2ヶ月と8日目
岩陰に白い細長い棒の頭に小さな火をのせた魔物が見え隠れしている。
その姿は、まさにろうそく。ザ・ろうそくである。
「薫さん、ちょっと一緒にクエストうけてもらえませんか?『ロッロ』って言う魔物の装備アイテムの採取なんですけど、採取品は『ロッロ』の武器なんで楽ですし・・・」
とのお誘いを天音から受けた薫と、面白がった彩加は、3人で自分達のダンジョンからシュトーを挟んだ反対側の岩場に来ているのだ。
因みに装備品は、魔物を倒せばそのままその場に落ちる仕様になっており、『採取』によるドロップアイテムとは別物である。
「あれ、彩加ちゃん、もしかして火を見るの初めて?」
『ロッロ』の姿を確認した彩加が固まっているのに気づいた天音が彩加に声をかける。
彩加達の年代は、すべての火気類が廃止されており、火や炎を見ることなく育ってきた。
同時に火が熱いことや、使い方によって危険であることなどを知らない年代でもある。
実際、ダンジョンで焚き木を焚いた際、彩加は始め、遠巻きに眺めていた。
「彩加ちゃんぐらいの年代じゃ、火なんて見ることないもんね。」
「いえ、ダンジョンでは焚き木してましたから。・・・・キャンドルもありましたし・・・。」
「じゃ、慣れてるわね。『ロッロ』は頭の上の火を消せばOKよ。私と彩加ちゃんは、頭から出てる芯を切ればいいだけ。薫さんは、『水球』でお願いします。」
後半の彩加の台詞はあまりにも小さくて天音には聞こえなかったようで、天音は気にしたふうもなく、2人に指示をだす。
しかし、天音はろうそくなどよく知っているものだと、薫は内心感心していた。
ろうそくは数百年前に形状は残したものの、すべて電化したといわれる一品である。
さらにその後、形状すら変化していき、今は、言葉すら残っていない代物である。
そういった物は枚挙に富まないが、多くは贅沢品・装飾品といったなくても困らないものから姿を消していったようだ。
もしかしたら、天音の年齢は薫が思っていたより、さらに上なのかもしれない。
薫にしては珍しい読み違えではあるが、それはそれで楽しいと思える。
『ロッロ』本体から生えている小さな2本の手にはロッロのミニチュア版といったものが握られていた。
それを、振り回して攻撃してくるのだが、薫の『水球』の前には、何の用も成さなかった。
『水球』を一回、『ロッロ』本体の頭の上で発動すれば、たちまち『ロッロ』転がって動かなくなるのだ。
そもそも、『ロッロ』の小さい火など火を知っている人間からすれば大した脅威にはならない。
かすったぐらいでは火傷もしないことぐらい経験則で分かっている事柄だからだ。
この、『ロッロ』という魔物を怖がるのは、火を知らずに育った人間だけだ。
おそらく、40歳位までの人間だろう。
彩加が『連撃』スキルで剣戟を飛ばし芯を落とす。
天音は豪快に突っ込んで芯を断ち切る。
薫は『水球』を、『ロッロ』の頭の上に出現させるだけだ。
「けっこうおいしいクエストなんだけど、アポ騎士なんかは来たがらないのよ。火が怖いみたい。
もっち吉にいたれば水系の魔法持ってないしね。」
『ロッロ』が落とした2本の『ロッロの剣』を回収しながら天音は2人に改めてお礼を述べる。
大量、大量っと鼻歌交じりだ。
実際、殆どの労力を使わず倒せた割りに、『ロッロの剣』は1本200Gで買い取ってもらえるのだ。
割りにいいクエストだと言えよう。
「この、本体はどうするんですか?」
「それ?そのまま放っておいたら、そのうち火がついて復活するの。そしたら自分で『ロッロの剣』を作ってくれるから、また回収できるってわけ。以外にこのクエスト受けるプレイヤー少ないから、狙い目よ。」
こんなに小さな火が怖いかな?など笑いながら天音は『ロッロの剣』の火を消し鞄に収めていく。
この日、宿屋などで使用されていたろうそくは、手作りなどではなく、既成のドロップ品であったこを認識した薫であった。
薫が少しの無力感を味わった代償は15000Gであった。
それが高いのか安いのかは薫のみぞ知る・・・




