2ヶ月と7日目(夜)
照明が落とされた宿屋『止まり木』の食堂。
薫は黙々と『新料理作成』クエストをこなしていた。
もうすでにこの『新料理作成』クエストは薫の独壇場である。
最近では、指名でクエストが大量に舞い込んできているくらいだ。
因みに、本日の予定は『煮込みハンバーグ』と『ソース焼きうどん』である。
まだまだ、トメトケチャップとソースを作ることしか出来てない現状、どうしてもケチャップ味かソース味の何かになってしまうのは致し方ないことである。
また、かん水が手に入らず、灰汁で代用するも、未だに配合がうまくいかず完成に至っていない中華麺のかわりに、シンプルに小麦粉とお湯と塩で出来るうどんで代用するのは苦肉の策である。
しかし、焼きうどんもまた焼きそばと違ったもっちりとした麺のうまさがあって、甲乙つけがたいのだからアリである。
厨房の見えるカウンターでは、女子トークが繰り広げられている。
先程までは、パオパオもいて一緒に飲んでいたのだが、何故か早々に引き上げ、その変わりにあっきーと彩加が参戦し、女子会へと変貌したのだ。
薫が差し出した果実酒による陽気さと深夜の変なテンションがブレンドされた不思議な空気の中、『聖なる乙男』の男性陣へのコイバナがなされていたのだが、所詮、廃ゲーマーな人物像に行き着き、むなしさのあまり、すべての会話をなかったことにした所である。
「なんで親切にしてくれたんですか?」
気を取り直して、始めに出会った頃に思いをはせる彩加。
実際、天音達に出会ってなかったら、これほどスムーズに街で生活できていなかったのではないだろうか。
「そりゃ、あの時期にダンジョン経営が出来てるぐらいのプレイヤーとはお近づきになってるほうが得だからよ。パオパオの指示でもあったし。」
天音の言葉にあっきーがうんうん頷く。
しかし、彩加は驚愕である。
「なんで、ダンジョンマスターってわかったんですか!?」
「そりゃ、あんなに『冀望』内の常識がなければわかるわよ。」
「えっ、常識が無いってどうゆうことですか?」
「・・・・」
「いや、気づいてなかったの?って言うか、常識が無いこと隠してる気だったの?
そっちの方がおどろきだよ。」
無言で固まった天音の変わりに、あっきーの容赦ない一言が彩加に突き刺さる。
「どの辺が常識ないって思ったんです?」
どうにも納得のいかない彩加である。
「どの辺って・・・全部だけど。」
いやな沈黙が3人の間につかの間流れる。
ひとつため息をついたのが天音かあっきーかはわからないが、2人のうち天音が説明を買って出ることにしたようだ。
「まず、私達を助けてくれたとき、遠距離の魔法攻撃してくれたじゃない。あれみて、私達、助かったって思ったわよ。はっきり言って、もっち吉より高火力の魔法攻撃だったし、誰か知らないけど「ありがとー」って思ったわよ。それが、レイピア持って突っ込んできたのが初期装備の女の子でしょ。レイピアも一番安い初心者のレイピアだったし。あの場にいた全員、『ド素人がひっこんでろ』って内心突っ込んだわ。ただでさえ、心もとない装備をだましだまししながらの戦闘で追い詰められていたところに、ド素人の乱入でしょ。かばいながらの戦闘なんてする余裕なかったからね。
それが、余裕で『ミミンガ』のことあしらってるし、薫さんにいたれば『氷塊』ではなく『水球』って微妙な魔法なのはおいといて、無詠唱で魔法ぶっ放すし。かなりの高レベルプレイヤーなのはわかったわ。
それなのに私達が知らないってってことはダンジョン経営者しかありえないわよ。」
せめて『水爆』とかなかったのかしら・・などと続く天音の言葉はあまり認識されることはなかった。
それよりも彩加は自分の正当性を立証するのに必死であった。いわく、自分は常識人であると。
「でも、でも、他の街の出身とか孤島出身とかの可能性もあるわけでしょ?」
「まずないわ。そもそも、どの街から始まっても、街から出るときには門番から通行料とか身分証とかの話を聞いてチュートリアルっぽいもの終わらせるものよ。
街への入り方知らないとか、お金持ってないとか、冒険者カード持ってないとか、色々ありえないから。」
「それだけじゃ、街出発じゃないことしかわからないじゃないですか。孤島だってありえるし。」
「孤島の場合、ある程度、島の文明が発達すれば定期船が運行するって設定よ。初期装備なんて論外よ。」
薫は常識外の人間であっても、自分は常識人だと自負していた彩加にとって衝撃の事実であった。
色々悟った彩加でる。
「薫さんの種族が吸血鬼って判ったときは早まったかなってちょっと考えなくもなかったけどね。」
そっと薫から差し出されたカステラを受け取りながらウィンクしを返す天音であった。




