4ヶ月と10日目
もっち吉の目が、静かに差し出されたお好み焼きと薫の顔を忙しなく往復する。
宿屋『止り木』を定宿にして早2ヶ月。
その間、遺跡攻略やクエストで離れたこともあったが、決して短くない時間をこの『止り木』で薫と彩加、2人と顔を合わせてきた。
その短くない時間の中で、初めて薫から彩加より優先されたのだ。
もっち吉には戸惑い以外うかばない。
「魔法スキルのアドバイスをお願いしようと思いまして」
を他のメンバーに配り終えて、薫がネタばらしをする。
攻撃系魔法スキルを主にする、もっち吉の好物を主体に、パオパオには紅茶のお酒、天音にはビールを提供する薫。
ここら辺の抜かりは決してない、気配りの完璧な人間である。
「薫さん、今は『水球』だけですよね」
「ええ。今のところは。それで不便は感じないのですが・・・今後、合流する人間が、恐らく前衛の力押しする剣士と攻撃魔法全般を覚えている者になると思うんです。」
「おそらくって、ログインする前に打ち合わせをしたんじゃないんですか?」
「何もしてませんね。彩加とすらしてませんから。」
「えっ、じゃあ、何でわかるんですか?」
「性格的に選びそうなものはだいたいわかります。」
薫の観察眼を良く知る一同は納得である。
「ですから、回復系か補助魔法系を覚えるほうがいいとは考えてるんですが」
そのアドバイスをいただけないでしょうか、と薫。
「そうですね。まず、基本から」
師匠の場合、そこから怪しそうですもんね。と続けるアポ騎士。
「まず、属性は5つ。火、風、水、土、無です。
火は『火炎』や『炎爆』。水は薫さんの持ってる『水球』や氷系の『氷塊』など。土は『土塊』、風は『風流』などなどです。無属性は、回避系のスキルや、使う人はいないですけど『生活魔法』などですね」
「そして、この属性が重要になります。属性には相性があって、火、風、水、土が右回りで円状に並んでいるとすれば、対角にある属性と相性が悪く、両隣、特に左隣に並ぶ属性と相性が良くなります。火の場合だと風と相性が最もよく良く、次いで土、水とは最悪です」
「そして、この相性が良い属性同士のスキルはレベルが上がりやすく、また、使用時の効果も高くなります。
つまり、薫さんの場合、今、水属性を使われてるので、水属性、次いで土属性の魔法スキルがもっとも使い勝手が良くなります」
「回復系の魔法スキルは、効果的に水、風、土、火の順に高くなります。攻撃の場合、まったく逆です。なので、水属性の魔法スキルを取得されることをお勧めします。
補助魔法は、風、土、水、火の順が一般的だといわれていますが、種類によりけりですね。
結局、自分が主体で使う魔法スキルの属性に合わせるのが一番です」
「俺も聞きたいことあったんですが・・・無詠唱ってどうするんですか?」
「魔方陣と詠唱を一枚の絵として覚えたら楽ですよ。」
「難しそうですよね。」
「彩加も出来ますよ。」
「えっ?」
彩加は何時も詠唱している。
いつも弾むように詠唱をおこなっているのは、ここにいる全員の知るところである。
「できるけどしないんですよ。詠唱してポーズを取るのがかっこいいみたいです」
薫の影に隠れて誤解も多いが、学力的に決して彩加は出来ないということではない。彩加の場合、出来るけどしないだけである。
ここぞというときの集中力と記憶力は目を見張るものがあるぐらいだ。
彩加は、最高学府の合格者を毎年数十人と出している某有名進学校に通っており、さらに成績上位者の張り出し一覧に載るだけの成績は収めている。
ゲームとお洒落に明け暮れているのにこの成績は立派に誇れるものがあるのだが、比べる相手(薫とかや乃)が悪すぎて、いまいち自己評価が低いだけである。
そして、詠唱に関して言えば、一家言あるので無詠唱は行なっていない。
「かっこいいじゃん。薫ちゃんみたいに無詠唱だと、なんだかきまらないじゃん。」
「流石に恥ずかしいだろ。」
そもそも薫の無詠唱は、アラフォーにもなって、こんなこっぱずかしい詠唱出来るか的発想から試行錯誤した結果である。
まして彩加のように長々と詠唱した後、右手を前に突き出し、胸をそらしぎみにポーズをとるなど論外である。
あれは若さゆえ出来ることである。
そう思っている薫だが、じゃ、お前の格好はどうなんだとつっこまれれば、なぜそんなこといわれるのか思いもよらないであろう。
シルバーグレーの髪を後ろで一つにまとめた、端麗な顔立ち。
ハリウッド映画の撮影中に抜け出してきましたと言われてもおかしくないいでたちである。
どんなロールプレーだといわれそうだが、そもそもロールとはなんぞやと言ったところだ。
現に薫は、髪と目を変えたのみで自前なのだから、他の者達が色々と”もって”いるなど思いもしない。
職場では、秘書課のアラサー肉食系女子をはじめ、社長とのオフィスラブ的なウフフを妄想する腐女子まで色々な意味で一挙一足見逃しません的な視線にさらされ続けているのだ。
移動するたびに少々視線がついてくることなど今さらである。
天音の飲み物を、ビールからコーヒーに変える。
「何でですか?」
「飲みすぎです。また二日酔いになりますよ。」
「これぐらい大丈夫よ。」
「二日酔いしない酒量は、15×体重×飲み始めて翌朝までの時間÷(アルコール度数×0.8)です。
その計算で行くと、すでにオーバーしてます。
天音さんの体重と、アルコール度数は推測の域を出ませんが、これまでの天音さんの行動を鑑みても決して間違ってない計算だと思いますよ。」
「・・・」
薫は、天音の反論を理論的に封じにかかった。
彩加の心境が理解出来てしまった天音である。




