2ヶ月と10日目
そびえ立つ岩山を切り取るようにして激しく水が流れる。
シュトーから1日半ほど西にある渓谷。
「鉄ってどうやって作るんですか?」
今日の取り合わせは珍しい。
いや、取り合わせ自体は珍しくはない。
ここが青空の下でなく、宿屋『止まり木』の食堂であったならば、だが。
薫とパオパオの2人である。
先日、友人から相談を受けたパオパオは2匹目のドジョウを狙って薫に相談を持ちかけることにしたのだ。
その口実になったのが『ガンガンの胃』の採取クエスト。
『ガンガンの胃』は、各種回復薬の材料になることも多いが、市場に出回ることの少ない素材である。
パオパオは、薫がおそらく『調剤』スキルまで所有しているだろうと踏んで、口実にしたのだ。
彩加の食事を理由に一度は断られた。
しかし、その彩加が天音とあっきーの女3人で遠出をすることになった為、実現する運びとなった。
「一般的には砂鉄を製鉄します。
砂鉄は、大々的には段々に池を作り、その中に土砂を流すことによって得られます。土砂が池を順次通ることにより、軽い土砂は下手に流れ、重い砂鉄は沈殿します。何度か繰り返せば純度の高い砂鉄が採取できます。比重の差を利用しています。
もちろん同じ原理を用いれば簡単な道具で個人で採取できます。
そして、砂鉄は燃え上がる炭のすき間を落下する間に還元され鉄に変わります。
まず、炉を作り木炭をくべて、その上から数度に分けて砂鉄と木炭を入れ熱し続けます。70時間ほどすると、炉の下に鋼の塊が出来ます。
これが鉄ですが、不純物が多いので、上に浮いた不純物を取り除いてやる必要があります。
これが、’たたら’と言われる技法です。」
「すみません。
鉄鉱石は『鉱石採取』スキルで既に採取済です。それ以降の製造方法を教えていただけますか。」
先日、βの時の友人の1人が、この『シュトー』に辿り着いた。
彼はドワーフである。
森の民の首都『モーリ』は、さすがドワーフがいるだけに、鉄鉱石の採掘レシピもあった。
もちろん、自分で採掘できるようにNPCが指導してくれもするらしい。
『鉱物採取』スキルがないプレイヤーは、まずNPCの指導の元、鉄鉱石をツルハシで堀り出し、『鉱物採取』スキルを取得するプロセスだったらしい。
そして問題は鍛冶である。
『モーリ』であったとしてもNPC売りの性能以上の武器レシピがほとんど売られていなかったのだ。
そこで自分で剣を打とうとしたらしいのだが、コレが上手くいかなかったらしい。
ドワーフの友人もパオパオと同じく、剣の打ち方のデータは持ち込んでいたらしいのだが、どうやらそれ以前。鉄を精製する工程が必要になるらしい。
購入するレシピには、その精製過程も含まれているらしく、鉄鉱石で製作出来たことが盲点だったようだ。
今は、一度製作した剣をもう一度溶かして自分で剣を打ち直しているらしいのだが、それも限界が来ている。
「・・・」
薫は煙草を燻らせる。
その姿は、日の光を浴びてけだるげな様子と相まって、さながら一枚の絵画のようだ。
ダンジョンで幾日にもボールを廻し続けた日々が薫の脳裏をかすめる。
いや、街についてからもしたな・・・
その結果、薫も『鉱物採取』スキルを取得可能にはなっている。
しかし、インク作成の為だけに取得するわけにもいかず、先日『新素材登録』クエストとしてレシピと共に砂鉄を新素材として登録しておいた。
今は、いつ売られるか市場に目を光らせているところである。
「鉄鉱石でも基本はたたら製鉄と同じです。
製鉄は、鉄鉱石と石炭を蒸し焼きにし、鉄鉱石に炭素分4~5%を含ませればいいのですから。低い温度で石炭と化学反応をおこせば固体のまま、高い温度で化学反応を起こせば粘いあめ状の塊になります。その後、不純物を取り除く為に鍛えればいいのですよ。この行為と成形などを含めて、鍛冶です。」
薫は『水球』で『ガンガン』を葬った後、おもむろに説明を続ける。
その’間’をパオパオはあえて突っ込まない。
絶対、何かあったはずだ。
しかし、決して突っ込んではいけない。
突っ込んだら、自分が負けるような気がする。
薫は、煙草を片手に器用に『解体』スキルを発動しクエスト採取品『ガンガンの胃』をはじめとするアイテムを採取していく。
薫とパーティーを組んでないパオパオは、自動的に地面に落ちるドロップアイテムを拾う。
「「・・・」」
そっとパオパオが差し出した物を鑑定した薫は無言で『ガンガン』を倒していく。
それ以降の2人の会話はなかった。
パオパオが手にしたドロップアイテムは、その名も『鉄』。
そもそも、パオパオの友人はわからないが、薫が必要なのは酸化鉄であって鉄ではない。
そう思うしかない。
でなければ虚しさが押し寄せてきてしまう薫である。
パオパオも同じ心境だ。今までの会話が意味をなさない。
いや、薫を連れ出したことからして・・・。
その一度きりしかドロップしなかったのがせめてもの救いであった。
のか?




