1日目(前)
8畳ほどの石造りの空間の真ん中に空中に浮いた水晶のような物があるだけの空間。
「でっ、どうするんだ?」
彩加と2人だけ。
詳しい説明もされないまま放り出された澤木がつぶやく。
「ステータスとか見れないんだよね。」
「普通、見れるものなのか?」
ゲームなどしない澤木には普通がどういったものかも判断しかねた。
ここはゲーム慣れしている彩加に頼るのが妥当であろうと澤木は考える。
「お父さん、名前どうした?私は彩加のまま。」
「私は薫だ。あまり本名を名乗るものでもないが、プレイ時間が長いなら本名に近いほうがいいとも聞いたからな。どうせかや乃が『かおる』呼びするなら、漢字だけ変えて薫にするほうがいいかと思ってな。」
澤木の本名は、澤木香である。しかし、かや乃は呼びにくという理由で『かおる』と呼んでいる。
「これだけ説明もチュートリアルもないゲームって少ないんだけどな~。
攻略サイトは一応一通り見たけど・・・。
種族とスキル構成はどうしたの?
因みに私は、獣人(狼人)で、双剣スキル(初級)・連撃スキル(初級)・火炎スキル(初級)・戦闘スキル(初級)・神速スキル(初級)。
速さと手数で攻めるタイプ。足りない火力は魔法スキルで補う予定。
種族スキルは『統率』ね。」
種族スキルとは、種族特有のスキルでその種族しか持ち得ないスキルで、強力だったり、有用だったりすることが多い。
一般的なスキルは、魔人やエルフなどが魔法系スキルを得意としたり、獣人が戦闘系スキルを得意とするように各種族で得意不得意はあるものの誰もが取得できるモノである。
初期に10Pのスキルポイントがあり、彩加は取得に必要スキルポイントが2Pのものを5つ選択していた。
これは、必要スキルポイントのポイント数によって始めの所有スキル数は違ってくる仕組みである。
彩加の取得している双剣スキル(初級)は2本剣を持てば攻撃力が上昇される常時発動型スキル。
反対に連撃スキル(初級)は技の一種で連続攻撃をおこなう任意発動型スキルである。
戦闘は戦闘状態になったときに興奮状態となりパラメーターが上昇、神速は速さ補正が掛かるスキルといったものになっている。
獣人(狼人)の種族スキル『統率』は、パーティーメンバーのステータスにプラス補正がかかるスキルで、かなり有益とされている。(攻略サイト調べ)
「私の種族は魔人(吸血鬼)で種族スキルは『吸血』。
スキルは鑑定スキル(初級)・生活魔法スキル・魅了スキル(初級)・水球スキル(初級)・補助魔法/強化スキル(初級)だ。」
薫もどうやら5つのスキルを取得したようだ。
お互い、自分のスキルから公表することから始めたのだが、彩加は唖然とするしかあかった。
「なんで、生活魔法スキル?魅了スキルとか鑑定スキルとか意味不明。なんで攻撃が魔法系の水球スキル(初級)しかないの。強化スキルって・・・」
一瞬眩暈を覚えた彩加である。
「とりあえず、戦闘は実際自分の行動次第で習得出来るって話だったから、魔法スキルやステータス上昇させるスキルなんかの習得方法がわかりずらいものを始めに取っとくほうがいいかと思ってな。
生活魔法と鑑定は、街始まりじゃないから、生活するうえで必要になってくるかと思ってな。」
薫の言っていることは解る。
ある意味正論である。
しかし、攻略サイトで情報を集めていた彩加からすればクズスキルと言っていいようなものばかりなのだ。
生活魔法は取得必要スキルポイントは2ポイントと他の大多数の初級スキルと同じポイントで取得出来るが、他の魔法系スキルがスキル=1種類の技(魔法)に対して、生活魔法だけは3つの種類が使える。
これだけ聞けばお得感満載だが、そうは問屋がおろさない。
他のスキルは初級・中級・上級・神業と成長していくのに対して生活魔法スキルは一定で、レベル上昇はない。
たとえば彩加の取得した『火炎』は炎をだす魔法である。レベルが上がれば剣に纏わせて剣の攻撃力をアップさせることも可能というスキルだ。
それに対して生活魔法スキルは、バケツ1杯程度の水を出す『生活魔法・水』、小指の先程の火を10秒だす『生活魔法・火』、物を乾燥させる『生活魔法・乾』というものになる。
それも、使えば使うほど威力や維持時間が長くなる他のスキルに比べて、初めから効果は変わらない。という、がっかり魔法なのだ。
水や火が普通に確保できる街などでは、まず必要になることのないスキルだ。
ただ、今回の場合ダンジョンの出現ポイントがランダム設定で周りの魔物Lvが不明の為、川まで水を汲みにく危険を考えれば必要と言えば必要である。
ただし、コストパフォーマンスが悪いことに目をつぶれば、薫の持つ『水球』で『生活魔法・水』の、彩加の持つ『火炎』で『生活魔法・火』の、風流スキルで『生活魔法・乾』の代用が十分可能だったりする。
唯一、評価するとすれば、この生活魔法、他の魔法系スキルと違い魔方陣を必要としないことだろう。
魔方陣の入手に結構苦労させられることになるのは攻略サイトによって広く知られている。
その魔法系のスキルの苦労性と発動条件の厳しさは、より痛みの影響が大きくでる前衛との人口バランスを保つ為ではないかとの憶測も飛び交っている。
なんにしても、鑑定スキルも浄化スキルも強化スキルもだいたい似たり寄ったりでる。
あっても困らないが特に必要でもない。というか使い道が微妙だったりコストパフォーマンスを考えたら使わないほうがマシといった種類のスキルであると攻略サイトでささやかれている。
いや、最近では話題にも載せてもらえないスキルだ。
そもそも、魅了スキルにいたればβテストの時にレベルの上昇がほとんど報告されておらず、スキルポイント泥棒と言われたスキルである。
「そもそも、なんで吸血鬼!」
吸血鬼は防御力がやや低いのを除けば比較的他の種族より高いステータスを持つ。
しかし、日の光を浴びれば全パラメーターが80%になる種族でもある。
逆に日光を浴びなければ全パラメーターが120%になのだから、光が入らないダンジョンではかなり有利な種族と言えるかもしれない・・・種族スキル『吸血』に目をつぶれば。
「『吸血』って血飲まないと駄目なんだよ!
血を飲んだら確かにステータスの一部は上昇するけど、欠血になればバッドステータスがつくどころか動けなくなるらしいんだよ。
そもそもどうやって血って手に入れるのよ・・・私、私からか・・・」
彩加の記憶によれば、攻略サイトのアイテム一覧に’血’はなかったはずだ。
本当の吸血鬼よろしく仲間のプレイヤーから血を分けてもらうことになるので、地雷種族とまではいわないが高ステータスにもかかわらず敬遠される種族である。
自分の首筋に牙をあてられ、血がすすられることを想像してうつろな目になる彩加。
そもそもの根本から彩加は嘆くしかなかった。
「ママならともかく、薫ちゃんが攻略サイト見てないとは思わなかった。」
彩加のはまさにorz状態である。
彩加の嘆きも当然で、薫は基本下調べをきちんとして綿密に計画を立てるタイプである。
これがかや乃の場合、野生の勘のみで突っ走るので彩加としても、初めからそのつもりで挑むので諦めもつく。
因みに、かや乃のフォロー役の裕也は、今回、小説の締め切りがで切羽詰っており、攻略サイトを見る暇がなかった為、(主に裕也が)苦労するのはまた別の話。
この時、ゲームなのだからお父さんより名前呼びの方が良いという薫の要望に彩加は『薫ちゃん』と呼ぶことに決めた。
その際、
「なんで吸血鬼?」
「そこそこ初期のステータスが高くて、可もなく付可もないかんじだったから。」
「髪と目の色は」
「かや乃の指定。」
「髪型も?」
「そう。ロングで銀髪のリクエストだったけど、さすがに微妙だったんで、シルバーグレーにした。」
「銀とシルバーグレーじゃあんまり変わらないような気がするけど?」
と言った会話がなされたとかなされなかったとか・・・




