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5ヶ月と1日目

月の光に反射された光が横に一筋の線を描く。

短剣が横に薙かれた。

退治していた相手は一瞬ひるんで数歩交代する。


緑のウロコに全身覆われた魔物だった。

爬虫類特有の目を持ち、太い尻尾で体のバランスを取りながら後ろ足2本で立っている。

2速歩行のトカゲだ。

生意気にも右手には剣、左手には小さな盾を装備している。


対する男は黒いローブで全身を包み、油断無く両手に持った短剣胸の前で交差し構えている。

薫だ。

今晩の薫も1人だった。


一拍の間の後、魔物『とっかげ』はその剣を大きく振り下ろした。

それを薫が素早く、2本の短剣を交差して受け止める。

と同時に跳ね返した。

一瞬反る形になってしまった『とっかげ』の左首筋に薫の足の甲が襲い掛かる。

薫は『とっかげ』の剣を跳ね返した後、素早く右足で大きな蹴りを繰り出していたのだ。

薫の蹴りの勢いを受けて、『とっかげ』は右半身から地面に叩きつけられた。


1,2度地面の上をバウンドし、立ち上がろうとしたところに、薫の短剣が襲いくる。


首筋に短剣を突き刺す。


2、3ど痙攣した後、『とっかげ』の目から光が失われた。

起き上がりかけた首は弛緩し地面に横たわった。


薫は息を整えマントの埃をはらう。


『シュトー』より半日の草原。

今の段階で中堅の冒険者パーティーが狩りをするのに最適な場所である。

しかし、薫にとっては1人で十分であった。

初期に高レベル帯で生活していた薫のレベルは、『シュトー』にいるプレイヤーの誰よりも高い。


薫はトドメヲ刺した短剣で、『とっかげ』の皮を剥ぎだした。


本日受けたクエストは『とっかげ』の皮の採取である。

『とっかげ』の皮は、盾や防具にと様々な用途がある為、需要は多い。

1枚からでもクエストが受けれるのも多く受けられている要因である。


皮を剥ぎ取ると、街で購入した『とっかげ』の皮のなめしレシピで『なめし』スキルを発動する。

薫の場合、『解体』スキルなのでなめしまで自動終わらせることが出来ない。


もちろん、薫はログから『写筆』スキルを使い剥ぎ取り方法となめし方法のレシピを作ることも忘れていない。

レシピを作らなければ、次回は自力で剥ぎ取りとからなめしまでをしなければならなくなる。


多くのプレイヤーの場合、未だこの『写筆』スキルが未取得なのでレシピを創作できない。

しかし薫は、この『写筆』スキルのお蔭で『解体』も『なめし』スキルも赤字をださなく発動できる。

どちらもマイナースキル過ぎて所持しているプレイヤーも少ないのは別の話。

薫の場合、さらに、『紙作成』と『インク作成』スキルまで所持しているので、紙代とインク代も浮いてくる。

そして、この『紙作成』スキルで作られる紙の品質がいいからなのか、レシピの品質も良いものが出来ることが多い。

そうなれば、必然、解体したもの、なめした皮の品質も良くなり買取時にプラス査定が働いてくれる。

いい事ずくめである。


しかし、なぜ薫が『紙作成』や『インク作成』スキルなどマイナースキルを取得したかと言えば、ただ単にスキルポイントが余っていたからに他ならない。

ダンジョンで大量のダンジョンモンスターを獲得する際に、ダンジョンポイントを大量に取得したのだ。その一部をスキルポイントに振り替えた為、スキルポイントが余っているのだ。

現段階で、薫の所持する攻撃系のスキルは『水球』と『短剣』、『格闘』である。

そして、この3つがあれば、たいてい苦労せずに狩れてしまうので、それ以上の攻撃系スキルを必要としなかった薫は『速移』という移動速度を速めてくれるスキル以外は生産系スキルの取得にまわした。


おもむろに尻尾を切り取って大切そうに魔法の鞄に入れた。

もちろん、『とっかげ』が装備していた剣と盾も魔法の鞄に入れるが、こちらはおざなりである。

この魔法の鞄は、簡単なクエストを受ければ『空間拡張』スキルで初期の鞄を50Kgまで入れれる様にしてくれたものである。


これで、1件目のクエストは完了である。


何気に、薫の中ではクエスト完了よりも『とっかげ』の尻尾の採取のほうに重きが置かれているように見えるのは、突っ込んではいけない事柄である。

『聖なる乙男』の連中ならそんな無駄な労力は使わない。


10日程前に、彩加も同じクエストを受けていた。

その時にドロップした『とっかげ』の尻尾を持ち帰り薫に調理を頼んだのだ。

それが、事の外美味しかった。

鳥のような味で、根元の方はゼラチン質が多く、先の方は脂がしっかりのったものであった。

焼き鳥から鳥のたたき、鳥ハム、鳥の卵とじ(米がないので親子丼は諦めざるおえない)。

色々なメニューが薫の脳裏を巡った。

そして、なんといっても鳥のから揚げ。

『聖なる乙男』の男陣の熱い要望に答えてやりたい。

もちろん女性陣にはコラーゲンたっぷりの鍋を用意する予定ではある。

『シュトー』には、まだ植物油が無かった為、薫も揚げ物まで手が回っていなかった。

しかし、美味しい鶏肉もどきが手に入ったのならと、昨日までに油の製油に取り掛かっていたのだ。

魔法の鞄を手に入れて、街の料理クエストがひと段落した頃、ダンジョン近くの森に帰り、彩加と2人採取できるだけの『モロッコの粒』を取ってきていた。

そこで、大量にあった『モロッコの粒』を原料に油を作ろうとした。

しかし、抽出する為の薬品が手に入らなかったので、ひたすら搾り出すことになった。

それにかなりの時間を取られ、今になってしまったのだ。

『モロッコの粒』の根元のところにある白い部分-胚芽-を取り出して絞ったのだが、残った部分は、もちろん、とうもろこし粉にして『新食材登録』クエストとして消化しておいた。

とうもろこし粉を試しに紙の製造時に混ぜてみると、以前より丈夫な紙が出来たことは儲けものだった。

もちろん薫は、ご丁寧にも『ジャガジャガ』をすりおろして水につけ、沈殿したものを取り出し乾燥させて片栗粉を作るのも忘れていなかった。


帰ったらお腹を空かせた男どもが、小鳥が親鳥から餌を貰うがごとく並んで口を開けて待っているのが目に浮かぶ。


遠くで『とっかげ』が2匹、警戒しながら歩いているのが見える。

薫は、次のターゲットに向けて走り出した。


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