界の者は先の長い戦いで疲弊しております。皆様を召還出来たことだけでも奇跡にちかいのです。後は、少々のお手伝いをさせて頂くだけで精一杯なのです。」
苦笑気味に真理を突く薫に悪びれた様子も見せずに答えるパルム。
「では、ご理解いただけたことと思いますので、ご入用な物はございませんか。と、言いましても、持って来れる物には限度がありますので、今回はこれだけになります。」
毎回品物は違ってきますよと付け加えながらパルムは次々と物を取り出していく。
どうゆう仕組みか、袋の口の大きさや容積を無視したものが続々と取り出されてくるのだか、それはゲーム世界と割り切っていくしかないようだ。
「寝袋欲しいけど無理だな。」
「だね。寝袋あったら断然回復量が早くなるのに。」
2人で購入したものは結局、
レイピアLv1(600G)×2・火炎の魔法書(100ページ)(300G)・水球の魔法書(100ページ)(300G)・大きななべ(150G)・片手なべ(中)(100G)・片手なべ(小)(50G)・フライパン(100G)・食器(丸皿×6・お椀×6・マグカップ×6)(50G)・ボールセット(ざる(大・中・小)各1・ボール(大・中・小)各1)(100G)・斧(400G)・砥石(50G)・瓶(100G)・調味料セット(塩・砂糖・胡椒各50g)(50G)・小麦粉(500g)(50G)
である。
調理器具のどれかを諦めれば寝袋(300G)×2は購入できないこともないのだが、現状、室内にいることから雨露は凌げる。
快適な睡眠より美味しい食事が出来るほうを選択した結果、泣く泣く寝袋は次回に持ち越しとなった。
パルムを呼ぶお金が無いので次回が無いのはココだけの話であるが・・・。
他に、火炎の呪文・水球の呪文が魔法書を買うとサービスで付けてもらえたことは幸運だった。
火炎の呪文・水球の呪文は魔方陣を記したその名の通り呪文が記されたもので、火炎の魔法書・水球の魔法書は魔方陣を綴った本である。
いくらスキルを所持していても正しい呪文詠唱と魔方陣がなければ魔法は発動しない。
~の呪文は購入やたまにモンスターから手に入れることが出来るが、それぞれ詠唱の言い回しが違ったりする。
たとえば「火炎」の場合では、「炎よ集え そして駆けろ 火炎 」の場合は炎が地を這い攻撃対象に向かう、「炎よ集え 火炎 」なら炎が任意の場所に出現するというように、詠唱が違えば魔法効果も違うものになる。
同じ『火炎』の呪文をつなぎ合わせてオリジナルの呪文を作ることも可能である。
さらに、火系魔法だけでも『火炎』、『火球』、『炎球』等々と初級だけでも数十種類になるというマニア泣かせの自由度を誇っている。
「あと、水晶に手をかざしていただきますと、ダンジョンマスター様のステータスとログがご覧いただけます。
もちろん本来の水晶の使い方はダンジョンの運営ですが。
では、またのご利用お待ちしております。」
言うだけ言って、優雅に頭を下げたかっこうのままパルムは来た時同様忽然と姿を消していった。
疑問を挟む余地なく一方的にまくし立てられた感はあるが、かなり有益な情報を残して行ってくれたことと、ある程度の日常品が手に入ったことは感謝に値する。
自分達のステータスを確認した後、さっそく彩加は『火炎』スキルの試運転と、植物の採取の続きである。
薫は、またもや片っ端から鑑定である。
といっても、魔力残量が2割をきると、集中力をなくすのか、成功率が途端にさがってくるので一度に鑑定できるのは多くても10回程だ。
この『冀望~創生への序章~』、かなりリアルを求めるあまり、法規制ぎりぎりまで各感覚が現実世界に近いものに設定されている。
魔力が3割をきると軽い貧血のような感覚に襲われ、0になると重度の貧血をおこした感じになる。
体力も同様。空になると立っていられないほどの倦怠感に襲われる。
しかも魔力は睡眠でしか回復しない厄介仕様である。
さらに魔力が0になったにもかかわらず魔力を使うと、生命力が削られていく。
これは体力においても同じことがいえる。体力の場合、座って休憩すれば回復するので魔力よりは楽ではあるが、どちらもどちらといったところである。
また、生命力の回復は睡眠だけでなく食事やその他様々な要因が必要となるので、生命力を削られるのは睡眠だけで回復する魔力よりさらにやっかいである。
この仕様により薫は数回鑑定を行なうと10分程の睡眠をとることを余儀なくされた。
『火炎』スキルの試運転をしている彩加も同じ状況だが、こちらは採取と観察を平行しているので、体力が続くまで降り立ったばかりのこの世界を楽しんでいる。
因みに、睡眠・空腹値どちらかが0になった場合は体力が削られていく上に、ステータスが軒並み低下する仕様である。
外の魔物らしいものはどうやらかなりLvが高いらしく、『火炎』や『水球』の1回や2回ではなんのダメージもおってなさそうなのだ。
この『冀望~創生への序章~』、なんども言うようにリアルを追求するあまり(?)、マーカーも存在せず、動物と魔物の区別が付かない。
しかし問題はそんなことではない。
魔物のステータスバーが見えない仕様になっていることが最重要案件なのだ。
どれ位のダメージを与えたのか、あとどれぐらいのダメージを与えれば倒せるのか。
数値的に確認する方法がないのだ。
では、どうすればよいのか?
ひたすら経験を積みデータをそろえていくしかないのだ。
といっても、自分の種族・スキルのレベルが上がれば攻撃力も上がるので、それも考慮しなければいけない。
どこまで行ってもイタチゴッコである。
ただ、ダメージがあればそれなりに傷がついたり、痛そうなそぶりをみせるのことが救いだった。
現に、鳥は『火炎』1回でほぼ丸こげになり死んでいないながらも飛べなくなって地面でのたうちまわっていたところを、2回目の『火炎』でトドメをさすことが出来た。
因みにログで確認したところ、
「???に『炎よ集え 火炎』を唱えた。
???に『炎よ集え 火炎』を唱えた。」
と表示されたのみで、ダメージ量はわからないままであった。
もちろん、魔物だけでなく自分自身も攻撃されれば欠損こそ生じることこそないが法律で規定されている上限一杯の痛みを感じるように設定されている。
戦闘不能の場合、かなりの衝撃に見舞われることになる。
2人は、そういった事情から当分の間、基本行動は、ダンジョン入口からの魔法攻撃のみに決定した。
「私の二刀流無双計画が・・・」
彩加の嘆きが洞窟内に木霊すこととなった。




